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子連れ侍とニッポニア・エル腐  作者: 川口大介
第二章 侍BL
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突然のことに驚き慌て暴れるミドリだが、なにしろ非力なのでマリカを振りほどけない。それをいいことにマリカはミドリを強く抱きしめ、頬ずりしている。

「わかってくれて、おねーさん嬉しい♡」

「マ、マリカさん、あの、ちょっと、」

「おいこらっ!」

 ヨシマサが、ミドリからマリカを引き離そうと立ち上がったところで、

「私とマリカはね」

 レティアナが、ぽつりと言った。ヨシマサの動きが止まる。

「今、修行の旅という名目で里から出ることを許されてるんだけど、もちろんこのままではいられないの。時々、定期報告をしに里へ帰ることが義務付けられているわ」

「里へ、帰る?」

 ということは。その時、同行できれば、里の場所を知ることができる。あるいはやはり秘密で、同行が許されなくても、日常の会話の中でポロリと手がかりを漏らしてしまう、なんてこともあるかもしれない。

「その報告の内容次第で……つまり、旅の中できちんと修行をしていることを示せれば、更に旅を続けることが許されるの」

「示す、とは?」

「凶暴な魔物を倒すとか、巨大な犯罪組織を潰すとか。そういう、実戦成績ね」

「ほう。犯罪組織を潰す、か」

 ヨシマサには心当たりがある。潰したい犯罪組織の心当たりが。

「私とマリカは、その、旅の延長を狙ってるのよ。まだまだ、広い世界を歩きたいからね。で、その為には、強い人と組んで一緒に戦ってもらうのが望ましい」

「それが、俺か」

「そうよ。有名な【気光の侍・ヨシマサ】が組んでくれるなら、申し分ないわ。しかも、小説を執筆する上で最高の題材、可憐なヒロインまで一緒とくれば、もう」

「……それが、ミドリか」

 長い話であったが、事情は理解できた。BLについてはともかく、レティアナの語った話、とりあえず筋は通っている。

 だがヨシマサは、全てに納得したわけではない。

 まず、この二人はお気楽すぎる。修行の旅などと言っているが、忍者がそんな気軽に自由に、フラフラと出歩けるものか? 本当は、何らかの任務を帯びているのではないか?

 他にも考えられる。例えば、実はこの二人は掟を破って里から脱走し、現在逃亡中であるとか。いわゆる抜け忍だ。その場合は里から追手が、刺客が差し向けられることになるだろう。その対策として強者と組みたがっていて、それがヨシマサだ、とか? 

 いろいろな可能性がある。疑い出せばきりがない。

 もちろん、この大陸に渡ってから長い年月を経て、独自の発展もしているであろう【エルフの忍者の里】のことだ。ヨシマサが知っている【ニホンの忍者の里】とは、大幅に違っているのかもしれない。レティアナの語った話は、隅々まで偽りのない真実なのかもしれない。

『とはいえ、どうあれ、俺はこいつらの里を探らねばならん。情報一つを得るのに何年かかるかと思っていたのが、向こうから食いついてきてくれたんだ。ここで手放すわけにはいかない』

 今のヨシマサに選択の余地はない。レティアナとマリカがヨシマサと組みたいと言っているのなら、それは実に好都合。ヨシマサの方から、お願いしたいぐらいのことなのである。

 どんなに怪しくても、どんなにBLでも、拒絶することは許されない。

『そう、どんなにBLでも……って』

 いつの間にか、マリカがミドリの肩を抱いていた。といっても、恋人のようにイチャついているのではない。ミドリの目の前に、あるものを突き付けて、そこからミドリが目を離せないようにと、体を固めているのである。

 もっとも、最初はどうだったのか知らないが、今のミドリに抵抗の意思はないようだ。むしろ自分から身を乗り出して、食い入るように「それ」を見ている。

 その、分厚い紙束を。

「……こ、こんな……僕、と、兄様……」

「そぉよぉ。ね? ね? スゴイでしょっ」

「あ、ああっ、そんな、そんなことまでっ」

「まだまだよぉ。次のページで、」

「お前らああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 特にマリカああああぁぁぁぁっ!」

 ヨシマサの、鞘ぐるみの刀が一閃、いや二閃した。ミドリの脳天を打ってテーブルに叩きつけ、マリカの側頭部を打って豪快にぶっ飛ばす。

 この打撃にはかなりの力がこもっていたが、それでも慣れているミドリは涙目になりながらもすぐに顔を上げ、

「に、兄様っ。あの、僕はともかくマリカさんは、」

「お前にソレを見せたという時点で万死に値するわっ!」

「で、でも、女の人なんですし、」

 ぶっ飛ばされたマリカが、ヨロヨロしながら戻ってきた。笑顔で。

「あん、ミドリちゃんてばやっぱり優しい♡」

「……おいマリカ」

 ヨシマサは、頭の中で少し考えをまとめてから、納刀している鞘の先をマリカに突き付けた。

「お前は、俺とミドリが、現実でも恋仲になるのを望んでいるか?」

「そりゃあもちろん!」

 マリカは力強く、たゅぷんっと胸を張った。

「あなたも少しは気づいてるでしょうけど、ミドリちゃん側の気持ちについては、もう問題ないみたいだからね。後はあなただけよ。ふっふっふっふっ」

「つまり、俺がミドリを、その、あれだ、」

 ヨシマサは少し口ごもりながら言う。

「恋人として、愛することを望んでいる。そうだな?」

「そう! その通り!」

「なら、俺が女に気を取られたりしたら嫌だよな?」

「当然っ! あなたはミドリちゃん一筋であるべきよ! まあ、他の美少年との絡みが混じっての、三角関係もアリとは思うけど! 女なんか言語道断!」

「つまり、俺は女嫌いであるのが理想だな?」

「そう、嫌いなさい! 美少年大好きな侍・ヨシマサは、女なんか大っ嫌いで、触れたらサブイボが出るほどイヤで、そりゃもう容赦なく冷たく扱う! ってのが、わたしの理想で……」

 ヨシマサが、納刀した刀を振り上げたまま首だけ回してミドリを振り返っているのに気づき、マリカの言葉が途切れた。

「聞いたなミドリ? これは、こいつ自身が望んでいることなんだ」

「え、あの、なんだか屁理屈ですよ兄様」

「気にするな。というわけでマリカよ」

 ヨシマサが、首を元に戻してマリカに向き直る。

「俺が予想していた以上に、強く主張してくれたな。いやもう本当に、そこまで強烈な信念を抱いているとは思っていなかった。お前の思考を、的確に形容する言葉が見つからん」

「あ、あはは、どういたしまして。お気になさらず」

「遠慮はいらん。お前の望み……」

 青ざめるマリカに向け、ヨシマサが一歩踏み出して、

「今ここで叶えてやるわああああぁぁっっ!」

 ヨシマサの気合と怒号、そしてマリカの悲鳴が響き渡った。


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