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榎田順一郎の日常  作者: 大堀英一郎
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第4話

商業ビルの怪異は江戸川先生とその仲間たちの活躍により、無事解決した。


え?その顛末?


この小説は冴えないおっさんの日常の話だぞ?


いや、決してこの小説が売れた際に、外伝として別売りしようとかそういう意図ではないぞ?


あくまで、おっさんの日常の話なのだから。


閑話休題。とりあえず、商業ビルの怪異は解決したのだが、その結果、ビルの地下から何体もの死体がゴロゴロと発見されたのだった。


「いやぁ。この下にも埋まっていますねぇ」

「そうですか。おーい!鑑識!この下も掘って確認してくれ!」


榎田は阪木原刑事に協力して死体発見器として使われていた。


「うへぇ。まだあるんですか?真新しい遺体から、白骨化したモノまで。これで10体目ですよ?」


後輩刑事が辟易としている。


「実はこのビルを建てた建築会社は暴力団のフロント企業でな。その筋の間では建築当時から怪しいウワサが流れていたんだ」


「それにしても、榎田さん。よく遺体がある場所がわかりますね?」

「まぁ。私も不動産の専門家デスからねぇ。よく見ると普通ではない特徴があるのデスよぅ」

「へー。そんな特徴あるんですか?」

「えぇ。例えば、ソコの壁。コンクリートが浮くように割れてますねぇ」

「え?ココですか?ホントだ」

「これぇ、有機物が膨張してコンクリートを押し上げているのディス。コンクリートって押しつぶすような力には強いのですが、割る力には弱いのディス。しかも、この有機物、とても大キぃディス。ヒトの大きさディスねぇ」


榎田もこれ程の死体に囲まれた事は無く、ただでさえ口調がヘンなのに、壊滅的な口調になっている。


「って、事はここにも遺体があるのか!なんて事だ!」


後輩刑事の顔色も真っ青になっている。阪木原刑事も顔色が悪い。


「これで、かなりの未解決事件が解明されそうですが、大きな騒ぎになりますね」

「私も、これ程、事件が重なり合ってイルトワぁ、思いませんディシタぁ。あ!ソコも掘って貰えますぅ?」

「ココにも?」


最終的にビルを丸ごと取り壊す事となったが、解体工事も度々中断された。遺体の発見が相次いだからである。壁や柱、床などにも遺体が埋め込まれており、確認出来ただけで28体もの遺体が発見されたのであった。


「確認出来たって、それ以外あるんですか?」

「碇さん、あれ以外にもぅ、溶かされた方とかぁ、燃やされて粉にされた方とかぁ……」

「ギャー!ムリムリ!」


ビルの解体が終わったのは、除霊してから半年も後の事となった。


除霊した日から丁度半年後、久々に江戸川先生も万城目不動産に顔を出し、あのテナントビル事件の発端となった四人が揃った。


「あのビルもやっと解体されました!榎田さんも地下の基礎のさらに下まで確認させられて、大変でしたね!」

「確認依頼をぅ、勝手に受託したのはぁ、碇さん、アナタなんですけどねぇ」


ただでさえ冴えないおっさんだった榎田は、この半年でさらに老け、冴えないおっさんに拍車が掛かっている。


大掛かりな死体遺棄現場だったので疑われたのだが、やはり大きな竪坑に棄てられた遺体が見つかった。


今は遺体のカケラでもあればDNA鑑定で調べられるのだ。警察としても暴力団を追い詰めるチャンスを逃す気はなかったらしい。斎藤署長も最後に警察庁への栄転が決まったそうだ。


「あの暴力団と対立していた組の幹部だったようだね。任侠を重んじる親分さんで、私の幼い頃は結構大きな組だったのだがね」


地元密着の万城目社長とはいえ、健全な不動産屋では裏社会の動向にそこまで詳しい訳でも無い。暴力団同士の抗争では、知らない事も多いのだ。


阪木原刑事達の調べでは、例の暴力団はあのテナントビルを利用して、死体遺棄を請け負っており、他の暴力団などにも捜査の範囲が広がっている。


「その請け負い仕事の中でぇ、あの現場で拷問がぁ、行われてたそうなんですぅ」


初めは死体を受け取るだけだったが、殺害の現場としても利用されるようになり、殺害前に情報を引き出す場としても使われたのである。


理不尽な拷問を受けた霊が恨みを残し、恨みを持った霊が増えた事で霊障の切っ掛けとなった。


霊障に巻き込まれた被害者がさらなる霊障を引き起こし、祟り神となる寸前だったのだ。


江戸川先生一人でどうこう出来る規模ではなかった。


「私も、この半年、引っぱりダコになって大変でしたわ」


江戸川先生とその仲間たちは、あの事件で名を上げた。あくまで御祓い業界内の事でだが。


世間一般には暴力団の凶悪事件として、オカルト界隈には連鎖悪霊事件として記録される事となったのだ。


「でも、あの日、あれだけの御祓いをした事で、私たちの霊力もずいぶん増えたのよ。ゲームではないけれど、レベルアップしたのかしら?」


しかし、騒ぎになったのも一時の事で、半年も過ぎた現在では既に飽きられて過去の出来事として扱われているのだった。


「それはそれとして、榎田さん。一つ診て貰いたい家があるのだけど、よろしいかしら?」

「えぇ。江戸川先生のご依頼は断れませんからねぇ」

「あの事件の前から取り掛かっているのだけど、なかなか手強くて。いえ、力が強いって訳ではないのだけど、何かすれ違うというか、手応えが無いっていうか……。兎に角、一度診てくれません?」

「もちろん、喜んで診ますよぅ」


そう、江戸川先生に請われて来たのはかなり年期の入ったボロアパート。今回は管理している不動産屋の女性社員が案内を兼ねて立ち会っている。


「あの角部屋なんです」


不動産屋の社員がアパートの一階を指差す。その部屋で孤独死した中年男性がいたそうで、その中年男性が成仏してくれないのだ。


「私も霊感なんて無いんですけど、私達ですら、微かに男性が見えるんですよ」


まだ悪さをする事は無いのだが、恨めしげなおっさんが佇んでいるだけで恐ろしい。とても部屋を貸すどころではない。


「元々建て替えようとしていた物件なのですが、強引に取り壊すと、それを切っ掛けに悪霊化しそうだって江戸川先生に止められまして」

「まぁ、そうですねぇ。上手く成仏してもらえればぁ、それが一番ですからねぇ」


たいていの霊は何か心残りがあって、この世に居座っているのである。その心残りをなくしてあげれば素直に成仏してくれるのだ。


「それでは、診てみますねぇ」

「わ、私はここでお待ちしております!」


不動産屋の社員は敷地にも入りたくないらしく、アパート前の道から動こうとしなかった。

榎田としては、立ち会いの証人になって貰えばよいので問題ない。


「ではぁ、ここでお待ち下さいぃ。それ程、時間が掛かる事ではありませんからねぇ」


榎田が問題の部屋に入ると、一人のおっさん幽霊が壁に向かって座り込んでいる。


「うーん。死因は心臓発作でしたしぃ、特に恨みを残している訳でも無さそうですねぇ」


おっさん幽霊は、チラリとコチラを見るが、直ぐに壁へと顔を戻して項垂れる。が、またコチラを見ると、シャカシャカと四つん這いで這い寄って来た。


「お、お前、霊媒師だろ!お前みたいな、冴えないおっさんを待っていたんだ!」

「うわぁ!霊の声が聞こえるなんてぇ、初めてですよぅ」


榎田も驚いたが、どうやら成仏せずに長くここに留まって居たために、おっさん幽霊の霊力が溜まっていたらしい。一般人にもその姿が見える程に高まっていたのだ。元々、霊が見える榎田には声も届いたようだ。


「いや俺もさ、迷惑だとは判っているんだよ。でも、自分でもどうしようもなくてさ」


おっさん幽霊も、成仏しようとはしたらしい。だが、自分でも不思議な事に成仏出来ないのだ。


「何かぁ、心残りはありませんかぁ?ご遺族が心配だとかぁ?」

「いや、俺は天涯孤独だからね。そういったのは無いんだけど、心残りと言えば一つだけある」


どうやら、その心残りが引っかかり成仏出来ないらしい。


「死ぬ前の日、いつもの通勤路。何時もよりも早めに帰って来たんだけど、そこの公園に停まっていたんだ!」

「はぁ」

「マジックなミラーのトラックが停まっていたんだよ!」

「あぁ。なるほどぅ。心残りはそれですかぁ」

「そりゃあ見たいだろ?確認したいだろう?もう、気になって、気になって。心残りでなぁ」


榎田もおっさんなので、マジックでミラーなトラックは知っている。


「それならぁ、そう言えば良かったのにぃ」

「あんな美人の先生にそんな事、言える訳がねぇだろ!あんたみたいな冴えないおっさんだからぶっちゃけられたけどさ!」

「まぁ、気持ちは、分かりますよぅ。私としては複雑ですけどねぇ」


榎田はその日、ポータルのDVDプレーヤーを用意し、該当のビデオをセットして帰った。


その夜、一人の幽霊が昇天し、霊体を診るだけだったおっさんは霊力が上がったのか、霊の声が聞こえるようになったのであった。


「榎田さんもこれで御祓い師の仲間入りね!」


江戸川先生は祝福してくれたが、榎田はボヤいていた。


「診るだけだった方が静かでよかったですねぇ。今じゃ、余計な声が聞こえてぇ、落ち着かないですぅ」


どうやって広まったのか、榎田は成仏出来ない霊の間で有名になったらしい。たまに幽霊から榎田が指名されるようになったのだった。


どっとはらい。

とりあえず、この話はこれで完結にします。

何か思い付いたり、キャラが動き回ったら、お話を追加するかもしれません。

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