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森の中で

 シーンとなった教室内で、今中という女がイスを引く音だけが響いた。

 今中は平然とした顔で黒板を見つめている。


 コイツはヤバい。

 そう思った。直感で。


 見た目は美少女だ。

 多分、このクラスで1位2位を争う可愛さではないだろうか。

 でも、俺は確信する。


 コイツは変人だ。






 その後の教室がどんなに緊張したかは・・・分からないだろう。

 今中が自己紹介を行った後、

 その次の女子が言うか言うまいか周りをキョロキョロ見渡しているし、先生はメガネがずれているのに気付かず今中を見つめてるし、他の子も今中を(特に女子は)クスクス笑いながら見ていた。


 「えー・・・まぁ、ジョークもいいですねぇ。ハイ」

 と先生が言う。

 先生、それで乗り切ったつもりか・・・・・・。


 「では次」

 先生が一言いうと、クラスはまた活気を取り戻していった。






 入学したてということもあり、俺ら1年生はHR後、すぐ帰ることになった。

 でも、帰る準備をしているとモノズキな男子やら女子やらが今中の机の周りによってたかって質問攻めをしていた。


 「海賊って? 貿易会社の間違いじゃねぇの?」

 ある男子が言う。

 「わたしは真実を言ったまで。信じるか否かは貴方しだいよ」

 今中がニコニコしながら言う。まるでバカにしてるみたいだ。

 「でっでもぉ、海賊とか最近いるって聞くしねぇ? ・・・・・・って、それじゃぁあなたのお父さん犯罪者??」

 ある女子が今中をかばいながら、途中で路線変更をし父親のことを犯罪者呼ばわりし始めた。

 おいおい・・・まぁ確かに人身売買する海賊はここ数年増えてきてるけどね。


 「ううん。そんなんじゃない。パパはとっても優しいの」

 今中が答える。

 ・・・って、パパって読んでるのか? ほんとに海賊ならパパとか呼ばせなさそう。

 やっぱ、嘘か。


 俺が変える準備を整えてカバンを肩に掛け教室を出て行こうとしたとき。


 「ほんとだよ。じゃあ今日、ウチ来る?」


 はーい問題発言はつげ――ん。

 いいのか、こんなこと言って。

 この1年間、いやヘたすりゃ3年間はうそつき呼ばわりだぞ。


 ホレ見ろ。周りの人間どもが笑ってら。

 だーれも行かねぇだろうな。


 そんな俺の予測は、外れた。


 誰も一言も発しないこの異様な空気。何とかしてくれ。

 野次馬らも困惑した顔で顔を見合わせている。


 そんなときに、野次馬の輪の中にいなかった女が手を上げた。


 「はい。アタシ行く」


 えっ?

 あなたもしかして、俺のマイスイートハニー、藤原ゆいさんでは?



 藤原ゆいって言えば、俺の元中でめっちゃ有名なめっちゃカワイイ女の子だ。

 茶髪のフワフワとしたその髪を撫でてやりたい。ってかお願い。撫でさせて。


 いいや、今はそんなことどうでもいい。

 さっきの問題発言part2をどうにかしないと。


 「え? 藤原さん行くの?」


 俺は声をかけた。

 藤原さんはニッコリ天使のように笑って、

 「うん。だって海賊ってとてもカッコいいんだもん」

 と言った。


 「そう。じゃあ決まりね」

 今中が言う。


 おいおい、いくら嘘でも藤原さん一人で行かせるわけにはいかん。

 よし、俺も行こう。


 


   + + +




 そんなわけで帰り道は、俺と藤原さんと今中という中途半端な組み合わせになった。

 なぜか藤原さんと今中は気があっていて、俺一人取り残されている。

 その2人の会話に耳を傾けてみると・・・・・・


 「ありすちゃんのお父さんって、どんな人?」

 「んーとねぇ、すごく優しいんだけど、お酒に関してはうるさいなぁ。なんかさ、どっかの貿易船からお借りしたお酒らしいよぉ」

 「お借りって・・・それって盗ったって事? カッコいい―」

 「でしょぉ??」


 てなわけで、俺は話に入りたくても入れない状況。

 海賊とかいないってわかっててもこの2人の話聞いてると、なんかそっちの世界へ引き込まれそうだ。藤原さんも今中もどうかしてるよ。




 っと。

 俺の周りの紹介だけで俺の自己紹介がまだだったな。すまん。作者の計画性のなさが伺えるだろうか。

 俺は神谷秋かみたにしゅう。“俺は”まっとうな道を歩んでるんだが、藤原さんといい今中といい、俺の周りは以上なほうにのめりこんでる。

 ほんとに助けて欲しいもんだ。

 

 挨拶はこの辺にしといて。

 俺たちはなぜか海賊とは関係ない森に向かっていた。


 「ねぇ、ありすちゃん。ほんとにここ?」

 「そうだよ。ま、行ってりゃ分かる。早く行こ?」

 「う・・・うん」

 「・・・・・・・・・・」

 

 藤原さんもこの町出身だからこの山の事は知ってる。

 藤原さんも気が乗らないようだ。

 

 なんたってこの森はこの辺では知らない人はいない、人食い森だ。

 この森を訪れた何人もの観光客が行方不明になっている。

 この前新聞で見たんだが、この森で行方不明になっていた1人が白骨死体で見つかったとか。

 やっぱ怖い。帰ろうかなぁ・・・。


 俺が情けなく後ろを振り返った時、すでに森の入り口は消えていた。

 入り口が見えなくなるほど奥には来てないはずだ。だってこの森に入ってまだ1分と経たないんだから。

 何か寒気がする。

 まるで本当に森が生きてるかのようだ。

 っておい、話の路線ホラーに変更!?

 俺こんなの耐えられん。


 「ねぇありすちゃん。やっぱ・・・帰らない? もう暗いし」

 「森の中にいるから暗く感じんだよ。もう少しだから」

 「おいおい。藤原さんのいうとおりだ。もう帰ろう」

 俺がそういうと今中はにやっと笑って、

 「秋って男のくせに弱虫なんだねぇ♪」

 と言った。


 いくら俺とは言え、女にバカにされちゃ黙ってられん。

 「ふざけんな。テメェこそ何のつもりで俺等を連れてきたんだよ!? 今振り返ったら森の入り口消えてたぞ!」

 俺がそういうと、藤原さんは「えっ」と困惑した表情になった。

 「あんたたち知らないの? この森は1種の動物なんだよ。あんただって口をあけたり閉めたりできるでしょ? この森も生きてるから口を閉めれんだよ」

 コイツ・・・本気で頭がおかしくなったか!?

 「あのなぁ・・・」

 俺が理論でこいつの妄想を止めてやろうと口を開きかけたとき・・・・・・


 『うおおおぉおおぉぉおおお』


 何かの唸り声が聞こえた。声はとても低く、楽器で言うとコントラバスぐらい。

 その唸り声は木々の枝、1本1本に当たって跳ね返り、また当たっては跳ね返りの繰り返しで森中に響いた。

 そして地響きも。


 「な、なんだ?」


 俺が周りを見渡している時、


 足で踏みつけていた地面がすっとなくなった。

 一瞬浮いたような感覚がして、条件反射で下を見ると、地面にポックリ穴が開いていた。そしてその穴はどんどん広がり、今中や藤原さんの足元までをすくっていた。


 「きゃあ!?」

 「どうなってんだこれ!!」

 俺と藤原さんが落ちながら混乱している時に、今中は笑ってこう呟いた。

 「やっときた」

 重力に逆らわれず、どんどん下に落ちていく。

 そして気付いた時には


 そこは日本じゃなくなっていた。

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