開幕
『あなたたちの中で転生できるのは一人だけです』
その無機質な機械音は淡々とそう放った。
多分それが始まりの合図だった。
この先の長い長い地獄への。
・・・
「いってきまーす」
祖母にそう声をかけて家を出る。
少し遅れてドア越しに、いってらっしゃいという声が聞こえた。
どんなに急いでいても、私はこのやりとりだけはこなすようにしている。
別にこの行為になにか意味があるとは思えないのだけれど、言わずに出かけると祖母が悲しそうにするからしかたなく言っているだけのようなもの。
眠い目をこすって、あくびをしながら登校する。
だいたい寝不足気味だけれど、今日はまた一段と眠たかった。
理由は夜遅くまで、動画を見たりゲームをしたりしているからなんだから自業自得なんだけれど、誰かのせいにして脳内で言い訳をする。
このままじゃ大学行けないかも、と危険視してはいるものの何だか未来をうまく想像できなくて、結局目の前の安寧に身を委ねてしまっている。
きっと大抵の人間がそうなものだろう、と言い聞かせて私は足を早めた。
こういう無性に眠たい日は、さっさと学校に向かって保健室で眠るに限る。
駅の階段を駆け上がって、いつもより一本はやい電車に乗ろうとしたのだが定期の残金不足で結局いつも通りの時刻になってしまった。
ついてないな、とため息を吐きながらホームに並ぶ。
私は降りてきた階段から一番遠い乗口へと進む。
皆めんどくさいからかここから乗り込む人は少なく、席も空いていることが多い。
思惑通り、そこに並んでいる人はいつも通りおらず、一番乗りで並ぶ。
後もうちょっとで来るなぁ、なんてスマホをいじりながら考えていると、突然視界が揺らぐ。
「え?」
何が起こったのかよくわからないまま、強く体を打ちつける。
ああ、落ちたんだと理解するまで数秒かかった。
そして、誰かに落とされた、ということを理解するのにもまた数秒かかった。
一体誰がと体を動かそうとするが、結構強く打ち付けており、なかなか思うように体が動かない。
助けを呼ぼうにも声さえうまく出てくれない。
私以外この辺で待っていた人はいなかったから、誰か助けを呼んでくれるということも期待できない。
こんなことになるなら、もっと人のいる場所で待てばよかった。
強い光が前方から指してくる。それが電車のものであることはすぐに理解できた。
死ぬんだな、と思った。
別に今更後悔するほどのことはなかった。
ここで私が死んだら色んな人に迷惑がかかって電車が止まっちゃうなぁとか、家族に迷惑をかけるなぁとか。
そんな事は考えていなくて、ただ、死ぬならもっときれいな場所が良かったとだけは思った。
どんどんと光は近づいてくる。
走馬灯が見れるかもと若干期待したが、結局最後に見たのは迫りくる電車の車輪だった。
・・・
チカチカするほど、眩しい場所で目を覚ます。
本当に天国って存在したんだ。
祖母が昔からずっと言っていたけれど、まさか本当に存在してただなんて。到底信じられない。
体を起こして、周りを見渡す。
周りはすべて真っ白でところどころ光っていて、何だか現実味がなかった。
目が段々とこの眩しさに慣れてくると、ふと向こうに人がいることに気づいた。
少し奥まっていて部屋のようになっている場所。
その部屋だけは白色じゃなくて人影があることも相まって、一層目立っていた。
私は慌てて、近くによる。
そこには五人の男女がいた。
着ている服も、顔立ちもぜんぜん違うが、年だけは割と近しいものがある。
皆黙っていた。私はどうしていいかわからず、かといってどこかに行く先もないため結局入ることにする。
私が入ってきて、一人は少し驚いたような顔をして、その他の人はそれよりも思考に費やしているような感じで興味はなさそうだった。
まるで私が入ってきたのを見計らったように、ピンポンパーンポーンといったチャイムが鳴った。
『皆様はじめまして。あなた達は死にました』
そしてどこからか機械的な声が部屋に鳴り響く。
その声は機械音なのに、誰一人声を荒げることさえ許されないような妙な圧力があった。
機械音声は続ける。
『でも、可哀想なあなた達に転生のチャンスを差し上げましょう』
ただし、と続けた。
『あなた達の中で転生できるのは一人だけです』
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では、また次のお話で