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勇者帝国の反逆者  作者: 畠山こくご
第二章 魔導姫ミスティ=クラウン
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7. 謎の少女

 「お、お願いします。命だけはどうか……」

 「うるせえっ!」

 「ぐあああっ!」


 荒野に響き渡る断末魔。帝国西の辺境では今日も、勇者たちが毛皮目当てに獣人を狩っていた。


 「くそう、ざらざらとした毛並み。手触りは獣王の毛皮の足元にも及ばねぇなぁ」

 「仕方ねぇだろ? 獣王族は俺たち勇者が絶滅させちまったんだからよぉ」


 彼らは弱い魔族を狩って"素材集め"の任務をこなしている下級勇者たちである。


 最終試験を合格して帝国認定勇者となった者は、彼らと同じ無勲章の下級勇者からスタートする。

 帝国から下される任務の種類は、強豪魔族の討伐や弱小魔族の間引き、素材集めなど様々であり、勇者免許を持つものはそれらの中から自由に選んで達成することで難易度に応じた報酬と点数を与えられる。

 そして、獲得した点数の累計が一定数を超えると銅勲章、銀勲章、金勲章とレベルアップしていく。

 ただし、簡単な任務をコツコツとこなし続けて小得点を積み重ねるだけでも40年もかければ銀勲章までは目指せる程なので、必ずしも実力と勲章の色が比例するとは限らない。

 唯一、最高位の金勲章だけは必要な点数が桁違いなので、本物の実力がなければ授与されることはなく、現在はたった4人しか存在していない。


 獣人の毛皮を狩っている彼らはまだ駆け出しの勇者に過ぎないが、同じように弱い魔族だけを狩り続けて上を目指そうとする勇者は少なくない。

 そして、楽な任務に味を占めて強敵との戦いを避けてきた者たちは、目の前に強い魔族が出現した際に驚くほど弱気になってしまう。今から巻き起こる悲劇のように……


 「ねぇ、そこのあなたたち?」

 「誰だ?」


 剥いだ毛皮を麻袋に詰める勇者たちは、何者かに呼ばれて後ろを振り返った。

 

 「か、可愛い娘じゃないか!」

 「おい、よく見てみろ。頭に角が生えてるぞ?」

 「ってことは鬼王(オーガ)か?いや、やつらは数十年前に絶滅しているはず」

 「鬼人(ゴブリン)にしては美形すぎるし……だが、魔族には違いねぇはずだ」


 彼らに声をかけたのは、正体不明の魔族の少女だった。頭から2本の角が生えて耳の先が尖っていることを除けば、誰もが美少女と称えるほどの外見をしている。

 右手には蛇が巻きついたような金の装飾を施された立派な杖を、左手には分厚い魔導書のようなものを抱えており、如何にも魔導士然とした出立ちである。


 「殺してしまうのは勿体ねぇが、魔族なら仕方ない」

 「その立派な角は売ればいい金になりそうだ!」


 EXカリバーを起動し、勇者たちは謎の少女へと襲いかかる。


 「愚かだね。死ぬのは君たちの方なのに」


 魔族の少女はにこりと笑って呪文のような言葉を呟いた。

 

 「天涙(ヘブンズティアー)


 すると、遥か上空から雲を裂いて小石程度の大きさの隕石が飛来し、片方の勇者の脳天を銃弾のように貫いた。


 「うあああっ、今のは一体何なんだ⁉︎」

 

 激しく動揺するもう1人の勇者。

 あまりに一瞬の出来事で、撃ち抜かれた勇者は断末魔を上げる間もなく事切れてしまった。

 

 「わ、悪かった。話せばわかる、な? な? だから、命だけは……」

 「弱い敵には無慈悲なくせに、強い敵には慈悲を求めるなんて、随分と身勝手だと思わない?」


 冷たい微笑みを浮かべながら、少女は次の呪文を言の葉に乗せて吐き出す。


 「蛇縛(バインドスネイク)


 彼女の魔力が周囲の空気に作用し、まるで大蛇のように勇者の体を締め付ける。


 「い、息がっ、……苦しいっ、たすけ……て」

 「この世界の空気は君には勿体なさすぎる。後で冥土の空気でも吸っておけば?」


 凄まじい気圧で頚部を圧迫され、もう1人の弱き勇者も力尽きてしまった。


 「さて、可哀想な同胞たち。せめて来世では幸せになることを願うわ」


 勇者たちを始末した魔族の少女は、彼らにによって殺害された獣人の骸を土に埋葬し、墓を作って花を手向けた。

 勇者の圧倒的武力によって人間が支配するこの世界では、同胞である魔族を弔うことは彼女にとって茶飯事であった。


 「いつか必ず、人間の支配から魔族を救って見せる。それが、霧隠れの王冠(ミスティ=クラウン)の使命だから……」


 魔族の少女は墓前から立ち上がると、次なる目的地へと向けて歩き出した。


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