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子連れ侍とニッポニア・エル腐  作者: 川口大介
第一章 忍者の里、エルフの里
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「俺たちと組みたい、その理由は」

「戦力が欲しいから。言ったでしょ? あなたの強さは有名なのよ。わたしなんかより、ずっとね。わたしの実力については、あなたなら少しは読んでくれてると思うけど、」

 ほんの少し、マリカの目が吊り上がった。

「不足なら、試してみる?」

 少しだけ、ヨシマサは後ずさって、構えを変えた。

「そうだな。お前と、組むかどうかを考える為に、そうしてもらいたい」

「ん。じゃあ、ちょっと散髪でもしてあげようかな」

 その言葉を言い終わると、マリカの姿が音もなく消えた。ポンと音がして煙が立ち込めたわけではない、煙幕も砂埃も上がってない。今、マリカが立っていた地面には、僅かな凹みもない。体重を乗せて地面を蹴りつけて跳躍した、そういう形跡がない。

 本当にただ、消えたのだ。


『え? え?』

 ヨシマサの後方にいるミドリは、驚きの声を上げぬよう、手で口をしっかりと押さえたまま、目を白黒させていた。今、自分は、ヨシマサからは少し距離を空けた場所にいる。ヨシマサの背中を中心にして、暗いとはいえ周囲の風景がちゃんと視界に入っている。つまり、マリカがどの方向に動こうとも、ヨシマサよりもよく見えて、把握し易いはずなのだ。

 マリカが、ヨシマサに向かってまっすぐ前進した時のみ、ヨシマサの背が邪魔になるが。それ以外ならどう動いても、見えないはずはない。なのに、見失ってしまったのだ。

 と、ヨシマサが突然、刀を頭上に振り上げた。同時に、激しい金属音がして、火花が散る。

『あっ?』

 一瞬、見えた。ヨシマサの頭上にマリカがいて、ヨシマサの頭部に向かって刀を振り下ろしており、それをヨシマサが刀で受け止めている。

 だがそれは本当に一瞬。すぐさま、マリカは木の幹を蹴ってまた消えて、今度はヨシマサの側面に出現した。と、思ったら五人に増えた。

『幻術? 違う、魔力は感じない。ということは、ただ物凄く動きが速い、だけ? それだけでこんなことに?』

 五人のマリカが、刀を構えてヨシマサに突進する。

 ヨシマサは冷静に踏み込んで迎撃した。五人の中の一人に狙いを定めて、その一人だけに向けて刀を振るう。

 二人の刀が衝突する寸前、マリカの刀が、その刃が白く輝いた。それに応じるように、ヨシマサの刀も白く輝き、二筋の白光が交錯。足し算ではなく掛け算となって、周囲を照らした。先程の頭上攻撃の時とは違う、何かが焼けるような音が響き、先程の頭上攻撃の時と同様に、マリカは消える。

『……っ……』

 音も、光も、すぐに消えてなくなり、元通りに静かな暗い森の中。マリカは木の上にいた。 

 まるで小鳥のように枝に止まっているが、その枝はどう見ても、人の体重を支えられるほど太くはない。だがマリカは、そんな枝を足場として立ち、二人を見下ろしている。

「どう? わたしの腕前、信用してもらえた? わたしの相棒も、専門分野は違うけど、腕前としては同程度よ」

 マリカは、刀を背中の鞘に収めた。そしてヨシマサの目の前に、音もなく降り立つ。

 ヨシマサも、少しだけ考える様子を見せてから、刀を収めた。

「……良かろう。お前たちと組んでもいい。もう一人の仲間とはいつ会える?」

「いいの? ありがと!」

 ぱっと笑顔になって、マリカは小躍りした。

「レティアナは……あ、もう一人の仲間のことね。レティアナっていうの。もうディルガルトを発ってるはずよ」

「ほう。お前たち二人は、前からディルガルトにいたのか?」

「ええ。今朝はまだ、ちょっと用事があってね。あの子だけ、一段落つくまで動けなかったのよ。でも、夕方までには出発できる、追いかけるって言ってたから。あなたたちは、西の街に行くんでしょ? なら明日の……そうね、余裕を見て夕方に。そこで落ち合いましょ」

 マリカは、以前使ったことのある宿の名を告げた。冒険者たちがよく集まる、仕事の斡旋所となる酒場を兼ねた宿屋だとのこと。

 明日、そこで落ち合うことを約束すると、

「わたしはここから戻って、レティアナと合流してから行くわ。じゃ、明日ね!」

 森の中を、東へ駆けて行った。ミドリとヨシマサがここまで歩いてきた方、ディルガルトに戻る道だ。

 しばらく時間をおいてから、ヨシマサはミドリに向き直って、

「もういいぞ」

 と、発言の許可を出した。ミドリは、ぶはーっと大きく息を吐き、吸って、何度か深呼吸をしてから、一気に喋り出した。

「兄様! に、忍者ですよ! 忍者! シルヴィさんに、探すよう頼まれてた、ニホンの忍者! こんな簡単に見つかるなんて信じられないですけど、でも兄様と同じ気光といい、あの身のこなしといい、間違いないです! ……あ。もしかして、僕がこうやって騒いでしまって、それをあのマリカさんに聞かれないように、喋るなって言ったんですか?」

「そうだ。それにしても、よく気光に気づいたな」

「あの、一瞬、刃を輝かせた光のことでしょう? そりゃあ、僕は見逃さないし、間違えもしませんよ。なにしろ、僕の命を救ってくれたものなんですから」

 そうだったな、とヨシマサは少し笑う。

「だが、またあいつと会った時、無言でいろとは言わんが、あまり騒ぐなよ。こっちの目的を悟られ、あるいは曲解されて、逃げられては事だ」

「はい。そうですね」

 シルヴィの依頼を果たすには、あの少女、マリカの信用を得ることが必要なのだ。

「しかし気になるな。あいつの実力はあんなものではない。もっともっと強いはずだ」

 ヨシマサは、マリカが去っていった方を向いて、呟くように言った。

 考え込んでいる様子のヨシマサを見て、ミドリはそのヨシマサに対して首を傾げる。

「手抜きが感じられた、ってことですか? でも今の手合わせは、兄様を本気で殺す気ではなく、力を見せる為にやってたわけでしょう? だったら、本気で斬りかからないのが当然では」

「ああ。今はな。だが、普段はそんな必要はないだろう。普段の冒険者稼業の中では、全力を出して戦っているはずだ」

「でしょうね」

「そうなるとおかしい。あいつが全力で戦っていれば、その強さが広く轟いていないはずがない。ちょっと知られている、なんて程度では済まないはずだ。この俺が、……お前の歌による宣伝効果もあったにせよ、街の外でまで噂になっていたようにな」

「普段から手加減をしているってことですか? それは、忍者だってことを知られないよう、目立たないよう、身元を探られないように、ということでは」

「そうまでして隠しているものを、なぜ俺に見せたのか。あんな形で気光まで使って見せたのだから、俺の強さのせいで「つい」本気が漏れ出てしまった、などということではない。普段は隠している正体を、その手がかりを、わざわざ俺にだけ見せた理由は何か」

「兄様に、興味を持ってもらいたかったんでしょう。どうしても兄様と組みたくって。兄様、かっこいいから、組みたくもなりますよ。でも……凄く綺麗な人でしたよね。兄様……」

「警戒するような眼はやめろ。というか何だその警戒は」

「……う~……」

「唸るな。とにかく、向こうから組みたいと言ってきてくれたのは好都合だ。こちらを警戒されても困るから、この件については折を見てそれとなく聞いてみるか。……となるとやはり、里のことなんか聞けるのは先の話だな。まあ、少しずつやっていこう」


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