1. 国立勇者養成学校
緑豊かな大草原に囲まれた城塞都市。中央に聳える帝国城の眼下には、国立勇者養成学校ーー通称・勇者学校がある。
ルドベキア帝国の子どもたちは皆、義務教育制度によってここへと入学し、幼い頃から勇者になるための英才教育を受けるのだ。
心身が十分に発達するまでは語学・数学・歴史・物理学・生活技術などの基本的な知識を教えられ、剣術・格闘術・魔族学を本格的に学ぶことができるようになるのは12歳を過ぎてからだ。
16歳になった者は卒業試験を受けることができ、一次の学科試験と二次の実技試験の両方できわめて優れた成績を残した者だけが最終試験に進むことができる。
しかし、一次・二次試験はかなりの難関であり、毎年それらを合格して最終試験を受けるのは全校生徒の1割に満たない。
試験に受からないまま19歳以上に達した者は"見込みなし"として強制的に卒業させられてしまい、勇者の道を諦めなければならないが、そんな生徒の方が圧倒的に多数を占める。
ある日の昼下がり。雲一つない青空の下、校庭に召集された生徒たちはざわめいていた。
これから壇上にいる校長が最終試験の受験資格者を発表するのだ。
今年初めて試験を受けた者、18歳で最後のチャンスに賭ける者、それぞれが緊張した面持ちで校長の第一声をまだかと待ち侘びている。
「諸君!只今より卒業二次試験の合格者を発表する。最終試験の受験資格を得たのは3名だ!」
毎年名前を呼ばれるのは1名から4名程度であり、今年はまだ多い方だった。全校生徒は静まり返り、期待と不安を募らせながら発表に耳を傾ける。
「ヒロ=クローバー!」
名前を呼ばれた人物へと視線が集まり、拍手が巻き起こる。
1人目は今年初めて試験を受けた16歳の少年だった。彼は特に戦闘技能において優れた実力を有し、剣の腕前は全校生徒で1、2を争う程だ。
そのため、実技の二次試験の結果発表で彼の名が呼ばれるのは他の生徒たちにとって意外なことではなかった。
「リリカ=クリヴィア!」
2人目も初受験となる16歳だった。彼女は学業においては校内トップの成績を誇り、父が高名な勇者ということもあってその名前を知らない者はいなかった。
2名連続で初受験の生徒が呼ばれ、18歳を迎えるラストチャンス組は絶望で表情が曇っていく。
何故なら、彼らには最後に呼ばれるであろう人物に心当たりがあったからだ。
「ユウシ=ハラン!」
そして、3人目の名前が声高に叫ばれる。大方の予想通り合格した彼は、勇者学校において学業・戦闘実技ともにトップクラスの実力を誇る自他共に認める優等生だ。
そして、これから始まる物語の主人公でもある。
涙を流し膝から崩れ落ちる者、心の底から祝福し拍手を送る者、それぞれが壇上へと上がる彼らを見送る。
校長は前に並んだ3人に最終試験の内容を宣告した。
「君たちはまだ、勇者になるための最終試験の土俵に上がったに過ぎない。心して聞くがよい。試験は3日後。1人につき最低1枚、鳥人の羽を持ち帰るのだ!」
「はいっ!」
3人揃って返事をすると、その様子を見ていた生徒たちが一斉に声援を送り、校庭は大いに沸き上がった。
最終試験の内容は毎回発表するまではわからないという体をとっているが、例年全く同じである。勇者学校の生徒にとってはそれが初の魔族との実戦経験となり、これまで死者が出たことはないものの半数が脱落してきた難関である。
勇者になるための最後の試練に向け、3人の若者は全校生徒に一礼をすると、決意を固めた面持ちで壇上から降りた。