ゾンビ少女とサバイバル!?
――はぁ、はぁ、なんでこんなことに……!
灰崎 廻は、渋谷の街をひたすら走る。
疲労も忘れて、ただひたすら。
―三十分前
いつものように学校から帰宅した廻。
「ただいまー」
そう言って玄関を開けると、目を疑うような光景が広がっていた。
母親が父親を貪り食っていた。
血色が悪く、目は血走っており、正気を失っていた。
父親は痙攣を起こしていた。
「……は?」
すると母親がこちらを見て、飛びついてきた。
咄嗟に扉を閉め、そのまま逃げ出してきた。
――何がどうなってんだよ……!!あんなのまるで……ゾンビじゃないか……!!
そして見つけた一人の男性の肩に手をかけ、声をかける。
「あの、すみません……!」
その男性は振り返ると、唸り声を上げて廻に噛みつこうとしてきた。
「うわっ!」
廻は驚いて咄嗟にかわし、そのまま走って逃げる。
渋谷はゾンビで溢れかえり、地獄絵図と化していた。
頬を伝う水滴は、もはや涙なのか汗なのかわからない。
そして曲がり角を曲がると、一人の少女が座り込んでいた。
廻は声をかけた。
「君、大丈夫?」
すると少女は言った。
「……逃げないの?」
灰崎廻はその言葉の意味がわからなかった。
少女が袖を捲った時、言葉の意味を理解した。
腕に歯形がついていた。感染者だ。
そしておそらく発症もしているだろう。
だが廻にはそんなことどうでも良かった。目の前に感染者がいるのにホッとしていた。
"会話が通じる"。これだけでも救いだった。
それに――廻はもういつ死んでもいいと思っていたからだ。
友達もいなく、学校ではいじめられ、もうこんな世界に嫌気がさしていた。
そんな時にこのパンデミック。急すぎたから逃げたが、心が落ち着いた今となっては希望すら見える。
だが、助けて欲しそうな子を見過ごせるほど腐ってはいない。
「一緒に来る?」
廻はそう言い、手を差し出す。
その言葉に少女はキョトンとしたが、差し出された手を握り、行動を共にすることにした。
少女の名は巫 美琴と言った。
歩きながら、美琴は不思議そうに尋ねた。
「怖くないの?」
廻は答えた。
「自我があるのに見捨てられないよ」
その言葉に安堵したように美琴は一息ついた。
「そう……」
廻は尋ねた。
「あ、俺は灰崎 廻。廻でいいよ。美琴でいい?」
すると美琴は答えた。
「うん」
すると、路地裏から一体のゾンビが飛び出してきた。
――危ない!
廻は咄嗟に、地面に落ちていた鉄パイプでゾンビの頭を殴り飛ばした。
美琴は言った。
「ありが……とう」
「先を急ごう!」
廻はそう言って美琴の手を引いて走った。
そしてコンビニに来た二人。
廻は美琴に尋ねる。
「そういえば聞いていい?なんで感染したの?」
美琴は答えた。
「実験台。渋谷の中心に大きなビルがあるでしょ?その研究施設に悪趣味な教授がいて、その実験によって生まれたゾンビに噛まれた。どうやら私は抗体があるらしい。ゾンビになっても自我を失わない体質。世の中のためとか言って、自分のことしか考えてない。」
廻が尋ねる。
「世の中のため……?」
そして美琴が答える。
「うん。一度ゾンビウイルスに感染させて癌細胞を細胞ごと殺す。そしてそのあと抗体を打つことでゾンビを人間に戻し、癌を完治させる。けどそんなのは嘘。ゾンビ化は死。死者を蘇生させられるわけないんだから。」
そこで廻は思った。
――そんなことが……
そんなことを思っていると、大量のゾンビが押し寄せてきた。
「なんでこんなに!」
そう疑問に思い、廻は自分の足を見た。
美琴を庇った際に廻は足を切っていた。
その血に誘き寄せられて、大量のゾンビが寄ってきた。
――血……!気がつかなかった!
大量のゾンビがコンビニ内に入ってくる。
――まずい……!
廻がどうにか逃げ出す方法を考えていると、一台のトラックが突っ込んできてコンビニを破壊し、ゾンビたちをまとめて轢き殺した。
すると、トラックの運転席の窓が開いた。
運転していたのは二十歳半ばの一人の男。
「ふぅ……間一髪」
男がそう言うと、廻と美琴は目をパチパチとさせ、見開いて言った。
「だ、誰?」
すると男は微笑んで言った。
「乗れ」
廻と美琴は言葉に甘えて乗車することにした。
そして男は名乗った。
「俺は東雲 和馬、よろしくな!」
廻と美琴も名乗る。
「灰崎 廻です」
「巫 美琴……」
すると和馬が言った。
「タメでいいぞ!」
廻が安堵する。
「良かった、生存者だ……」
廻は自分の発言に少し驚く。
――ん?なんで生存者を見て安心したんだ?俺……
誰が生きてようがどうでもいいはずだろ……いずれは死ぬ予定なんだし……
和馬は廻に包帯を差し出す。
「ん、これ。血でゾンビ寄ってくるから、足に巻いとけ」
廻は受け取り、足に包帯を巻く。
和馬は、トラックで渋谷内を運転する。
そして和馬は尋ねた。
「そんで嬢ちゃんは訳ありか?」
美琴は少し驚いたが、答えた。
「うん、まあ……」
すると和馬は言った。
「そっか!」
美琴は不思議に思う。
――なんで……?なんでこの人たちは怖がらないの?私、ゾンビなのに
そして誰もいない立体駐車場に来た。
「立中って……ゾンビ映画の行ったら詰む場所TOP3には入ってるだろ……」
廻がそう言うと、和馬は笑った。
「ハッハッハ!」
廻は少し恥ずかしかったのか、顔を赤くして怒った。
「何がおかしい!!」
すると和馬は笑いながら言った。
「いやぁ悪い悪い、俺勘が良くてな。違ったら悪いが、廻さ、命なんてどうでもいいみたいな感じだったように思うんだけど、その発言――生きたいと思うようになってきたんじゃないか?」
廻は驚いた。
「……え?」
――そんなわけ……
そして美琴が廻に言う。
「そうだったの?じゃあ、私を拾ったのは……」
美琴がそう言いかけると、すぐさま否定する。
「いや違う違う!それはマジで!確かに、俺は死ぬつもりだった。けど、美琴を見過ごせなかったのは本当」
そう言うと、美琴は安堵した。
「そっか……」
すると美琴の手が少し痙攣し、美琴は自分の手を押さえる。
廻と和馬が美琴の異変に気付き、廻が美琴に言う。
「大丈夫か?」
美琴は答える。
「う、うん……ちょっと手が痺れて……」
その後も、美琴の体に異変が起こる。
美琴は顔が火照り、息切れを起こす。
「はぁ……はぁ……体が……熱い……」
廻と和馬は、美琴の体に何が起こってるのか察した。
――まさか
しかし、自分の体のことを一番知っているのは美琴自身。
美琴は廻と和馬に言った。
「置いて行って……」
すると廻は言った。
「置いていけるわけないだろ」
美琴は自分の体は完璧な抗体ではなかったと気づいた。
「私はただ、発症しても意識が消えるのが遅いだけだった……ごめん……」
和馬は言う。
「いやいやいや……大丈夫だって!なんとかなる!」
どうするか考えていると、立体駐車場にまで大量のゾンビが押し寄せてきた。
「マジかよ……よりによって広い方から……反対側はトラックじゃ無理だ……」
和馬がそう言うと、美琴がトラックから降りて前に出る。
「行って……」
廻と和馬もトラックを降りて美琴を引き止めようとする。
「お前も一緒に……!」
廻がそう言って美琴の手首を握ると、美琴は振り払う。
すると美琴はコートの中から、2丁の銃を取り出す。
廻は驚く。
「美琴……それ……」
美琴は言う。
「研究施設から逃げる時、パクってきたんだ。」
そして美琴は少し苦しみながら言う。
「いいから早く行って……!」
美琴が唸り声を上げる。
「うぅ……いいから……早く……行って!廻!!」
すると和馬が廻の手を引き、走る。
そして廻は和馬に言う。
「何してんだよ東雲!美琴は……!」
和馬は涙を流しながら言った。
「嬢ちゃんは、命懸けでお前を逃がそうとしたんだよ……!全員死んじゃ、あの子の気持ちはどうなる……!」
廻は葛藤の末、覚悟を決めて涙しながら先へ急ぐ。
――ごめん……いや、ありがとう……美琴……
美琴は涙を流しながら笑顔で、向かってくる大量のゾンビに銃を撃ち込んでいく。
――ありがとう……廻……
しかし、美琴一人に対してゾンビは大量。当然、無駄だ。
廻は、立体駐車場の坂を下る時、後ろを振り返ると、美琴がゾンビたちに押し倒され、食べられていた。
廻はその姿を見て、絶句する。
「ッ……!!」
しかし、美琴にに繋いでもらったこの命、ここで終わらすわけにはいかない。
そう――いつのまにか、廻は生きたい。そう思うようになっていた。
歯を食いしばり、その場を去る。
立体駐車場を出ると、和馬が廻に言う。
「このあと、どうする?」
そして廻が答える。
「目的地は決まった」
和馬が察する。
「まさか……」
そして廻が答える。
「ああ、渋谷の中心。あの研究施設だ」
そして二人は研究施設へ到着して忍び込み、二人の研究員を鉄パイプで殴って気絶させて銃と無塵服を奪う。
先へ進み、教授の元へ来た。
廻は教授に言った。
「お前か。悪趣味な教授ってのは」
すると教授は言った。
「悪趣味とは心外だなぁ」
そして廻は無心で引き金を引き、右腕を撃った。
銃を撃ったのは初めてだったが、何も感じなかった。
ただ虚無だけが流れていた。
「貴様……何をする……!」
教授がそう言うと、廻は言う。
「巫 美琴、知ってるよな?死んだぞ。お前のくだらない実験のせいで」
教授は笑った。
「そうか死んだか!いやぁ、いい女だった。でも感染してしまったから、追い出すしかなかった。感染したやつは命は無いに等しい」
そう言うと、和馬も銃で左足を撃った。
教授が床に膝をつくと、和馬は言った。
「今度は頭だ。容赦はしない。聞いたことだけ話せ。抗体はあるのか」
教授が答える。
「あるわけねぇだろそんなもん、ただの餌だよ。抗体をちらつかせれば、簡単に寄ってくる」
すると廻は言った。
「そうか……ならいい」
次の瞬間、教授の後ろにある5体のゾンビが入っている檻の鍵を撃ち、ゾンビが出てくる。
「や、やめろお前ら!」
教授はゾンビにから逃げようとするが、噛まれてしまう。
そして廻は言った。
「感染しちゃったかぁ、感染したなら命は無いに等しいんだよな?」
廻は教授の頭を撃ち抜く。
そして廻と和馬は5体のゾンビの頭も撃つ。
しかし、教授の血に誘き寄せられて研究施設内のゾンビたちが押し寄せてくる。
「やばいな……」
和馬はそう言いながら見渡し、一つのボタンに目が止まる。
「これは……起爆装置?」
そしてその隣に、一本の丸いガラス製の筒状のものに液体が入ったものがあった。
それは透明なケースに入っていた。
それを見て、廻が言う。
「なるほど……抗体は無いが、ゾンビを一掃するやつはあるってか……」
ケースは指紋認証になっていたため教授の死体を引きずり、教授の死体の指紋で開け、それを取り出す。
そして廻は、和馬に渡す。
「廻……お前一体……」
和馬がそう言うと、廻は言った。
「お前が持ってけ」
そう言い、ボタンに手をかける。
しかし、和馬が廻の手を掴み、制止する。
「バカか!!」
和馬がそう言うと、廻は言う。
「どうせ俺は死ぬつもりだった……!!ならお前が……!」
そう言うと、和馬は廻を壁に叩きつける。
「お前は嬢ちゃんに生かされたんだよ!こんなとこで死ぬな!」
和馬がそう言うと、廻が言う。
「じゃあどうすれば……!」
「"生きろ"!!」
和馬はそう言って、廻に渡された液体のようなものを廻に返し、研究室から追い出し、ドアを閉めた。
「東雲……!!」
廻がそう言うと、和馬は叫ぶ。
「走れ!!」
廻の両サイドからゾンビが押し寄せてくる。
そして廻は覚悟を決め、研究施設の窓ガラスを突き破り、隣のビルへと飛び移った。
それと同時に和馬はボタンを押した。
すると、ビル全体が爆発した。
そしてその爆風によって、廻はなんとか隣のビルの窓ガラスを突き破り、中へ入る。
――絶対に生き延びろよ……廻……
最後に廻の生存を望み――東雲 和馬はこの世を去った。
そして隣のビルに飛び移った廻は、屋上へと移動する。
――これで……全て終わるのかな……
そして最後の希望である、ゾンビを一掃できるかもしれない液体を、屋上から地上に落とす。
すると、ガスのようなものがものすごい勢いで蔓延する。
このガスが日本中に行き届くにはまだ時間はかかりそうだ。
だが、いずれは日本中に届くだろう。
――終わった……けど……
「美琴……東雲……母さん……父さん……誰もいない……」
そして灰崎 廻は――また孤独になった。
今回は完全版ということで、旧版は「救いがない地獄」
完全版は救いこそありますが「一人だけ生き残り、救いがある方が、かえって地獄」みたいな構図で、廻にとってはどっちがバッドエンドなのか……という感じです




