第四十五話 豪華な朝ごはん
「大変お待たせ致しました。真鴨の前菜に御座います」
――『大仰な朝食だ』、と飴玉は内心呆れる。
淑女が円卓に並べたのは、鴨肉を添えた和え物の前菜だ。
そのまま続けて、フカヒレを入れた黄金色のスープ、彩り豊かな炒飯などが運ばれ。円卓はあっという間に、豪華絢爛な料理で埋め尽くされてしまう。
「言っとくがな、俺の昨日の朝飯は卵かけご飯だ」
「……いやなんの補足ですか、それ」
呆れていた飴玉に、緋蓮がそっと耳打ちをした。
「こんなもの俺は作らせていない。俺は普通の朝飯を頼んだはずだぞ」
「じゃあ誰が作らせたって言うんです?」
「いや、それはわからないが。少なくとも俺は、朝からこんな御馳走を食ったりしない。多分変な奴が悪ふざけでもして、メニューを……うん?」
と、緋蓮が言葉を言い終える直前の事だった。
緋蓮は何かに気づいた様子で、扉の方を見つめる。
「……あ」
それに釣られた飴玉も、同じように気がついた。
『やばっ。おい散れ、散れ! 怒ったら怖いぞあいつ』
扉の隙間から聴こえる、その微かなヒソヒソ声。
「はぁ……全く、一体何をしてるんだか」
飴玉は彼らに気づかれぬよう、こっそり席を立ち、勢いよくガラッと扉を開いた。
「わぁっ!?」
「――そこで何をやってんですか、《煌龍》様」
廊下に居たのは、煌龍。そして数名の野次馬だ。
慌てて逃げる野次馬達に紛れて、煌龍も立ち去ろうとするが。飴玉が襟の部分をガシリと掴み、そのまま部屋に連れ込んだ。
「わかった悪かった! 私の負けだ、認めてやる!」
「別に勝ち負けを競ったつもりはないんですが……」
すると煌龍は両手をあげ、降伏の意を示したので。飴玉は仕方なしにと手を離す。
「はぁ〜。いやなに。あの女嫌いの軍師が、とうとう女に興味を持ったという噂を聴いてな」
「――んぐっ!?」
「聴けばその相手は、なんと飴玉。お前だと言うじゃないか。こら遊ぶしか無いだろと思ってなぁ」
「なっ……はぁ!? いやそんなっ……ぬっ……はん!?」
「人の純情を弄ぶのも大概にしなさいよ貴方……」
「ふふ。飴玉は気が強いぞ、お前に御しきれるか?」
煌龍は緋蓮を肘でグイとつつき、あからさまにからかう。
「はぁ。……で、本当の所はどんな御用なのですか。食事を“三人分”運ばせたという事は、貴方もここで話したい事が何かあるのでしょう」
――飴玉が見つめたのは、料理を取り分ける用の小皿。
明らかに小皿と箸が一人分多く並べられている。
つまり最初から、煌龍も食事に参加するつもりだった――。
「いやはや。相変わらずお前は話が早くて助かるな」
すると煌龍は満足気な顔で、上座の席へと腰を下ろす。
(※部屋の入り口から、最も遠い席が上座になる)
「ま、とりあえず座れ。お前らにも関係がある話だ。――この宮廷に潜む、【裏切り者】について……だな」