プロローグ
我らが公国には【特務兵】がいる。
特殊な任務を課せられる彼らは、敵国内での破壊工作や、密入国者の捕縛、領土侵犯への牽制、そして時に単独で敵軍を壊滅させることもある。
公国には猟兵がいる。猟兵達の中から特異な能力を持つものを【公主】が選別し、【選別猟兵】となる。そんな選ばれし兵士の中でも特に秀でた能力を持つ者こそが【特務兵】として特殊任務に就く。
これは一人の特務兵による、長く苦しい戦争の物語である。
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山の中を走る、走る。その移動速度は山歩きに慣れた者のそれで、ヤブや木の枝、木の根があろうとも難なく走り抜ける。
選別猟兵隊【特務少尉】ユーリ。
ユーリに家名は無い。孤児院の出身だからである。物心付く前に孤児院前に捨て置かれ、両親の顔も名前も知らない。
孤児院の孤児達は十二歳になると独立を勧められ、十五歳の成人を迎えると追い出される。
ユーリは十二歳で軍に志願入隊した。何故かはユーリ自身分かっていなかった。
ただ幸運な事にユーリには兵士としての才能があった。
体力、走力、記憶力、判断力、そして射撃能力。入隊後一ヶ月で新兵を卒業し、猟兵隊に正式に所属した。
ユーリの進撃はそこで終わらなかった。
【公主によって選ばれた】のだ。選別猟兵となり、軍内部の研究施設で精密検査を受けると【特務兵】としての才能も認められた。
志願入隊からほんの二ヶ月ほどで特務中隊に席を置くことになった。
そこからは地獄の日々だった。朝日が登る前から訓練、大量の朝食を残さず食べ、また訓練。大量の昼食を食べたら座学、大量の夕食を食べたら、研究施設で特異能力の制御訓練。
おかげで成長期だったユーリの身長はグングン伸び、身体つきは精悍に、戦場で生き残る術を身に付けた。
ついでに言えばモテた。
親譲りなのか天使の輪の如く輝く金髪と、宝石に勝るとも劣らない美しい翡翠の瞳、軍人にはいない甘く優しげな顔立ち。
女性兵からの朝の挨拶だけでも数え切れず、休日の誘いや贈り物まで。
ユーリ本人は少しウンザリするほどモテた。
だが、ユーリに浮いた噂は無かった。
上司に忠実で、任務に誠実で、休日ですら訓練に励む。
小隊を組むこともせず、【支援兵】を付けることもせず、単独で任務に赴き、達成して帰還する。
彼が【特務兵】から【特務少尉】に昇進するまで時間はかからなかった。
何が彼をそこまでさせるのか、誰にも語ることは無く、ただひとり、孤独に戦い続ける。いつしか彼の周りに人はいなくなっていた。
今日もそうだ。任務遂行のため走り続けた。
木々の隙間から開けた場所が見えたので足を止める。慎重に近付くと見えてきたのはやはり敵国軍の陣地。兵士達の装備からしておそらく【王国軍】のものだろう。
山間の木々を切り拓き陣地を構築していた。我らが公国の領土を侵犯したうえ、資源を無断利用されている。
(ああ、いつも通りだ。いつも通りの殲滅だ)
敵軍陣地を周回するように歩哨が歩いているので一人また一人と丁寧に始末していく。それが終わればあとは時間との勝負だ。
陣地周辺に背嚢から取り出した爆裂罠を設置していく。爆発力に優れるが火が出ないので山林で活躍する。
罠の設置を終えたら最終確認。
ユーリの【特異能力】のひとつ、可変式散弾銃【ホライゾンMk.2】、ユーリの相棒だ。ホライゾンのマガジンに魔力を込め弾丸を生成する。
準備完了だ。
最後に背嚢から超高性能爆弾を取り出すと、敵陣地のド真ん中に向かって投げ込む。
大爆発が起きると敵兵士があからさまに混乱しているのが見て取れる。
「今の音はなんだ!何が起きた!?」
「歩哨との連絡が取れません!」
「陣地中央で爆発!小隊長殿!小隊長殿はいずこか!」
「熱い!火が燃え広がってるぞ!」
「痛い!痛い!誰か助けてくれ!」
敵兵士が我先にと陣地から跳び出てくる。だがそこには爆裂罠がある。
内は大火事、外には罠。敵軍が完全に混乱したところを相棒ホライゾンで撃ち殺していく。
人の声が止んだ。見渡すも動くものは無し。一応周辺を散策するが逃げ隠れた敵兵士も見つからない。任務完了。帰投する。
これが選抜猟兵隊【特務少尉】ユーリの、日常の一端だ。




