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風探偵――五龍の使い手たち  作者: 安田けいじ
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風探偵③

 神一が月明かりを頼りに、冷たい缶コーヒーを飲みながら、民家から遠く離れた海岸に着くと、そこには、トーマスと日本髪を下して、洋服姿になった女将が寄り添って立っていた。


「こんな寂しい場所で、話とは何です?」


 神一は、油断なく身構えながら二人に近づいた。


「今、私達は捕まるわけにはいかないのです。私達を見逃してください!」


 トーマスが、必死の形相で神一に懇願した。


「それは出来ません。あなた方は愛し合っているんですね。それなら猶更罪を償うべきです。逃げたとしても幸せにはなれませんよ!」


 神一がきっぱり言うと、女将の伊藤真理は顔を覆って泣き崩れた。その肩を抱きながら、トーマスの顔がみるみるうちに怒りに満ちていった。


「ならば、死んでいただく!!」


 神一を殺すべくトーマスが心に念じると、海岸の砂が音をたてて盛り上がり、神一に襲い掛かった。砂の山が神一に覆い被さるのを、彼は風の盾で撃ち返した。

 海を背にしていた神一が、印を結んで竜巻で応戦しようとした時、彼の背後から、海水が津波のように押し寄せて飲み込んだ。


「何! 同時に二つの物を動かせるのか!?」


 不意を突かれた神一だったが、海水に巻かれながらも、風を起こし竜巻を作っていた。生き物のように神一を飲み込んで離さない海水の傍で、竜巻は成長し大竜巻となると、砂を巻き上げ、彼を飲み込んでいた海水までも吸収して巨大化していった。


 神一は、全力の風破を撃って海水を吹き飛ばすと、空中に飛び上がり竜巻を操ってトーマスを襲わせた。

 トーマスは、海の津波と砂の津波を操り、神一の竜巻を挟み撃ちにして我が身を護ろうとした。だが、大竜巻の勢いが勝り、二つの津波を吹き飛ばすと、神一が翳した右手から、風破が放たれた。


「ウッ」トーマスは、風破をまともに受けると、苦悶の表情でその場に倒れ込んだ。


「ジャック!! アーーーーーーッ!!」


 突然、女将が、泣き声の様な、叫びのような金切り声を発したと思うと、彼女の後方にあった岩や石を瞬時に浮かび上がらせ、空から下りて来た神一目掛け雨のように降らしたのである。

 彼女の長い髪は逆立ち、その美しい顔は鬼の形相となって、神一を睨みつけていた。凄まじい念動力のパワーは、トーマスの比ではなかった。


 神一は咄嗟に風破を数発撃って、巨大な岩石を砕いたが、無数の岩石群を防ぎきれず、風に乗って後方へと後退した。これでは埒が明かないと考えた彼は、今度は風御で応戦した。岩と岩とが空中で激しくぶつかり砕け散って、辺りは砂塵に覆われてしまった。


「アアーーーーーーーーッ!!!!!!」


 彼女の怒りは更に増長し、理性を突き破って暴走を始めた。砂が、水が、岩がそこにある全ての物が、彼女を中心にしてゴーゴーと巨大な渦を巻きだしたのである。

 時折放つ神一の風破が彼女にヒットしたが、怒り猛る彼女にダメージは与えられなかった。神一は、彼女のパワーに押され気味になりながら、殺す訳にもいかず、どうしたものかと思いを巡らしていた。


 その途端、彼女の眼が神一の眼を捉えると、一気に神一に力を放った。


「ウウッ!!」


 神一は、身体の中が張り裂けそうな感覚に襲われてガクンと膝を折った。彼女は田中社長を殺した時のように、神一の心臓を握りつぶそうとしていたのだ。


 神一は、苦しみながらも雷雲を呼んで空中に舞い上がり、雷撃の体制に入った。ゴロゴロとなっていた雷が、天を揺さぶった瞬間、神一がポケットの空き缶を彼女に投げつけると、雷撃は空き缶に炸裂し、彼女をも巻き込んだ。


「ギャーッ!!」


 悲鳴と共に、彼女は数メートルも飛ばされて、動かなくなった。


 暴走し、凄まじい念動力を使うトーマス達だったが、雷撃を防御する術さえ知らぬ素人でもあった。神一の空き缶を利用しての雷撃は、彼女を護るための苦肉の策だったのである。


 海水が、砂が、岩石群が、一気に力を失い、ズズーンと落下して戦いは終わった。

 神一は、救急車と岡田警部を呼んで、彼らを病院へと運んだ。



「二人共、一命は取り留めたようです」


 岡田警部が、待合室で座っている神一の横に来て、伝えてくれた。


「そうですか。能力者とはいえ、身体は普通の人間ですから、少し心配していたんです。よかった」


 神一は、今朝からのいきさつを、岡田警部に説明した。


「なるほど、現場の砂浜がひどい事になっていたので、何があったのかと思いました」


「怪我が完治すれば彼女も収監されるんでしょうが、その気になれば一メートルのコンクリートの壁も壊してしまう力がありますから、よく話しておく方がいいと思います」


「そんなに凄いんですか!? 我々の手には負えませんね。……もう少し滞在して、力を貸してもらうわけにはいきませんか?」


「いいですよ。彼らが話せるようになるまで、観光でもして来ます」


「是非、そうしてください!」


 困り顔の岡田警部に、笑みが戻った。



 それから、二週間、神一は、周囲の島々をめぐって、釣りやら、海水浴、山登り等を楽しんだ。彼にとっては最高のバカンスになったが、真王や美王がいない事を思うと、時に虚しくもなった。


 八丈島に戻った神一は、そのまま病院へと向かった。彼が病室に入ると、そこには、トーマスと女将の伊藤真理が、ベッドを並べて寝ていた。


「調子はどうですか? 怪我をさせてすみません」


 優しく声を掛ける神一を見て、二人はベッドの上で起き上がった。


「ああ、そのままでいいですよ、楽にしてください。今日は世間話をしに来たのです」


「ご迷惑をおかけしました。申し訳ありません」


 トーマスと女将が、深く頭を下げた。


「私の事はいいんです。あの戦いは無かった事にしてありますので、お二人は田中社長の殺人の罪で裁かれます。過剰防衛の感もありますが、そう長くはならないと思います。問題は、その後の事です。

 世間はあなた方の能力の事を知りませんから、密やかに暮らす事も出来ますが、いつ何が起きるか分からないのが人生です。また発作的に、能力を使う事があるかも知れません。その根を取っておきたいのです」


「どうすればいいのですか?」


 トーマスと女将が、身を乗り出して神一の答えを待った。


「一つは、私達と同じ能力者として、世の為に働く事です。しかし、これは茨の道と考えて下さい、二人で戦えますが命の保証はありません。

 もう一つは、何があっても能力を使わないように、精神面の訓練を受けてもらいます。きつい訓練となるでしょうが、それに合格できれば、普通の生活に戻れます。但し、万一の為に常に監視はされますが、全てのプライベイトが無くなるわけではありませんから安心して下さい」


「真理、どうする。僕は君に従うよ」


 トーマスが、女将の伊藤真理に選択を促した。


「あんな事をしておいて何ですが、戦いは私達には向いていません。許されるなら、精神力で抑える訓練を受けて、二人静かに暮らしたいです」


 真理がそう言ってトーマスを振り返ると、彼はニコッと笑って頷いた。


「分かりました、その線で、政府と相談します。訓練は収監中も行われますから、順調にいけば数年で出られるかもしれません。では、私はこれで失礼します。お元気で」


 神一は、病院を出ると岡田警部に礼を言って、機中の人となった。



 それから、一年の月日が流れた。神一の両親や、以前、里に住んでいた人達も風の里に帰って来て、里は十数軒の村落を形成していた。神一の両親は探偵社の本部を里において、大阪と和歌山市内の出張所を窓口としてテレビ電話などで仕事を熟していた。

 火王家と、土鬼家も里に住むことになり、家を新築中である。風花、風太郎、も越してきて、喫茶、ウインドも開業まじかである。風間警部や、おかまの風子は大阪に残っている。


 山道を歩いて学校へ通った道は車が通れる道路に改修されて、街との行き来も楽になっていた。

 神一達、風の使い手は、相変わらず日本中の難事件の解決に当たっていたが、たまに海外の仕事も飛び込んでくることもあり、アメリカの雷武と連絡を取り合う事が多くなって、テレビ越しにではあるが、彼の元気な顔を見ることができた。


 神一の家は、一階が特務のセンターとなっており二階は彼らの居住区になっている。


「あなた、買い物に行ってくるから、美王をお願い」


「ああ、気をつけてね」


 真王は免許を持たないので、いつも街までは風に乗っていく。運転手付きの車が一台

あるのだが、あまり使おうとしなくて、買い物籠代わりのリュックを背負って、空へと舞い上がって行くのが常だった。


 神一は、美王を抱きあげると、センターに顔を出してオペレーターから報告を受けたり、資料に目を通したりしている。美王も一歳になり、一人歩きが出来るようになっていた。美王は、神一の周りでウロウロしているが、何か用事があると腕を引っ張りに来る。彼が仕事に熱中していて構ってやらないと、可愛い電撃が飛んで来た。


「イテッ、こらっ、美王そんな事をしちゃだめだろう!」


 神一が叱っても、あまり泣かない。いつ頃から訓練を始めようかと、そんなことが神一の頭をよぎるようになっていた。



 今日は、喫茶ウインドの落成を祝って里の皆が集まる日で、大阪の風間警部や風子も駆けつけて来た。

 風花と風太郎は数年前に一緒になって、商売に精を出していたが、神一達や、両親の仕事に携わる、二十人を超す職員の食事を賄う事になって、里に移ってきたわけである。

 一階は喫茶、二階が食堂になっていて、ウエイターも数人雇っている。


「風花さん、風太郎さん、開店おめでとうございます」


 昼前になると、次々とお祝いの言葉を述べながら皆が集まって来た。全員が集まると、長老の源爺が挨拶に立った。


「風花さん、風太郎君、開店おめでとう。風の里が、こんな形で復興するなんて夢にも思わなんだ。最後まで里を守って来た私にとっては、感慨深いものがあります。皆もよく帰って来てくれた。本当にありがとう。

 さて、神一と真王を中心として、風の技の使い手が世界の為に働いてくれている事は、長老としてもありがたい事だと思っています。今までは、強力すぎる風の技を真王の代で終わりにしたいと考えて、全ての秘伝書を焼却して来ましたが、世の乱れは、まだまだ、私達を必要としていると感じる日々です。そこで、政府公認の上での、後継者育成をする方向に考え方を変えたいと思うがどうじゃろう?」


 一同から、「源爺と、真王さん、神一さんに一任します!」と賛同の意見があがった。


「ありがとう、今後は真王と神一を中心に、風の里を盛り立てて行ってもらいたい。喫茶ウインドの開店本当におめでとう。皆さん、せいぜいお金を使っていってください」


 爆笑の内に歓談に入り、皆、懐かしい面々と至福のひと時を過ごした。話の中で、火王の嫁沙也加と、土鬼の嫁風音が懐妊したことが発表されて、歓声が上がった。


「ベビーラッシュだな。これで、風の里も、安泰じゃ。いや、めでたい、めでたい」


 源爺の嬉しそうな笑い声が、部屋に響いた。


 楽しい宴会も終わり、神一が、お眠になった美王を抱いて真王と外に出ると、日はとっぷりと暮れていた。あちこちに点在する家々の明かりが点いて、何とも言えぬ風情を醸し出していた。


「美王も疲れたみたいね。でも、今日は楽しかったわ。風の里にこんな日が来るなんて夢のようだわ」


「うん、僕たちが命懸けで戦い続けた結果だよ。美王の世代の為にも、これからも頑張らないとな」


「そうね」


 真王が嬉しそうに神一と美王に寄り添った。空には、大月天が風の里の新たな船出を祝福するかのように、煌々と輝いていた。


                                        

 END -   ご愛読ありがとうございました。         

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