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第15話 天使の悩み

 私は夜道を一人で歩いている。


「なぁ、今日の天使ちゃんねる見たか? すっげーヤバかったな!」


(む)


「ああ。天使ちゃんが本当に殺されるかと思ったよ。助かって良かったけど……あのあとどうなったんだろ。……あの男に殺されてないといいんだけど……」


(あ、そういう視点もあるんだ)


「糞! あのリーマンも余計なことしてくれたぜ! せっかく天使ちゃんが殺される所見れそうだったのによ! 天使ちゃんがデスケルベロスに殺されればついでに服が裂けて部位的な裸が見れるかも知れなかったのに!」


(……気持ち悪い)


 私の話をしているにも関わらずすれ違う人々は私に気づかない。エレナさんから渡された眼鏡型の魔道具の効果は正常に作動しているようだ。1億円で買った自前の存在隠蔽魔工器具もあるのだが生憎デスケルベロスに壊されてしまった。なので今はこのメガネが命綱だ。サイズが合わないのか時々ズリ落ちてくる眼鏡の位置を直していると、


「あっ!」


 ふと、道路の曲がり角のミラーに映った自分の姿を目撃してしまう。フリーズする。私はしばしの間鏡に映った自分の姿に見惚れ、気づけば口元に手を当て「ほぅ」とため息を吐いていました。


「眼、眼鏡をかけていても滅茶苦茶可愛いですぅ……はっ! いけない!」


 図に乗ってると言われるので配信では絶対言えない言葉を吐いてしまった。女性の視聴者は怖い。すぐ叩く。普段からボロを出さないように気を付けなければ。そういう油断がいざというとき致命傷になる。私は油断ができない立場なのです。


 それだけのものをもう積み上げてしまった。意図せずして。たまに窮屈になります。


「……それにしても、信じられません。まさか、B級ダンジョンにデスケルベロスが出現するなんて。そして――」


 デスケルベロスから私を守って戦った見慣れた背中を思い出す。それだけで顔が熱を帯びる。瞳を細め遠い記憶に焦点を合わせながら私は呟きました。


「まさかあの人に助けられるなんて。あんな強いとは思わなかったな……」


 動画配信で幾度も見たあの背広。一目で分かった。


 彼が私が探していた人だって。


 彼を探すために私はウォールピラミッドを訪れた。彼が新宿周辺を生業にした冒険者だってことくらい配信を見ていれば分かるから。


 私は彼のファンだったから。


 正体を伝えたかった。


 でも、伝えなかった。


「……だって、そんなこと言う資格、ありませんもんね」

 

 何せ私は彼を傷つけた。


 そのせいで彼は動画配信を辞めてしまった。


 会ったら謝ろうと思ってた。勘違いだって。


 でも、もう遅かった。


 彼はもう配信を辞めてしまった。そして戻る気もない。目を見れば分かる。


 あれは動画配信に心折られた人間の目だ。同じ配信者の私には分かる。


 そのトリガーを結果的にだが引いたの私だ。


「嫌われてますよね。引きずってますよね。まだ。だってアカウントブロックされてるし、配信するときの目が暗かった。それは全部私のせい。……謝ったら、私のアカウント名を伝えたら、きっと彼は私を嫌う。……もう少しだけ待ってもいいですよね」


 私は決断の先延ばしを選択しました。人には時間が必要なこともあります。焦る必要はどこにもないでしょう。


 それはそれとして、決断しなければいけないこともある。


「恩返し、どうしましょう。命を助けられたのだから私の人生を捧げるくらいしないと釣り合いが取れませんよね。どうしたら……あ! そうだ!」


 私は思わず手をバチンと叩きました。そして、たった今閃いた妙案とこれからの未来を想像して含み笑いを零しました。


「凄く、楽しいことになりそうです」


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