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風探偵――五龍の使い手たち  作者: 安田けいじ
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新米探偵

 神一は、高校を卒業して社会人となり、父の探偵の仕事を手伝っており、真王は、高校三年生になっていた。彼女の卒業後に、二人が結婚する事を親達も認めたことで、彼らは同じ部屋に住み始めていた。


 二人は、一年前から鳳道場の敷地内の竹林の中で、風の技の腕が鈍らないようにと修行を始めていて、互いに空手と風破かざはを融合させた格闘術を完成させていた。

 

「神ちゃん、朝ごはん作ってあるから後で食べて。学校へ行ってくるね」


 神一は、夜中まで探偵の監視の仕事をしていた為、まだ布団の中にいて、夢心地で真王の声を聞いていた。


 彼は、午前十時頃に起きだすと、真王の作った朝食を食べて、隣の探偵事務所に入っていった。


「神一、昨日、動きはあったか?」


「特にありませんでした。今晩も張り込みます」


 彼は今、浮気調査を担当していて、夜の調査が多く生活が不規則になっているのだ。浮気調査は、十九歳の彼には少し刺激が大きすぎる案件だったが、これも社会勉強だと父が決めたことだった。

 報告が終わると、階下から漏れてくるコーヒーの香りに誘われるように、喫茶ウインドに入っていった。


「神ちゃん、どう、仕事は慣れた?」


 四十過ぎで、独り者の美人ママ、風花ふうかがコーヒーを出しながら神一に笑顔を送った。彼女は、アパートのオーナーでもあり、この店は、夜になるとスナック喫茶となって、酒中心のメニューになる。


「ぼちぼちですね。仕事は面白いですが、時間が不規則だからそれが難点かな」


 厨房には、風太郎ふうたろうと言う五十前の男が入っていて、元やくざとかで、顔は怖いが話すと案外優しい人物である。裏稼業の情報に詳しいので、神一も、時々世話になることがあった。

 他に、警察の風間かざま警部、おかまの風子ふうこ、ホステスの風音かざねなどが、此処の常連である。


 神一は、コーヒーを飲み終えると、五月の爽やかな風が吹く戸外へと出て、暫く考え事をしながら街を歩いた。彼は、これから戦わねばならないであろう風の使い手達の事が、頭から離れなかったのである。



 それから数日が経って、事務所で仕事をしている神一の携帯に電話が入った。それは警察からで、真王が乱闘騒ぎを起こしたとの事だった。神一は、慌てて、警察署に駆けつけた。

 取調室の一室に入ると、真王が怒りをあらわにして担当刑事に噛み付いていた。


「あ、神ちゃんひどいのよ。友達がいじめられていたから助けてあげたのに、この人達私が悪いというの」


「婚約者の風といいます。何があったんです?」


 神一は、丁寧に頭を下げてから、若い刑事の横に座った。

  

「実は、お友達がチンピラに絡まれていたのを、真王さんが助けたんですが、相手の四人の男をボコボコにしてしまったんです。全員、今病院ですが、重傷者はいません。真王さんは空手の有段者ですので、過剰防衛だと注意したんですが、私は悪くないと言って聞いてくれないんですよ。確かに先に暴力を振るったのはチンピラの方なんですけどね」


 若い刑事は困り顔で言った。


「そうですか、私からもよく言って聞かせますので、今日の所は帰してもらえませんか?」


「そうしてください。今回は、相手が相手ですし告訴はされないと思いますが、学校もあと一年でしょう。退学になる可能性だってありますからね」


 真王は、納得いかない様子だったが、神一に無理やり頭を下げさせられて、帰宅の途に就いた。

 家に帰って、二人で食卓を囲み、食事をしながらも真王は機嫌が悪かった。


「真王、機嫌を直せよ。納得いかないのも分かるけど、怪我をさせてしまったのはまずかったな。僕たちは、空手だけでも普通の人より強い力を持っている。まして、風の力の事を考えると、今回の事はお互い良い教訓になったと思うよ」


「なんで?」


「俺たちと同じ力を持っている者同志が戦ったらどうなる? 恐らく命のやり取りになってしまうだろう。こっちも負けるわけにはいかないし、勝って相手を殺してしまったら犯罪者になる。そこまでいかなくても重傷を負わせただけでも捕まってしまう。そうならないように三つの秘伝書を手に入れる事は至難の業だと思う。

 相手を傷つけずに屈服させる力を付けておかないと、この戦いには望めないという事だ。お互い、もっと修業が必要だね」


「ほんと難しいね……。でも、戦って相手が互角以上なら全力でぶつかるしかないわよね」


「その時は、腹を決めるしかない。万一の時は、秘伝書を始末した時点で自首するさ」


 二人は、自分たちがやろうとしている事が、どれだけ大変な事かに思い至ると沈黙してしまった。


 二人はベッドに入っても、なかなか寝付けなかった。すると、神一が彼女の布団の中に潜り込んで来た。


「なに?」


「おいで」

 

 二人は、修行でボロボロになった時のように抱き合って、互いの温もりを感じながら眠りについた。



 ある日の事、鳳沙也加が、久しぶりに神一達の部屋を訪ねて来た。彼女は、卒業して父の道場を手伝っていて、世界チャンピオンを出した道場と言うので、入門者も増えていた。


「実はね、一週間前の事なんだけど、ガラの悪い不動産屋が再三やって来て、うちの道場の敷地を売ってくれと言ってきたの。当然、父は断ったんだけど。その次の日から、道場の前にやくざみたいなのが何人か現れて、生徒を脅して嫌がらせをするようになったのよ。お陰で生徒たちが怖がって、開店休業状態になってしまっているの」


「警察に言ってもだめなんですか?」


「警察が来たら居なくなるんだけど、帰ると何処からかまたやってくるの。しつこい奴らよ」


 沙也加は、苛立つように言った。 


「少し黒幕を調べてみるよ」


「ごめんなさい。ほかに相談する人がいないから」


「他ならぬ沙也加先輩の頼みですので、お任せ下さい」


 次の日の夜、神一と真王が、鳳道場の様子を見に行くと、案の定、やくざっぽい男達が、門の前に屯していた。




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