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第六話 そして時は現在へと

 「――……はっ……!?」

 そんな夢を見たのは、汗ばむような初夏のせいだろう。

 目覚めた飴玉に襲い掛かる、首筋の嫌にべっとりとした感触。

「見ないように気を付けてたのに。なんで今更……」

 手ぬぐいで汗を拭うも、その所作は何処か苛立っている。

「忘れてなんか無いのに。思い出させるような夢、見させないで」

 ――師匠の死から、一年の時が過ぎていた。

 孤児仲間達の墓もある程度作り終え、一周忌のお見舞いも済ませた頃。

 今の飴玉は、とある宿舎で寝泊まりをする日々を続けていた。

『ゴォン……ゴォン……』

「さて小僧共、朝だぞ。早く起きて支度をせい」

 部屋の外から聴こえて来たのは、朝の鐘と男の声。

 飴玉は慌てて身支度を整え、男が待つ庭へと急いだ。

「宮廷に仕えようという者が、鐘を合図に目覚めるとは。お前らもまだまだやな」

 ……そこは、この国【(りえん)】が誇る――美しい園林だった。

 睡蓮が咲き誇った池と、傍に建てられた東屋や、木々の並びは特に壮観。

 その景色が朝日に照らされる様子は、確かに飴玉も嫌いではない。

「(ここが宮廷じゃなければ、普通に綺麗だと思えただろうに)」

 ――宮廷。女帝を始めとした、帝に仕える貴族らが住まう都。

 飴玉はこの宮廷の専属調香師。厳密には、その【候補】の一人だ。

「ええか、品評会は来週や。そこであのお方が直々にお前らを見極めて下さる」

「わかっていますよ、そう何度も仰られなくとも」

「おうそこ、偉そうにすんない。早々に失格になりたくないやろ?」

 飴玉の隣に並んでいた少年が、少し生意気に口走った。

「まあとにかく、今日も気張りや。せいぜい点稼ぎのつもりで奉公せぇ」

 そうして男による朝礼は終わり、それぞれが仕事場に散っていく。

 だが飴玉だけはふと引き留められ、近くの東屋に場所を変えた。

「どうや、新入り。ここでの生活は慣れたか」

「何とか。相変わらず朝は苦手ですが」

「まあお前は飛び入りやったからな、多少のキツさは仕方ないやろ」

 すると男は飴玉を抱き寄せ、耳元に口を添える。

「でもなんやったら、俺が特別に計らってもええんやで?」

「……それは、どういう意味でしょう」

「疎いやっちゃな。まあこう言ったらなんやが、他の奴には花がないやろ。だけどお前は違う。なんかこう、気品があるんや。とても平民とは思えんぐらいにな」

 当然ながら教えていない、飴玉が女帝の子だという事は。

 ここでの飴玉は、調香師を目指す一介の平民に過ぎない。

「ちょっとだけ楽しませてもろたら、なぁ。まあ色々と便宜も図れる……」

「お気持ちはありがたく受け取らせて頂きます。ですが、仕事がありますので」

 ――こんな男に付き合っている暇はない。

 と言わんばかりに、飴玉はそそくさと東屋を後にした。

「ふふ、釣れんやっちゃな。まあそこがソソるんやが……」

 飴玉は遊びでここに居る訳では無い。

 ましてや夢だとか、目標だとかに浮かれている訳でもない。

 全ては、復讐を遂げるため。

 ――師匠殺しを命じた、母なる女帝に……。

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