30. マリンの行方
ユウシ、ミスティ、レオンの3人はいなくなったマリンを追って洞穴の外へと出た。
「微かに匂いがする。こっちだ」
レオンは嗅覚を頼りに彼女の向かった方角を判断し、2人を導く。
走り続けていると、周囲は渓谷の岩肌一色から無数の木々に覆われた深緑の景色へと移り変わった。
「あれは何だ?」
森林地帯を駆け抜ける彼らの行手に小さな人影のようなものいくつか見え、それらは段々と近くなっていく。
頭には2本の角が生え、手には鉈や棍棒などの武器を握った見覚えのあるフォルム……
「鬼人だ!」
やがてそれらの目の前まで来ると、ユウシとレオンはそれぞれEXカリバー、獣化の薬を準備して戦う構えを見せる。
そんな彼らの前に飛び出し、ミスティは同胞である鬼人たちに尋ねた。
「ねえ、あなたたち。マリンを見なかった?」
ミスティとマリンの2人組は、鬼人たち弱小魔族の救世主。彼女たちを知らない者はいないし、敵視する者もいない。
しかし、相手は一切の返事もなく武器を振り上げミスティへ向かって来た。
「危ないっ!」
レオンはミスティを抱きかかえ、鬼人たちの攻撃を間一髪で回避した。
「待って、私よ!魔導姫ミスティ……あなたたちの味方よ!一体どうしたの?」
「様子がおかしい。とても話が通じるようには思えないな……」
これまでにも複数回鬼人と遭遇したことのあるユウシは、今回現れた鬼人たちの特別に異様な雰囲気を感じ取っていた。
「死臭……まさか、アンデッドか?」
アンデッドとは、魔術によって生み出された生ける屍のことである。
「レオン。それはつまり、彼らはもう死んでいるっていうの?」
「いや、アンデッドを生み出す術は魔王と共に葬り去られたはずだ」
かつて世界を支配した魔王には人間や魔族の亡骸、或いは生きた人間や魔族をアンデッドに変えてしまう力があったと言われているが、魔王が倒されたことによってその術も失われたというのが定説だ。
実際、魔王封印後1000年の歴史においてアンデッドが出現したという記録は一切残っていない。
「確かに、今に伝わる歴史が正しければユウシの言う通りだ。だけど、今僕たちの目の前で動いているはずの彼らからは生気が一切感じられない。もし仮にその術が知らぬ間に復活していて、彼らがアンデッドだとしたら……」
「操っている何者かが存在するということね」
鬼人たちは、まるで感情を持たない傀儡のように容赦なくユウシたちへと襲いかかってくる。
「アンデッドは不死身の存在。通常の攻撃手段では倒すことは不可能なはずだ。ここは逃げよう!」
「いや、肉体が魔族ならアンデッドだろうと退魔の力で滅することができるはず!」
ユウシはEXカリバーの光刃で向かって来る敵を一太刀のもとに纏めて斬り伏せた。
「よくも同胞をっ」
「こいつらは既に死んでるよ」
斬られた彼らの姿を見て動揺するミスティだったが、レオンの一言で冷静さを取り戻す。
先程までまるで生きているかのように動いていた亡骸は、地面に転がり微動だにしなくなっていた。
「ねえユウシ。魔族のアンデッドなら聖剣で倒せる……って言ったわよね? ということは」
「お察しの通り、元が人間のアンデッドは倒せないってことだ」
1000年前の勇者には、アンデッドを浄化する力を持つ仲間がいたとされている。
しかし、勇者の退魔の力と、その仲間が使ったとされる剣術及び拳法は現代まで継承されてきたものの、唯一浄化の力だけは失われてしまっていた。
つまり、現代に元人間のアンデッドが現れた場合には倒す手段が存在しないということである。
「だとしたら、かなり不味いな」
「どうした、レオン?」
「まさか……」
後ろから近付いてくる足音を察知し、振り返るミスティ。
「そのまさかだ。だんだんと濃くなってくるこの匂い……間違いなく人間の死臭だ」
戦闘態勢を整えて迫り来る脅威へと備えるユウシとレオン。
ミスティも杖と魔導書を構えるが、砕けた杖の宝玉が視野に入り、額から冷たい汗が流れる。
「あ、あれは……」
「おいおい、冗談だろ?」
「まさか、よりにもよって勇者様のアンデッドがお出ましとはね」
現れたアンデッドは胸に銀の勲章を輝かせ、屈強な肩には両刃の大斧型EXカリバーを担いでいた。




