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子連れ侍とニッポニア・エル腐  作者: 川口大介
第三章 刻み込まれた任務
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 ヨシマサとミドリは、マリカとレティアナに会って早々、いろいろとバタバタしてしまったが。元々は、どうあれ四人で組んでごく普通に、冒険者としてやっていく予定だったのである。

 それを思い出し、ヨシマサは三人を連れて(三人とも、ヨシマサに着いていく気持ちなので、リーダーは自動的にヨシマサになっている)全ての出会い亭の一階、冒険者の仕事斡旋所になっている酒場にやってきた。

 まずはここで、仕事がないか聞いてみる。ないなら、自分たちで仕事を探して回らなくてはならない。護衛などの仕事を求めて、営業活動をしなくてはならないのだ。

 ディルガルトで、正規ではないとはいえ騎士団に所属していた時は、仕事も安定していた。が、フリーとなった今は、そうはいかないのだから。

「おお、ヨシマサ。マリカたちも一緒だな。実はな、お前さんら四人に依頼したいって客が、さっきまで来てたんだ。また夜になったら来るそうだから、ここで待っててくれないか?」

 ヨシマサの、尾ひれ背びれのついた噂を半分ぐらい信じている店長が、カウンターを拭きながら言った。

「俺たち四人、に?」

 ヨシマサは拭きたてのカウンター席に着き、店長に尋ねた。他の三人も並んで着席する。

「あのクモ男騒ぎの時、俺たちが組むと聞いて、ということか」

「ああ。もともとお前さんは有名だったし、マリカとレティアナも、お前さんほどではないが、ここでは名が通ってるしな。そうなってくると、そっちの、ミドリって言ったか? お前さんの弟の。その子もきっと優秀な冒険者に違いない、と思われてるんだろうぜ」

 そういえば、この店長にはミドリを弟だと思われたままだった。

 別に害はなかろうし、訂正して事情を説明するのも面倒なので放置しているが、

「いやあ、そんな。あはは」

 ミドリはご満悦だ。「優秀な冒険者に違いない」よりも、「ヨシマサの弟」の方に反応しているのは想像に難くない。

 そんなミドリと、そしてヨシマサを、マリカも嬉しそうに見ている。レティアナはメモを取っている。

「……こほん。で、店長。待つのはいいが、どんな依頼なのかは聞いていないのか?」

「何だか、古文書を頼りに遺跡を調べてほしいとかいう話だったぜ。それ自体は珍しくないんだが、依頼人自身について、ちょっと気になることがあってな」

「何だ?」

「ここで依頼を受け付けるのは初めての奴で、身元も不確かなんだ。ここの常連の何人かに聞いたが、あんな奴は知らない、とくる。つまり依頼内容に嘘がなかったとか、報酬をきちんと支払ったとかの実績や保証がない」

「ふむ。つまり、タチの悪い依頼人かもしれない、ということか。だが冒険者というものは、いつも仕事にありつけるとは限らんだろう。そうそう選り好みもできまい」

「それはまあ、そうなんだが」

「俺自身、まだ冒険者稼業は始めたばかりだからな。多少の危険やトラブルなどがあるとしても、早い内にそういうケースを経験しておくのも良かろう。だが店長、忠告は感謝する。ありがとう」

 それに、とヨシマサは思う。この旅の一番の目的は、今はまだ雲を掴むようでしかない、ミドリの身元捜しなのだ。どこに手がかりがあるかわからないのだから、幅広くいろいろな仕事に、多くの人に、積極的に関わっていくべきであろう。

 ヨシマサはそう思い、受けることにした。


 夜になり、依頼人がやってきた。中年、というにはまだ少し若い、取り立てて特徴のない男だ。軽装の下の体格はそこそこ立派で、学者にはあまり見えない。だが頻繁に外へ出て発掘などをしていれば、体格も良くなるから、こういう学者がいないわけでもないが。

 アンセルムと名乗ったその男は、ヨシマサたち四人とテーブルを囲むと、一冊の古文書を見せた。ここに記されている遺跡を調べてほしい、というのが依頼だ。提示した報酬額もなかなかのもので、しかも二割程度が相場であるはずの前金を、五割払うという。但しその条件として、アンセルムは同行しないことが告げられた。

「あなた方が前金を持ち逃げするリスクを負ってでも、あなた方に調べてもらいたい。それほど、私にとっては重要な遺跡なのです」

「だが、同行はできないと。それほど危険が予測される、ということか?」

「いえ。この発掘が成功すれば莫大な利益になりますので、それを見込んで報酬を高めに設定し、私は私の安全をしっかりと確保している、というだけのことです。際立って危険だと認識してはいません。無論、行ったことがあるわけではないので、絶対の保証ではありませんが」

 ヨシマサは古文書を手に取り、中を見てみた。いかにも古文書然とした、古そうな書物だ。ボロボロで、破れも染みもたくさんあって読み辛い。といっても、ヨシマサには見覚えのない古代の文字なので、どんなに綺麗であっても読めはしないのだが。

「ミドリ、読めるか?」

「あ、はい。多分、少しなら読めます。魔術研究所で見たことのある字です」

 ヨシマサから受け取って、ミドリは古文書に目を通した。文字を、単語を、じっと見つめて、記憶を掘り起こしながら黙読していく。

 そんなミドリと、見守るヨシマサたちに向け、アンセルムが解説を加えた。

「六百年ほど前のものなので、この通り、判読し辛いですがね。私の調べによると、これは異世界について研究していた魔術師が、その研究成果を記したものなんです」

「異世界の研究?」

 もしや妖怪獣に関係があるのでは、とヨシマサは思った。

 その思いを読んだかのように、アンセルムが言う。

「もちろん、依頼が終わるまでその古文書はお貸ししますよ。こういった古文書は、記述内容だけでなく、書物自体に魔力が宿っていて、何かの鍵として使われることもありますからね。後に作られた写本だったりすると、その効果がありませんが、これは原書ですから」

 それを聞いて、レティアナが手を伸ばした。ミドリの邪魔にならないよう、少し高い位置から、古文書を照らすように手の平を翳す。

「書物の神様、文字の神様……」

 レティアナは呟くように言って目を閉じ、少ししてからゆっくりと目と口を開いた。

「……執筆の意が残ってる。ここに書かれているのは、何かを写したものではないわね。作者本人が、自分の意思で文章を考え、自分の手で書いたもの。紙やインクも、六百年ほど昔のものだというのは確実。あらゆる意味で、偽物ではないわ」

「ほう。お前の神通力は、そんなことまで判るのか。凄いな」

 感嘆の溜息をついて、ヨシマサがレティアナを見る。

 レティアナも満更でもない顔だ。

「まあね。でも私には、文字そのものは読めないから。ミドリちゃん、どう?」

 ミドリは、熱心に読みふけっている。

「……」

「ミドリちゃん?」

「……あ、は、はい。何でしょう」

 ミドリは少し慌てた様子で、レティアナの方に向き直った。

「この書物の中身よ。どんなものだか、わかった?」

「はい。文章としてはよくわからないんですけど、飛び飛びで単語は拾えました。確かに、この世界と異世界とを繋げるとか、何かを召喚するとか、そういったことの研究について書かれています。あと、研究・実験をしていた場所についても」

 二人の分析を聞いて、ヨシマサは納得した。

「つまり、その場所が今回、調査してほしいという遺跡なわけか」

 そうです、とアンセルムが頷く。

 ヨシマサは考えた。レティアナとミドリが調べて、偽物ではないと保証してくれた、異世界の研究に関する古文書。もしかするとそこに書かれている遺跡が、妖怪獣に関わるもの、つまりザルツにとって有益なものかも知れない。

 もしもそうであれば、調査後にヨシマサ自身が騎士団に通報して、正式に調査してもらえばいい。あるいは、妖怪獣の召喚に使える道具か何かを見つけたなら、状況によってはその場で破壊するのもいい。アンセルムは同行しないというのだから、それも好都合といえる。ヨシマサたち四人だけなら、現場で何でもできるだろう。

 もちろん、妖怪獣ともザルツとも何の関係もないかもしれないが、それならそれで純粋に冒険者の仕事として、調査をこなすだけのこと。

 考えをまとめて、ヨシマサは言った。

「わかった、引き受けよう。では、この書物を借りて、明日にでも出発する」


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