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勇者帝国の反逆者  作者: 畠山こくご
第五章 勇者帝国の反逆者
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31. 生ける屍

 バルサム=インパチェンスーーその男は帝国認定勇者の中で最も体が大きく、素手で岩を割るほどの怪力を持つ豪傑として知られていた。

 彼は勇者学校でユウシの2年上の先輩にあたり、勇者になってからは獣王族を滅ぼした英雄ナスタ=クリヴィアをも上回る異例の早さで銀勲章を授けられたスーパールーキーだ。

 その類稀なる戦闘センスから剣術師範ジオラス、拳法師範パインの両氏から後継者として目される程に期待を集めていた彼は、北東の森林地帯を縄張りとする強豪魔族討伐のため、数日前に王都を旅立った。


* * *


 「バルサム先輩……?」


 ユウシたちの前に姿を現したのは、変わり果てた姿となった銀勲章勇者バルサムであった。


 青ざめた体、失われた表情、微かに漂う死臭……それらが彼の死という事実を明確に物語っていたが、そのことがまるで嘘であるかのような、操られているとは到底思えない程の動きで退魔の大斧を振り回し始める。


 「来るぞっ!」


 何者かの傀儡と化したバルサムの亡骸が振り下ろす斧を避けるユウシたち。

 敵はすぐさま次の攻撃を仕掛けてきたが、ユウシはEXカリバーでそれを受け止めようとする。


 「ユウシっ!」


 しかし、両手で力一杯握った剣でもバルサムの剛腕には敵わず、彼は後方へと大きく弾き飛ばされてしまった。


 「くっ、なんてパワーだ」


 勇者バルサムの怪力は死しても尚健在で、寧ろ痛覚がなくリミッターの外れた死後の方が更に強さを増している程である。

 

 「大斧の弱点は連撃か困難な点だ。攻撃と攻撃の合間には必ず隙ができる!」


 ユウシは斜めに振り下ろしてきた光の斧を回避すると、一気に間合いを詰めて右腕を斬り落とした。

 しかし、地面に落ちた腕は見えない何らかの力によって瞬時に肩へと戻り、まるで糸で縫合されたかのようにぴたりと元通りにくっついてしまった。

 

 「伝承の通りだ……」


 もし人間のアンデッドが現れたら、倒す手段は存在しないーー学校の授業で魔族学の教師が冗談混じりに笑いながら言っていたことを思い出しながらユウシは戦慄していた。

 たとえ退魔の力を以って戦ったとしても、元が人間であれば魔の者ではないため、光によって滅することができない。

 もし肉体を切断したとしても、忽ち元通りに体が合わさって平然と活動し、術者の魔力が続く限り永遠に動き続けるのだ。


 「ここは逃げよう!」


 レオンの一声で、彼ら3人は生ける屍と化した勇者に背を向け森の奥へと走り出そうとした。

 

 「……そんなっ」


 しかし、ユウシたちの前には更に数名の勇者の動く屍が立ち塞がった。


 「くっ、囲まれたか。一体どうすれば……」

 「退路はまだあるわ。つかまって!」


 ミスティは傷付いた漆黒の翼を広げ、空へ逃げようと羽ばたき始めた。

 左右それぞれの腕につかまるユウシとレオン。


 「待って! 上は駄目だ」

 「どういうこと?」


 レオンは彼女が飛び上がる直前になって、あることに気が付いた。


 「一瞬だけど、細く輝く糸のようなものが見えたんだ」

 「糸?……成程、そういうことなのね」


 レオンの言葉に心当たりがあったミスティは、翼を背中に収めて飛翔することをやめた。


 「ユウシ、糸よ! 糸を切るの! そいつらはアンデッドなんかじゃなくて、ただの操り人形なんだから!」


 糸の存在など見えていないユウシだったが、子どもの頃に見た人形劇の操り糸のイメージが咄嗟に頭に浮かんだ彼は、生ける屍と化した勇者たちの猛攻を躱しつつそれぞれの四肢の上部の空間をEXカリバーで切り裂いた。


 「そういうことだったのか! 確かにあったぜ、斬った感触が」


 バルサムたちの亡骸は、魂が完全に抜けきった彼女如く地面に倒れ込むと、そのまま一切動かなくなった。

 

 「糸……こんな芸当ができる魔族は私の知っている限り1人しかいないわ」


 ミスティはとある魔族の顔を思い浮かべていた。

 その者はかつて無勲章の勇者に殺されそうになっていたところを彼女によって助けられた弱小魔族であり、勲章持ちの勇者たちを複数倒して自らの手駒にしてしまうとは到底考えられなかった。一つの可能性を除いては……


 「私の旧友であり、この森一帯を治める蟲魔族の女王・アラクネ。糸を自在に操ることができる彼女ならば、人や魔族の亡骸を傀儡のように動かすことだってできるかもしれないわ。ただ、一つ気掛かりなのは……」


 未だ行方知れずのマリンの顔が目に浮かび、ミスティは表情を曇らせる。


 「私が知っている彼女は勇者を何人も殺せる程の力は持っていなかったということ。しかも、最後に会ったのはそう遠くない過去。もしこの短い期間でそれだけの力を身につけたのだとしたら、同胞であるはずの魔族を糧にして己の魔力を高めている可能性があるってことよ」

 「つまり、そいつは魔族が相手でも容赦なく襲って命を奪うかもしれないってことか?」

 「……だとしたら、マリンが危ない!」


 レオンは操り糸から漸く解き放たれた勇者たちの死臭の中にマリンの微かな匂いを感じ取ると、緑がより一層深く生い茂る森の奥地を指差した。


 「マリンがいるのはあっちだ! まだ生きている」

 「だったら急ごう!」

 「2人とも、油断は禁物よ。この森全てがアラクネの巣も同然。気をつけて行きましょう」


 ユウシは先頭に立つと、張り巡らされている可能性のあるアラクネの糸を警戒し、EXカリバーを振って前方の空間を斬りながら前進する。

 そして3人はマリンの気配を頼りに、"魔族をも喰らう魔族"と化したミスティの旧友アラクネが待ち構えているであろう森の奥地を目指した。



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