「この試合でハットトリック決めたら、あの娘に告白する」……やはりそれはフラグだった
中学校最後の夏の大会で県大会へと駒を進めた参納中学、その一回戦の相手は優勝候補筆頭の頭韻中学だった。
しかし、参納中学は今大会のダークホースと言われるほど実力を見せて地区大会会を勝ち上がってきたのだ。胸を借りる気などさらさら無く、皆は勝つつもりで試合に臨んだ。
試合前に円陣を組んだ時にFWの男が呟いた。
「俺、この試合でハットトリック決めたら、あの娘に告白する」
皆が一様に思った。『フラグ』だと。
監督すら、彼の起用を一瞬躊躇した程だった。
~~~
「今日の黒田は絶好調だな」
監督の拳にも力が入る。
前半の立ち上がりに、ミスとセットプレーで、簡単に2点取られてしまったが、前半の15分と30分にどちらもFWの黒田が点を決め同点で折り返したのだった。
「よし、よくやった。優勝候補相手に一歩も引けを取っていないぞ。うちは強い。皆を信じて自分を信じ、勝利をもぎ取ってこい!」
ハーフタイムは監督の力強い言葉で締め括られ送り出される。
「みんな、まずは1点。逆転しよう。絶対勝つぞ!」
「「「おぉぉぉ!」」」
キャプテンでDFの広崎が気合を入れるとチームメイトはそれに応え、後半のピッチに散って行った。
後半開始早々にMF永瀬がペナルティーエリア内で倒されてPKを得た。永瀬が負傷退場した為にFWの二人で相談した結果まだ点を決めていない吉田がキッカーを務め3-2と逆転した。
だが、リードしたのも束の間、同点弾を許し3-3となった。
しかし、後半20分に、点を取ってから動きの良くなっていたFW吉田が本日2点目のゴールを決める。
所が、相手も流石に優勝候補だけの事はあった。後半25分に30m越えのロングシュートが参納ゴールに突き刺さり、三度の同点劇に会場は大いに盛り上がった。
一気に流れを引き寄せた頭韻中学は猛攻を掛けたが、結局ゴールは割れずに後半30分を過ぎて、残すはアディショナルタイムのみとなった。
その時、一瞬の隙を突いたスルーパスが通り、FWの吉田がGKと一対一になる。落ち着いてコースを狙ったシュートは無情にもポストに阻まれた。
主審が笛を口に加え『ピッピー』と吹いた。
詰めていた黒田のゴールが認められ5-4となった。
『ピッ、ピッ、ピー』
頭韻中学もすぐにキックオフするが、試合終了のホイッスルが高らかと鳴り響いた。
勝利に沸く参納ナインの中でただ一人崩れ落ちた者がいた。
「お、俺の告白がぁ!」
頭を抱えていたのはFWの吉田だった。