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子連れ侍とニッポニア・エル腐  作者: 川口大介
第二章 侍BL
25/41

10

 ルファルがメニューを持ってきて、レティアナに渡した。

「いい働き口を紹介して下さって、ありがとうございます」

「どういたしまして。おばあさんと、そして貴女自身の為に、頑張って働いてね」

「はいっ!」

 元気よく去っていくルファルのお尻で、ミニスカートを貫いて猫しっぽが揺れている。

 レティアナがメニューを見ながら言った。

「もちろん、あのしっぽや耳は作りものよ。……座ったら?」

 レティアナに促されて、ヨシマサは席に着く。

「まさかとは思うが、ああしておけば何かの拍子に耳や尾が出てもごまかせる、とか」

「そうよ」

「っておい! それでは何の解決にもなっていないだろうが!」

 レティアナからメニューを受け取りながら、マリカが答える。

「意識を失って暴れる、って話なら心配いらないわよ。ここにいれば」

「何?」

 注文を決めたマリカは、メニューをミドリに渡すと、手を振ってマスターを呼んだ。

 カウンターの向こうから、恰幅のいい30代後半ぐらいの男がやってくる。人の良さそうな顔と使い込まれたエプロン、そして耳と尻尾は狸だ。似合っている。

「どうも。あなたたちが、ヨシマサさんとミドリさん、ですね。この度は私たちの仲間の保護に尽力して下さったそうで、ありがとうございます」

「仲間? ……というと、まさか」

「はい」

 マスターは、にっこり笑って言った。

「私は、狸のライカンスロープ。他の店員も、それぞれ、そのまんまですよ」

「な、何、だと」

 ヨシマサは周囲を見渡した。ルファルと同じような可愛らしい制服のウェイトレスたち、奥の厨房で料理をしているコック、店の前で楽器を演奏して客寄せをしているバンド、それらの全員が、獣の耳やしっぽをつけている。彼らが、彼女らが、全てライカンスロープである、と?

 ヨシマサが混乱しているそばで、ミドリもあわあわしている。

「あ、あの、兄様。僕の知識だと、ライカンスロープっていうのは、こんな……」

「ああ。こんな、街中にたくさんいるはずがない。そんなことが知れたら大騒ぎになるはずだ。つまりこの店は、表向きにはただのコスプレで通っていて、街の人たちもそう認識している」

 マスターは頷いた。

「そうです。我々はマリカさんたちエルフと違って、まだ人間との交流ができていませんからね。全体数も少ないですし。ですから、今のままヘタに人間社会と接触すると、謂れのない偏見に晒される恐れがあります。我々の方も、まだ人間のことをよく解っていませんし」

 マスターの説明を、レティアナが引き継いだ。

「だから彼らは、まず人間社会をよく知るために。風俗や習慣を学び、馴染むために。ライカンスロープ同士が助け合って生活していける、こういう店を作ったのよ」

「……ミドリ。魔術研究所で、ちらりとでもこういう話を聞いたことは」

「ありません。全然。一度も。全く」

 まだ信じられないといった面持ちで、ヨシマサとミドリはきょろきょろしている。

 マスターは説明を続けた。

「あの子、ルファルちゃんは、自分がライカンスロープであることを知らなかったそうですね。変身時に意識を失ったりしたのは、自分の正体を知らないという不安、ストレスが原因ですよ。ちゃんと自覚して、こうやって仲間に囲まれて安心すれば、そんな症状はなくなります」

「それは確かなのか」

「はい。他にも、そういう子を何人も見てきてますからね」

 狸のライカンスロープは、元気に働くウェイトレスたちを見渡して言った。

「ですから、ルファルちゃんのことはご安心下さい。大切な仲間ですから、ご家族のことも含めて、できる限りのことはさせてもらいますよ。あるいは、ルファルちゃんとおばあさんこそが、我々と人間との懸け橋になるかもしれませんしね」

「それは、その。ありがたい」

「あ、ありがとうございますっ」

 ヨシマサに続いて、ミドリもぺこりとお辞儀した。

 そんな二人を、マリカとレティアナはにこにこと見ている。

「だが、それはそれとして」

 ヨシマサは二人に向き直った。

「お前たちは、なぜこの店のことを知ってたんだ。マスターの様子を見るに、前々から交流のある、旧知の間柄のようだが。ライカンスロープからすれば、お前たちだって異種族なんだから、人間だけでなく、エルフからライカンスロープへの偏見なんてのも危惧されたはずでは」

「それはほら、前に言ったでしょ? 私たちの里は、いろんなところと繋がってるって。ライカンスロープたちのネットワークも、私たちの里を中継して広がってるのよ」

「広がってる、ネットワーク、だと? ということは、」

「そうよ。こういう店は、ここだけではないわ。大陸中の至る所に、とまでは言わないけど、あちらにぽつん、こちらにぽつん、ぐらいはあるの」

 ヨシマサは驚き、そして戦慄した。

 ライカンスロープたちの、人間社会進出の拠点が、既に大陸のあちこちにできている。そんな話、聞いたことがないどころか、全く想像もしなかった。しかもそれをエルフの、マリカたちの里が支援している、と?

 今のところ、ライカンスロープたちは人間社会の乗っ取りだとか、そういうことを考えているのではなさそうな様子ではある……って、やはり何もかも不安定不確実だ。

 あるいはヨシマサが知らないだけで、実はディーガル王国でも、ちゃんとそういった事態を把握していて、一般市民には知らせていないだけかもしれない。だが少なくとも、ネットワークの中心であるマリカたちの里について、ディーガル騎士団が何も把握していないのは確かだ。何しろ、ヨシマサのようなただの個人、部外者にまで調査を依頼したのだから。となると、騎士団のみならずディーガルの国が丸ごと、徹底的に何も知らないという可能性の方が高い。

 そして今、ヨシマサは、その一端に触れているのである。

『こ、これは……何が何でも、こいつらの里のことを調べ、ディーガルの味方につけられるよう、話を持っていかねば……その為には……その為には……』

 いよいよもって極大化してきた事態に、ヨシマサは不覚にも少しくらくらしながら、今後のことを真剣に考え始めた。その目の前で、

「んでレティアナ、今回のネタはどうするの?」

「そうねえ。ルファルちゃんの正体に関する話は、伏せるしかないからね。病気のおっかさん、もとい、おばあさんを抱えた貧乏美少女が、悪い金貸しに騙されて~ってとこかしら」

「ふむふむ。で、そこをヨシマサが助けて、ミドリちゃんが嫉妬する、と」

「な、何で僕が嫉妬するんですか」

「だってほら、例えばこの店がなくて、おばあさんが亡くなって、ルファルちゃんも一緒に旅をすることになって、そしてヨシマサにべたべたして甘々な雰囲気になったらどう思う? ルファルちゃんもあの通り可愛いし、何といっても女の子よ。お・ん・な・の・こ」

 うりうり、と迫るマリカの言葉に、ミドリはうぐっ、となる。

「ルファルちゃんは女の子、ヨシマサは男の子。普通、『どうなっても』問題ない二人よね」

「っ! そ、そ、そんな、ひどいっ」

「と言われても、ヨシマサは強くて優しくてかっこいいから、ルファルちゃんが惹かれるのも仕方ないのよねえ」

「それはその通りですよ! そこは絶対に否定できませんよ! むしろ、同志として熱く語り合いたいぐらいですよ! でも、僕は男の子で……ルファルちゃんは女の子……その差……っ」

「うんうん、うんうん。わかるわぁその葛藤。そこんところをもっと詳しく」

「い・い・か・げ・ん・に・し・ろおおおおぉぉぉぉっ!」

 ヨシマサの刀(鞘ぐるみ)が怒りの落雷となってミドリとマリカを叩き伏せ、二人はテーブルに顔面を打ち付けた。

 ヨシマサは懐から銀貨を取り出すとマスターに渡して、いや押し付けて、

「テーブル代だっ!」

 マスターが返事する暇もあらばこそ、ミドリとマリカをボコボコにしていく。テーブルを巻き込み、ベキバキグシャゴシャと粉砕しながら。

 早めに、話題的にも座る位置的にも、後方へ下がっていたレティアナに被害はない。きちんと椅子に座ったまま、怒り狂うヨシマサとボコボコにされる二人を見ている。

 特に、ミドリを見ている。あの時、蛇男とルファルと三人まとめて、清浄の火で焼いた時のことを思い出しながら。

『妖怪獣、つまり異世界の生物なんかではない。ライカンスロープのような、人間以外の種族ということもない。でも、普通の人間の手応えでもなかった。血は人間の血のはず、肉も人間の肉のはず。なのに、何かが違う。この子、一体何なの……?』

 レティアナには判らない。

「に、兄様っ。兄様は、僕の兄様ですよねっ?」

「それはそうよ、ミドリちゃん。そうあって然るべきよ。でもヨシマサも男の子、たまには気の迷いってこともあって、まぁそれぐらいなら、物語を盛り上げるスパイスとして」

「そんなっっ! そんなことって!」

「俺をBLのネタにして盛り上がるなと言ってるんだああああぁぁ!」

 まあ、判らなくてもいいか。面白いから。

 と、レティアナは思った。


世界のコンピュータRPGの原点であり、

日本人にとっては「ドラゴンクエストの元ネタ」である、

アメリカ産のゲーム「ウィザードリィ」。


もちろん、何十年も昔の作品です。

その中に既に、「エルフの忍者」はいました。


つまり。今、日本のアニメやゲームなどで、

剣と魔法のファンタジー世界に美少女くのいちなどがいるのは、

「西洋のものに、日本人が自分らの文化をのっけてる」

ではないのです。むしろ、逆輸入。

剣と魔法の世界に忍者がいるのは、西洋でも昔からの伝統。


無論、当時のウィザードリィの開発スタッフが、日本でのセールスを

意識したはずもありませんからね。ごく自然に、そうなったのです。

このことを、現代日本人はちゃんと知って、誇るべきだと思ってます。


チャイナドレスも青龍刀もない西洋の地に、日本刀を持った侍はいたのだと。

ドラゴンクエストもファイナルファンタジーも誕生してない古き時代から、

エルフの魔法使いやドワーフの戦士と肩を並べて、

忍者はダンジョンに挑んでいたのだと。

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