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子連れ侍とニッポニア・エル腐  作者: 川口大介
第二章 侍BL
20/41

「み・せ・も・の・ご・や、だ! 見世物小屋の出し物! それなら、ツバルマー商会は普段からやってる! ゴタスシタのシノギにも触れてない! 文句あるか!」

 マリカは鼻で嗤う。

「いやいや、見世物って。全身にウロコびっしりな半魚人とか、頭にトサカのある鶏人間とでも言うならともかく。ただの女の子の、何がどう見世物になるってのよ」

「はんっ! 聞いて驚け! あのガキはな、あんなツラして、しかも弱っちいけど、実は妖怪獣なんだよ! 正体を見せれば一目瞭然で、」

「何?」

 一度は「合法的だから」と引き下がったヨシマサが、再び前に出てきた。

「今、確かに聞いたぞ。妖怪獣を見世物にするだと? お前たち、ザルツと繋がっているのか?」

 ヨシマサは、今度はしっかりと刀に手をかけている。

「そうと聞いては見過ごせんな。知っていることがあるなら、今ここで吐いてもらおう」

「な、何だよ。お前、いきなり何を」

 弟分はただビビるだけだったが、兄貴分は気づいて、

「あっ! そういえばさっきの騒ぎの……お前、あの、ヨシマサか? 以前、ザルツの支部に一人で乗り込んで、妖怪獣を何十匹も斬り、支部のボスまで殺して、その全てをムシャムシャと喰らって、己の血肉と化したという」

 震える手でヨシマサを指さした。

 ヨシマサのこめかみも震えている。

「また随分と尾ひれがついているようだが、そこはもうどうでもいい。お前たちがただの借金取りなら、手を出さぬつもりであったが、妖怪獣、つまりザルツが絡むなら話は別……いや、待て。そもそもだ」

 ヨシマサの射るような視線、気迫、その威圧に、男たちは二人揃って全身に脂汗を浮かべた。

「妖怪獣は当然、誰の子でもなく、養子としても認められん。であれば、借金の担保になどならん。店が潰れたからといって、主人の親族でもない丁稚小僧が売られてたまるものか。それを承知でそんな証文を用意したのなら、お前たちには一分の理もないということになる」

 ヨシマサが詰め寄る。男たちが後ずさる。

「ま、待てっ! さっきのはその、売り言葉に買い言葉というか、逃げ口上というか……と、とにかくだ! この証文、借金自体は間違いなく本物なんだ! だからそのガキを、」

 もはやここにいては危険と、兄貴分は少女を強奪して逃げよう、とした。

 だがそれは叶わなかった。

「っ! い、いない?」

 レティアナと、マリカと、そしてヨシマサと言い争っている間に、少女は姿を消していた。

「く、くそっ! 追うぞ!」

「へいっ!」

 男たちは、乱暴な足音を立てて出て行った。

 そんな二人の背中に、マリカはヒラヒラと手を振る。

「いやはははは。やっぱり優しい、そして賢いわねえミドリちゃんは。わたしたちが騒いでる隙をついて、あの子を連れ出すだなんて」

 いつの間にか、ミドリもいなくなっている。

 だが、ヨシマサは気づいていた。

「お前たちがミドリに指示したのだろうが。二人がかりであいつらの注意を引き付けるから、その間に連れて逃げろと」

 言われたマリカは、にかっと笑う。

「あら。バレてたの。でも黙って行かせてくれたのね」

「まあな」

「で、どうするの。あいつらを潰しにかかる?」

 いいや、とヨシマサは首を振る。

「あいつらが、本当にザルツの構成員なら、そうもしよう。だが、あいつらがザルツの者だとは思えん。いくら何でも間抜けすぎる。第一、どういう事情であれザルツの追手か何かなら、借金だの見世物だのと、面倒な言い訳などすまい」

「ってことは?」

「妖怪獣がどうのというのは、客寄せの作り話だろう。奇抜な化粧や仮装をさせて、そういう生物だと宣伝して客に見せる。見世物小屋にはよくあることだ」

「ふむふむ。でもそれなら、最初にあなたが引き下がった、合法的な借金取りってことになるんじゃないの?」

「その見世物が、半魚人だの鶏人間だのといった、ただの珍獣ならな。が、法に触れないとはいえ、妖怪獣の名を利用して金儲けなど許せん。たとえそれが、偽物であってもだ」

 ヨシマサの脳裏に、ミドリを救出した時の記憶がよぎった。多くの幼い子供たちが惨殺されていた、あの部屋の光景、血の臭いは、忘れられない。

 あの地獄から、奇跡的に生還したのがミドリだ。そのミドリを守り、過去を取り戻させ、そして幸せな未来を、と。それがヨシマサの誓いであり、生きる目的となっている。

 そういった思いがあるから、ザルツと妖怪獣が絡む話については、自分と直接の関係がなくとも、ヨシマサには聞き流すことができないのだ。

「何とか商会とかいう、あいつらの所属団体を潰すとまでは言わん。だが、あの女の子を逃がすぐらいはさせてもらう」

 マリカに代わって、今度はレティアナが問いかけた。

「もし、あの子が本物の妖怪獣だったら?」

「本物なら、あんな奴らに追い回されるほど弱いはずがなかろう。仮に、本物だとしたら……ザルツが召喚に失敗して無力な種族を呼び出してしまい、使い物にならなくて捨てた。行き場を失って彷徨っていたところを、人間の孤児だと思われ、誰かに拾われた。そんなところか」

「だったら、捕まえて騎士団に突き出すべきではないの? ザルツの手がかりよ」

「いや、それはできん。妖怪獣の生け捕りとなれば、情報を聞き出すだけでは済むまい。生体を研究するため、などということで、どんな扱いを受けるかわからん」

 ヨシマサはウェイトレスを呼んで、勘定を支払った。

「それほど、妖怪獣は今、警戒されている。だが生まれがどうあれ、世の人々に害を為さぬ者なら、捕らえるなどということはしたくない。それを確かめる為にも、ちゃんと会って話をせねばな。ほら行くぞ、ミドリと合流だ」

 ヨシマサの返答を聞き、マリカとレティアナは顔を見合わせた。

 そして、ぱん、と手を打ち合わせた。

「何をしている」

「んふふ。だって、ねえレティアナ」

「ええ。ミドリちゃんの愛する英雄様が、ミドリちゃんの期待を裏切らない、強く優しい正義の味方だってことを、こうも当然のように見せつけられたら。そりゃもう」

 二人は嬉しそうだ。

「そりゃもう、って何だ。そりゃもうって」

「だから、そりゃもう、」

 レティアナは懐から、手の平サイズの小さな紙束と羽ペン、そしてインク壺を取り出した。

 そしてサラサラと何やら書いていく。

「初日から、いいネタ提供ありがとう。忘れない内にメモメモっと」

「やめええぇぇぇいっ!」

 怒鳴りつけながら、ヨシマサは思った。こいつらは一体、どこまでが本気でどこからが演技で、本性はどんな風で、最終的には何を企んでいるのか。

 そういうヨシマサとて、この二人に対して真の狙いは隠している身だ。藪蛇を避けるためにも、今はまだ、詳しく問い詰めることはできないが……


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