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風探偵――五龍の使い手たち  作者: 安田けいじ
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勝つ為の修業②

 春がやって来て、神一は三年生になった。


「お前たちの修行も、神一が中学を卒業するまでの一年となった。神一も大阪へ出たら、今のような修業は出来なくなるだろうから、この一年が最後と思って頑張ってくれ。決して他人にこの技を見せてはいけないぞ」


 源爺の言葉に、真王が一瞬寂しそうな顔になるのを神一は見逃さなかった。


「一年たてば、大阪でまた会えるよ。同じ高校に来るんだよ」


 真王の顔に笑顔が戻って「うん」と頷いた。真王も十四歳になって、背は相変わらず低かったが、少しずつ子供から大人の身体へと変わりつつあって、綺麗になったと神一は思った。


「ところで、帯電体質の方はよくなったの?」


 神一が、真王の顔を覗き込むように聞くと、いきなり真王が神一の手を素手で握ってきた。思わず手を振り払おうとした神一だったが、電気は感じなかった。


「コントロールできるようになったんだね、よかったなあ」


 神一が彼女の両手を取って、歓喜の声を上げた。


「ありがとう。放電、蓄電が自在にできるようになったから、これも武器の一つになると思う」


「うむ、少し、雷の章を修行してみるか。神一は龍の風に挑戦してみろ」


 源爺の指示で、二人の最後の修行が始まった。


 二人とも基本は完全に出来ているから、飲み込みも早かった。神一はつむじ風を起こして、それをコントロールして岩に激突させたり、水を巻き上げたりしたが、まだまだ竜巻のレベルではなかった。

 だが、日が経つにつれて、彼は雲を操る事を覚え、巨大な竜巻を出現させる事に成功して、風の里の木々を倒さんばかりに揺らしたのである。


「神一! それくらいにしておけ、里が壊れてしまうぞ!」


 あまりのパワーの強大さに源爺がストップをかけた。



 一方、真王の雷の修行も凄まじかった。二つのつむじ風を激突させて、その摩擦で起きた電気を身体に取り込み、一気に相手に放電する真王ならではの技である。今は、接近戦でしか使えなかったり、電力が大きすぎると身体に負担がかかってしまうという難点があった。

 だが、彼女は雷雲を発生させて、自然の雷を操る修行へと入っていった。



 学校では、帯電体質も消え、真王に友達も出来て、普通の学校生活が送れるようになっていた。

 ある日の帰り道、お互いの今日の出来事を話し合いながら山道を登っていると、前方に二メートルはありそうな、大イノシシに出くわした。神一が、真王をかばって前に出て、風破の構えになった。


「神ちゃん、私に任せて!」


 真王は、神一を制して前に出ると、風を起こし大イノシシを宙に浮かせた。イノシシは足をバタつかせながら彼らの頭上を通過して、下の山道にそっと下ろされた。イノシシは、振り返りもしないで一目散に立ち去っていった。


「真王は優しいんだな。今日は猪鍋が食えると思っていたのに残念だったなあ」


「ばか」


 真王が神一を睨んだ。



 月日は経って、終に修行の終わりの日が来た。彼らは、ほぼ、すべての風の技を修得しており、彼女に至っては、雷の技も身に付けていた。


 家に帰って囲炉裏を囲むと、源爺は、風、心、雷の三つの巻物を火の中に投げ入れてしまった。


「これで、修行は終わりだ。神一も真王もよく頑張り、立派な風の戦士になった。来月には、神一も大阪へ行ってしまうし寂しくなるが、来年の春には、わし達も大阪へ行くからな。また一緒に暮らすことになるだろう。

 この稲妻家は風の宗家の末裔でな、真王はその血を継いでおる。帯電体質もその証の一つだろう。さて、これからの事なんだが……」


 源爺は、言葉を切って、二人をじっと見てから再び話し始めた。


「二人とも、風の力を付けた以上、他人にその事を知られてはならん。知られてしまうと、超能力者として、世間の晒し者になってしまう可能性があるからだ。だから、残る三つの秘伝書の件も、隠密裏に運ばねばならん。

 そこで、今後協力し合って事に当たらなければならないなら、お前たちは夫婦になるのが一番いいと思うんだが、どうだろう。むろん、高校を卒業してからの話なんだが」


 神一達は、突然の結婚の話に「夫婦?」と言って顔を見合わせた。 


「神ちゃん、私みたいなチビなんかと結婚したくないでしょ」


「えっ、いや、そんな事は……」


 神一は、真王に見つめられて、思わず視線をそらした。


「いや、無理にというのではないから、考えておいてくれ」


「……」


 神一が、出発する前の夜、いつものように、二人は布団を並べて遅くまで語り合った。


「俺が居なくなると寂しい?」


「寂しくなんかない。すぐ会えるし、友達もいるから」


「そうか、よかった」


「夫婦になる話だけど、……僕は真王さえよかったらそうしたいと思う」


 神一は、顔を赤らめながら言った。


「ほんとに私でいいの? 嬉しい!」


 真王の瞳が潤んで、神一の布団の中に飛び込んで来た。神一は、思わずドキッとしたが、見つめ合って真王が静かに目を閉じると、二人は、初めての口づけをした。それは、唇を合わせただけのものだったが、初心な二人の婚約の儀式でもあった。


 次の朝、綺麗に晴れ渡った青い空と、故郷の山々を感慨深げに仰ぎながら、神一は大阪へと旅立って行った。


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