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風探偵――五龍の使い手たち  作者: 安田けいじ
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新しい生活

  神一が大阪の天王寺駅に着くと、母、正子が迎えに来ていた。彼女は、改札を通る多くの人の中に神一を見つけると、笑顔で駆け寄り、鍛え抜いて頼もしくなった我が子を眩しそうに見た。


「神一、大きくなって……」


 四年ぶりに会った母は、山仕事をしていた時とは違い、あか抜けていて綺麗になったと神一は思った。


「父さんも元気でやっているの?」


「元気よ、成長したお前を見たら喜ぶと思うよ」


 神一は、母と共に電車を乗り継いで、とある駅に降りたった。そこから歩き、繁華街を突き抜けた町外れに、両親の住むアパートがあった。一階は喫茶店で、二階の端の部屋のドアには、“風探偵社”の看板が掲げられていた。部屋の中に入ると、一番奥の机で仕事をしている父の姿が見えた。


「お父さん、神一ですよ」


「おう、神一、風の技を習得出来たそうだな。ええ顔つきになった」


 父は、我が子の顔をしげしげと見つめて、労うような優しい表情を見せた。


「父さんも母さんも、僕が風の修行してきたことを知っていたの?」


「ああ、父さんたちも、小さい時から風の修行をしていたんだが、大した力は付けられなかった。源爺から聞いたと思うが、大変な役目をお前たちに託すことになってしまって、

申し訳ないと思っている。出来るだけのサポートはするからな。

 隣の部屋がお父さん達の部屋で、次の三号室がお前の部屋だ。自由に使うといい」


 神一は、早速、自分の部屋に入って荷物を解き、室内を見て回った。キッチンも、お風呂も完備されていて便利に作られてはいたが、田舎暮育ちの神一にとっては、何か味気ないようにも感じられた。


 大阪での高校生活がスタートして、神一は身体が鈍らないようにと、空手部に入った。風の修行は場所を選ばなければ出来ないし、武道をしておけば、実戦の為の訓練にもなると思ったからである。


 厳しい風の訓練で、鍛え上げられた神一にとっては、空手の稽古も遊びのようだったが、防具を付けての試合は興味深かった。やるかやられるかの、真剣勝負の感覚を身に付け、半年もすると、先輩達でも神一に勝てる者はいなくなった。

 そして、秋になって、府の大会に神一が出ることになったのである。


 大阪中から強者があつまっていたが、彼は順調に勝ち上がり、あれよあれよという間に決勝戦迄勝ち上がっていった。


 決勝の相手は、三年の水神天真みずがみてんま、貴公子の様な風貌の彼はこの大会で一番人気があって、黄色い声が飛び交っていた。


 彼の拳はキレがあり凄まじい気迫があった。試合開始と共に、拳が、蹴りが神一を襲って来る。それを躱しながら神一も拳を繰り出すが、相手を捉える事は出来なかった。今までの相手とはレベルが違った。


 双方決め手がないまま、残り時間が少なくなった、その時。天真の拳と神一の蹴りが同時に炸裂し、天真は踏みとどまり、神一は、ドッと後ろに倒れ込んだ。判定は天真に上がった。神一の蹴りより早く、天真の拳が神一の顔面を捕らえていたのだ。


 負ける気のしなかった、神一のショックは大きく、「くそっ!」と拳で床を打った。悔しさで頭が一杯の神一に、女子の部で優勝した、同じ学校で二年の鳳沙也加が、背中をポンと叩いてきた。


「凄いね。一年生で全国大会出場だよ!」


「えっ、そうなんですか?」


「出場枠は二名だから、間違いないわ。天真さんは負け知らずだそうよ、相手が悪かったわね」


 神一は、全国大会という、天真と再び戦うチャンスがある事に喜び、その日から稽古に余念がなかった。しかし、学校では神一に敵う者はいない。強い者と戦わなければ強くなれないと思った神一は、近くの空手道場の門を叩いた。


 そこは、空手部の先輩、鳳沙也加の父の道場だった。鳳師範は、「ほう」と言って神一の顔を、鋭い目でじっと見た。


「それ以上強くなってどうするんだい。君は空手以外にも、何か格闘技をやっているね。それも達人級だ」


 神一は、自分の事を見透かされた気がして、一瞬驚いたが表情は変えなかった。


 何事も、達人の域にある者には、通じるものがあるのかと神一は思ったが、本当のことを言う訳にもいかず、空手の全国大会で勝ちたい相手がいるから、教えを請いたいと頭を下げた。


「いいでしょう。それでは、うちの師範代と勝負してもらって、君の実力を見せてもらおうか」


 師範代と言うのは、娘の沙也加のことだった。空手部では、男女で試合をする事が無いので、彼女と戦った事は無かった。二人が防具を付けると、試合が始まった。彼女も師範代と言うだけあって動きは速く、最初は一本取られ、二回目は神一が勝った。


「相手が女だからと言って遠慮しているのかな? 君は、力をセーブしすぎているように思うんだが、どうだ。空手の経験が浅くても、今の君ならもっと強いはずだ」


 鳳師範が口を出して来るが、神一には、何のことやら分からない。


「自分では、全力を出しているつもりですが……」


「それは、無意識にセーブしているんだと思う。君の、本当の技を見せてもらう訳にはいかないかな?」


「……」


 神一は、どうしたものかと迷ってしまったが、この人は信用できるとも思った。


「では、先生にだけお見せします。二人だけにしてください」


 沙也加が道場を出ていくと、道場の隅に吊ってあったサンドバッグ目掛けて神一は風波を放った。師範には、軽く掌をサンドバッグに翳しただけのように見えたが、サンドバッグは、真っ二つに裂けて飛び散った。



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