表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/6

神咒再構


咒術神システムのウィンドウが、脳裏で明滅している。


周囲の景色が黒く染まり、時間も空間も“意味”を失い始めていた。

瓦礫の街が溶け、空は逆さに折れ曲がる。

この領域にあるすべてが、“俺の術式”の副産物だ。


【警告:主の自我が分離を始めています】

▸ 存在概念の再構築中

▸ 識別不能な記憶領域を検出

▸ 人格連結:リア/旧ログコード No.0

(……リア)


かすかに残った“人間としての意志”が、その名を思い出す。

手が、震える。

「Y」に指を伸ばせば、この世界の法則そのものを“書き換える”ことができる。


だが、それは“俺”が“俺じゃなくなる”ということ。


(人として、生きるか)

(呪いとして、すべてを壊すか)


そして今、システムの奥から――“何か”が、話しかけてきた。


『選べ。呪われた者よ』

声は“神”のものではなかった。

どこまでも冷たく、無機質で、無名の存在が言葉を吐いている。


『貴様が求めるのは、復讐か。それとも赦しか』

『貴様が欲するのは、存在の肯定か。それとも、消滅の権利か』

(俺が……欲しかったのは……)


視界の中で、記憶が崩れる。


・一度目の死――呪霊に喰われた。

・二度目の死――仲間に裏切られた。

・三度目の死――システムが作動せず、首を吊った。

・四度目の死――……自分で、自分を殺した。


……


百回目の今に至るまで、何度も、何度も繰り返してきた。


だが、その中に“たった一つだけ”、忘れたはずの記憶が混ざっていた。


リアの声。


「“もし、私がいなくなっても――あなたは、自分を信じて。”」


(ああ、そうだ。

 俺は、誰かを守りたくて……それで、呪術師になったんじゃなかったか)


それすら忘れていた。

呪いの中で、死の中で、復讐だけが俺を動かしていた。


だけど。


(……まだ、間に合うかもしれない)


【選択が確認されました】

【神咒再構:一時停止】

【条件付きで再実行可能】

俺は、「Y」に触れなかった。


だが、それが“否”だとは限らない。


咒いを継ぎながらも、人としての形を失わない道。

それは不安定で、危うく、いつ壊れてもおかしくない境界線。


だが、今の俺にはそれが――“正しい答え”に思えた。


【補正モード:可変人格構造/変遷型呪力格納】

【新状態名:「反呪存在ノンゴッド・タイプ」】

→人間でもなく、神でもなく、“呪いでもない”

景色が戻ってきた。


音。熱。リアの声。

遠くに見える特級術師部隊の残骸と、灰色の空。


だが、その中心に立つ俺の身体には、もはや“以前の力”とは違うものが満ちていた。


【新スキル:咒式《識花・リア》を取得】

▸ 効果:領域内に存在する“心象の咒い”を視認・干渉可能

▸ 特殊効果:対象が“忘れた記憶”に干渉し、精神干渉型反射術式を展開

(リア……お前の“名前”が、俺の術式になったんだな)


リアの姿が、崩れゆく空の中にぼんやりと浮かぶ。


彼女は静かに、俺を見ていた。


「ありがとう、カグラ」


その声が、はっきりと心に届いたとき、

俺はようやく、“選んだ”という実感を持った。


術式《識花・リア》――それは、“心象の咒い”を視る力。


咒力という名の傷痕。

術式の裏側にある、忘れられた痛みと願い。

その最深部へ、俺は今――降りていく。


景色が、また変わる。


気づけば俺は、どこかの水面に立っていた。

空も、地面も、すべてが“心の中”だと分かる。


【咒術神システム:精神領域・深層記憶圏へアクセス中】

【目的:存在の再定義補正/封印された第一死の記録抽出】

足元の水が波紋を描く。

その中心から、ひとつの“影”が浮かび上がってきた。


それは――俺自身だった。


けれど、“今の俺”とは違う。

まだ何も知らない、術も使えない、ただの“人間だった頃”の俺。


「やあ。よく来たな」


影は笑った。

軽く、無垢で、どこか……悲しげに。


「ここが、お前の始まりだよ。カグラ」


(……これは、“最初の死”?)


「そうだよ。お前が思い出さないように、ずっと奥底に沈めてたやつ」


影の指が、水面をなぞる。


すると、場面が変わる。


古い住宅街。

夕暮れの空。

少年の俺が、血だらけで誰かの手を握っている。


――それは、“死んだ少女”。

制服姿。髪が白い。


リア。


「……リア、だったのか」


「うん。最初の死で、お前はリアを“助けられなかった”。

 呪霊に襲われ、何もできず、ただ泣いていた。

 そして、願った。“あのときに戻りたい”って」


その願いが、咒いになった。

咒いが“契約”を生んだ。


そうして、“咒術神システム”が、お前の中に組み込まれた。


「なるほどな……始まりは、俺の咒いだったのか」


「そう。

 リアを助けたかった。

 世界を壊したかった。

 でも本当は――“自分を赦したかった”んだ」


影が手を差し伸べる。


「行けよ、カグラ。今度こそ、後悔しない選択をしろ」


「……ありがとな、“俺”」


その瞬間、影は光となって砕けた。


【精神干渉:完了】

【咒術神システム・人格軸補正:再構築開始】

【記録:第一死の記憶を統合しました】

→ 祝福条件達成:人格の主権を取り戻しました。

現実に戻ったとき、咒術神システムは沈黙していた。


警告も、ログも、命令もない。

ただ、静かに――“従っている”。


【新状態:「反呪存在・安定フェーズ」】

▸ 死亡リスタート機能:封印

▸ 全術式起動率:112%

▸ 個別構築スキル「識花・リア」進化:可能

風が、変わった。


リアが傍に立っていた。


「おかえり、カグラ」


俺は、静かに頷いた。


「……ここからが、本番だな」


「うん。今度は、世界の呪いそのものと戦うのよ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ