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勇者帝国の反逆者  作者: 畠山こくご
第三章 獣王レオン=スパーク
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21. 進むべき道

 雷岳(らいがく)フォルゴレの頂上では、傷だらけの若者が2人、地面と背を合わせながら雷雲に覆われた天を仰いでいた。

 戦いを制したのは、かつての友のように"擬奥義"を編み出したユウシの方であったが、獣王の硬く鋭い爪によって負わされた傷が深く、レオンが倒れて間もなくしてから彼もその向かいに倒れ込んでしまっていたのだ。


 「なあ、レオン。これから先、どうするつもりなんだ?」

 「わからない。薬師として……人として生きる夢が潰えた後、魔族として生きる道も絶たれてしまった。僕にはもうどうしていいのかわからないんだ」

 「人として生きるか、魔族として生きるか……その2つに1つしかない訳じゃないんじゃないか?」

 「どういうことだ?」

 「お前は魔族の生まれだけど、今では人でもある。体を見てみろよ」

 

 レオンは倒れたまま自分の両手を見て驚愕した。

 

 「どうなっているんだ? 人化の薬は飲んでいないはずだが……」

 

 彼の視界に映ったのは、獣王の逞しい手首と鋭い爪ではなく、人間として生きていた頃の細くしなやかな手だった。


 「きっと、人間の姿を保つために十数年もの間、薬を飲み続けてたんだろう? いつの間にか体がそれに馴染んで、そっちが平常時の姿になってしまったようだな」


 戦闘不能に陥った後、人化を解く薬ーー否、今となっては獣化の薬ーーの効果が切れたことにより、彼は人間・薬師レオン=スパークの姿に戻っていたのだ。

 

 「はっはっはっ、こりゃ傑作だな。人間を恨んでいた筈が、いつの間にか人間になってしまってたんだから」

 「でも、ただの人間じゃない。薬を飲んで変化したさっきの姿だってレオンのもう一つの本当の姿だ。つまり、厳密には獣王でも人間でもない中間の存在ってことだ」

 「これから先どう生きたらいいのか、益々わからなくなってきたよ」

 「どっちつかずでいいんじゃないか? レオンの師匠みたいに。人でもない魔族でもない、仙人だったんだろ?」

 

 ユウシの言葉を聞いて、レオンははっとさせられた。

 今の自分は魔族と人間、両方の立場を理解できる稀有(けう)な存在であり、もはやどちらかのためだけに生きる必要はないのだと。


 「そこで見ている2人も出てきたらどうだ?」

 「ひぃっ!」


 ユウシに突然声をかけられ、彼らの会話を聞いていた魔導姫ミスティは驚いて叫んでしまった。


 「どうしたの?」

 「私たちがいることがバレた……」


 遠くにいるユウシの声が聞こえていなかったマリンも、ミスティから彼らに気付かれたと告げられ驚きを隠せない様子だった。


 「何だ、君も気付いてたのか」

 「ああ。視覚と嗅覚を遮断していた時、冴え渡った聴覚が遠くの方でこそこそと話す彼女たちの声を捉えたんだ」


 並外れた聴覚と嗅覚を持つレオンには勿論のこと、擬奥義によって一時的に超人的な感覚を得ていたユウシにも、彼女たちがその場に存在していることは分かっていたのだ。


 「バレてたんならしょうがない、行きましょう」

 

 ミスティは誘われるまま、マリンと共にユウシたちの方へと歩みを進めた。


 近づいてくる足跡を聞いて、それまで満身創痍の状態で仰向けに脱力していた2人も傷ついた体を起こし、辛うじて立ち上がった。


 「お前たちがここに来たのは、俺たちに逆襲するためか? それとも、そこで雷を受けて光っている槍を手に入れるためか?」

 「どちらでもないわ。ただ、偶々貴方たちがこの山を登っていくのが見えたから、追いかけてみただけ」

 

 ユウシの問いかけに、ミスティは素気なく答える。


 「……ん? そっちの君は」

 「そういえばまだ名乗ってなかったわね。私はマリン=ブラッド。魔族の救世主・ミスティ=クラウンの相棒よ!」


 マリンの透き通るような青い瞳を思わず凝視してしまうユウシ。


 「ちょっと、何見てんのよ?」

 「いや、あまりにも綺麗な目をしてたから」

 「ははっ」


 ユウシと彼女たちとのやりとりを聞いていたレオンは、突然笑い出した。


 「何がおかしいの?」

 「いや、恋愛に無頓着そうなユウシがまるでナンパしてるみたいで面白かったんだよ」

 「失礼な奴だなっ」

 「ちょっと、笑わせないでよ。私まで可笑しくなっちゃうじゃない」


 つい先日には勇者ダフネの敵と味方に分かれて命を奪い合った4人だったが、そのことがまるで嘘のように平和な空気がその場には流れていた。


 ミスティたちの目的は、勇者を絶滅させて魔族を救うこと。最初は戦いになることも覚悟した上で雷岳の頂へと訪れた彼女たちだったが、今となっては勇者ではなく魔族の敵でもない彼らを攻撃する理由など微塵も存在しないのだ。


 「さて、これからどうする?」

 「僕はもう進むべき道は決まった。薬師として、魔族も人間も関係なく生くべき者を生かす。そういう君は?」

 「俺は帝国に戻って友を殺した罪を償う。そして、勇者の肩書きはなくとも自分の信じる正義のために生きようと思う」


 ユウシとレオンはお互いの進路を確認し合うと、ミスティたちの方を見た。


 「ちょっと、何見てるのよ。これって、私たちも言う流れなの?」

 「いいじゃん、言っちゃおうよ!私たちはこれからも2人で勇者殺しを続けるわ。ね、ミスティ?」

 「ええ。私たちは魔族が人間の支配下で苦しめられている今の世界を変えたい。だから、勇者殺しはやめない。たとえ、今後また貴方たちが止めに来て戦うことになったとしてもね……」


 先程までの緩んだ口元を引き締め、ミスティは杖を強く握った。

 これからも勇者殺しをすると宣言した彼女たちとユウシたちのは、決して相入れることはない。

 一時の和んでいた空気が誤りだったかのように、再び緊張感がその場に走る。

 

 「今のは何っ?」


 その時、遠くの方角で全ての音を掻き消すような爆音が鳴り響いた。


 「あっちの方角よ!」


 マリンが指差す先には黒煙が天高くまで上がっていた。 


 「あそこは鬼人(ゴブリン)たちの住処がある渓谷……こうしちゃいられないわ」

 「きっと勇者たちの襲撃に違いない!ミスティ、行かなきゃ」

 「待って、君たち!」


 レオンは呼び止めようとしたが、ミスティとマリンは爆発の起きた地点を目指して走り去ってしまった。

 「たかが鬼人たちを襲うのに、あれだけの火薬を使う必要なんてないはずだ。何かおかしい」

 「レオン! まさか、さっきの爆発は彼女たちを誘き出すための罠だっていうのか?」

 「いずれにせよ、渓谷に住む鬼人たち、彼らを襲撃している勇者たち、そして助けに向かったミスティとマリン……大勢の命が失われるかもしれない!」

 「だったら、放っておける訳ないよな?」


 レオンとユウシは顔を見合わせると、彼女たちを追いかけるため下山道へ駆け出そうとした。

 しかし、先程の戦いで肉体が限界を迎えていた2人は、|マリンたちが登って来る際に粉砕した柵の前で再び地面に倒れ込んでしまった。


 「愚かね。そんな傷だらけの体で行っても、命を捨てるようなもの……ここは私に任せなさい」


 何処からか聞こえて来る女性の声。

 動けない2人へと静かに歩み寄って来たのは、レオンの師であった。


 「師匠! やっぱり幻じゃなかったんだ……さっきまでどこへ?」

 「ずっと陰で見守っていたわ」

 「あ、あなたがレオンの師匠ですか?」


 仙人と聞いて白く長い髭を蓄えた老人の姿を思い浮かべていたユウシは、目の前に現れた若そうな女性の姿に驚きを隠せなかった。

 彼女の体は微かに薄緑色の光を帯びており、背中には蝶の翅のような形に後光のようなものが見える。その神々しさに、彼女が人間でも魔族でもない特別な存在であることは一目で窺い知れた。


 「どこかで見たことがあるような……」

 「私は"はじめまして"だと思うけど?」


 ユウシは初対面である筈の彼女の姿に何故か見覚えがあったが、それは本人によってすぐに否定されてしまった。

 彼女はレオンすらも凌ぐ程の慣れた手つきで素早く薬を調合すると、彼らの傷口に塗布し始める。


 「師匠の技能(わざ)はやっぱり凄いなぁ……僕は薬師としてまだまだ未熟だ。この戦いが終わったら、もう一度師匠のもとで修行させてください!」

 「お断りよ」


 レオンに返ってきたのは冷たく突き放すような一言だった。


 「さて、治療は終わったわよ」


 彼女にそう言われ、自分たちの体を確かめるように見る2人の若者。

 その言葉通り、ユウシの体に刻まれた獣王の爪痕も、レオンの体を斬りつけたEXカリバーの傷痕も、彼女が施した薬によって瞬時に塞がっていた。


 「レオン、あなたには教えるべきことは全て教えたわ。これ以上私のもとに居たところで、私を超えることはできない。あとは自分で技を磨いていくしかないわ」

 「師匠……」


 レオンを見つめる師の眼差しは、巣立つ子を愛おしむ親のようだった。


 「さあ、2人とも。事態は一刻を争うんでしょ? だったら、進むべき道に向かって行きなさい!」


 彼女から送られた激励の言葉に背中を押され、ユウシとレオンは鬼人(ゴブリン)たちの住む渓谷へ向けて雷岳の頂を発った。

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