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勇者帝国の反逆者  作者: 畠山こくご
第四章 悪魔の子マリン=ブラッド
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24. 勇者たるもの

 世界は誰のものか?ーー


 魔族のもの? 否、それは1000年も昔の話。今となっては支配される側である。

 人類のもの? 王族、勇者、平民……人類の中にも格の違いというものがある。


 この世界ーーミッドガルドは今、その大半を最強の国家・ルドベキア帝国が統治下に置いている。

 最初の問いの答えがあるとするならば、今はその頂点に君臨する勇者皇帝こそが"世界を掌握する支配者"と呼ぶのに最も相応しい存在と言えるだろう。



 魔導姫ミスティは、自分を育てた親であり、師でもある人物の言葉を思い出していた。

 そして今、魔族が下等種族として虐げられる世界の元凶ともいえる存在が目の前にいる。


 「下克上ってやつを見せてあげる。かかってきなさい」


 様々な体術を訓練によって身につけた勇者たちにとって、切り立った崖などやや険しい登り坂程度に過ぎない。

 現・勇者皇帝ポトスの率いる帝国の精鋭たちは、ミスティの元へと一斉に駆け上がってくる。


 「こっちへおいで」


 挑発的な口調で勇者たちを煽ると、ミスティは背後にあった狭い洞穴へと入って行った。


 「逃げたぞ! 追いかけよう」

 「待て!」


 1人の若い銅勇者が洞穴に突入しようとするが、ベテランの銀勇者によって制止される。


 「一対多の戦いでは、狭い通路から迎撃する……兵法の基本を知らんのか?」

 「要するに、まんまと全員で突撃すれば爆発系の魔術か何かで一網打尽にされてしまうかもしれないってわけだ」


 ミスティの罠だと警戒し、勇者たちは洞穴の外で立ち止まったまま彼女を外へ引き摺り出す方法を話し始めた。


 「この先がどこか別の出口へ通じていたら、まんまと逃すことになるぞ?」

 「ここは2、3名程で突撃するか?」


 誰がミスティを追って中に入るのかが中々決まらず、彼らの作戦会議は次第に口論へと発展していく。

 魔導姫ミスティがこれまでに名だたる勇者たちを葬ってきたという事実は知れ渡っており、彼女と少人数で戦うことが死と隣り合わせの状況に身を投じるに等しいことであるのは言うまでもなかった。

 死を恐れて切り込み隊長の役割を押し付け合う勇者たちを見て、皇帝ポトスは次第に苛立ちを露わにし始める。


 「どいつもこいつも……」


 そして、遂に怒り心頭に発した彼は鬼のような形相で叫ぶ。


 「貴様ら、それでも勇者か⁉︎」


 激怒した彼の姿と声に、一同は静まり返った。彼らは勇者とは名ばかりで、勝てる戦しかしたがらないただの臆病者だったのだ。


 「余はこの世で最も優れた生命ーー人類の王だ。たかが1匹の魔族の娘など恐れるに足りん。もし、勇者の名に恥じぬ"勇"を備えた者がいるならば、ついて来るがいい」


 深紅のマントを靡かせ、ポトスは怒りの炎を心の内に燃やしながら1人洞穴内へと突き進んで行く。


 「私もお供致します」


 彼の盾としての役目を果たすべく、金勇者パインも彼のすぐ後を追った。

 そんな2人の後ろ姿を目の当たりにして、他の銀勲章以下の勇者たちは決意を固められず未だに躊躇していた。


 「私も……誇り高きクリヴィア家の名にかけて、お供させていただきますっ!」


 そんな中、自分よりも遥かに実績のある他の勇者たちを押し退け、最も若く経験の浅い少女が皇帝たちを追って洞穴へと入って行った。


 「い、命知らずな!」

 「いくら名門家の令嬢とはいえ、あの勇者殺しが相手に戦うのは無謀すぎる」

 「お前たち、あんな若い少女ですら勇気を持って立ち向かおうとしているのに、それを黙って見ているだけでいいのか?」

 「俺たちも行こう! そして共に戦おう!」

 「皇帝陛下をお守りするのが我らの任務。ここで退いては職務放棄だ」


 リリカの勇気ある行動は、自分の今の立ち位置に甘んじていつしか危険を避ける癖のついていた先輩勇者たちを奮い立たせた。

 勇者とは、勇ある者のことだーー勇者学校で誰しもが最初に習う格言が其々の胸に蘇っていた。初心に帰った彼らには、もう怖いものなどなかった。


 「あら、みんな何だかやる気になってるようだけど、今更遅いよ?」


 どこからともなく聞こえてくる少女の声。すると、洞穴の外に残っていた8人の立つ足場が大きく揺れて浮き上がった。


 「こ、これは……」

 「持ち上げられている?」


 勇者たちは気付くと土巨人(ゴーレム)の巨大な(てのひら)の上に立っていた。


 「手のサイズ的に、一度に地獄送りにできるのは大人8人が限界なんだよね」


 足元から続く腕を辿って目線を送ると、山肌に同化した本体の肩に座る赤い髪の少女の姿があった。

 彼女はそこで気配を殺しながら、外にいる人数が8人以下になる時を待っていたのだ。


 「遅ればせながら、はじめまして。私って、シャイな性格で人と直接握手するのは苦手なのよね。だから、土師族流のとびきり大きい握手をさせてもらうよ」


 マリンが微笑むと、左右合わせて10本の指が一斉に閉じていく。彼らは目前に迫った死への恐怖から誰一人として動くこともままならず、そのまま圧死へと追い込まれてしまった。


 「さあ、生き残った鬼人(ゴブリン)のみんな。新鮮なお肉よ!」


 彼らの骸は巨大な土の手によって渓谷に放り投げられ、つい先程までは殺す対象であった鬼人の糧へと成り果ててしまった。


 「あとはミスティ、健闘を祈るわ」


 マリンは胸に手を当てると、歓喜する鬼人たちの声を耳にしながら、親友であり魔族の救世主でもある彼女の無事を願った。

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