雷神VS雷神
事件の手掛かりが無いまま、数日が経った真夜中の事である。俄かに、雷の音が天に轟き、神一達はホテルの外へと飛び出した。
彼らは風に乗り、海岸沿いに不審な人物がいないか捜索していった。そして、雷雲の真下に来た辺りで、空中に浮かぶ一人の男に遭遇したのである。
「天真! 天真じゃないのか?!」
神一が思わず声を掛けたのは、稲妻に照らされたその顔が、高校生の頃の天真にそっくりだったからだ。男は、空から下りてくると、つかつかと神一の前に歩み寄った。
「私は水神雷武、天真の弟だ!」
「……そうだったのか。それで納得がいった。君がこの雷を操っているんだな。何故、人を殺すんだ!」
「悪い奴を殺して何故いけないんだ。お前達だって兄や父を殺したじゃないか。何が違うというのだ!?」
「あの時は、やらなければ多くの人間が殺され不幸になっていた。今のお前とは根本的に状況が違う。悪人だからと言って簡単に殺していい筈もない。
今迄何処に居たんだ? 天真との闘いの時、何故、水神一族と行動を共にしなかった」
「私には兄たちのような野望は無い。考え方が違いすぎて父や兄達とは袂を分かち、海外に居たんだ。兄の死んだ事を聞かされても、自業自得だと思っていた。
それが一月前の事に、テレビで兄と闘う宗家の力を見て私の中で何かが弾けた。宗家と戦ってみたくなって帰国し、お前達を誘き寄せる為に事件を起こしたと言う訳だ」
「雷の技は、誰から教わったんだ?」
「父だよ。小さい時から徹底して叩きこまれた。お陰で、その奥義を極めることが出来た。私と戦ってくれるよね、可愛い宗家さん。貴女と闘う事を楽しみにして来たんだ」
雷武は、神一から真王に視線を移して微笑みかけた。
「お相手しましょう」
真王が顔を厳しくして答えた。
「雷武、実は宗家は妊娠している。戦いは僕の身体でやるがいいか?」
「? お前たちは夫婦なのか? 心を入れ替えようというんだな。好きにしろ」
雷武はそう言うと、印を結び夜空へと上がっていった。真王は、ふーっと大きく息を吐くと、神一の心の中に入り、雷武の後を追って空へと消えた。土鬼と火王は、真王の身体を護って後方に下がり、天空を見上げた。
耳を劈く雷鳴が轟き渡り、真王と雷武の戦いが始まった。真王は、最初から二匹の電光龍を出現させて一気に勝負に出た。天空で対峙した雷武も、真王と同じ様に瞑目し、印を結んで“百龍雷破”を撃って来た。
百龍の間断なき雷撃を、双竜はその大きな身体で防御しながら雷撃破を吐いて応戦した。
百龍と双竜の激しい戦いは、夜の海岸を真昼のように明るく照らしながら、互角の戦いを展開していた。
だが、時間と共に、真王の操る双竜の動きが鈍くなって来たのだ。反対に、雷武の百龍の攻撃は更に激しさを増し、双竜の防御を突破して、一つ二つと神一に命中しだしたのである。
真王と神一は、電気エネルギーを凝縮した電磁バリアーを張って身体を護ったが、力の持続が困難になって来ていた。
「真王! これでは持たないぞ!」
「雷武の力がこれほどのものとは思わなかったわ。私は自分の身体に戻るから、あなたは電磁バリアーを張り続けて海中に逃げて! 力を抜いたら真っ黒こげになるわよ!」
真王が叫んで、神一が何か言おうとした刹那、彼女の気配は消えて双竜が雲散霧消すると、無数の雷撃が神一に炸裂し、凄まじい衝撃に襲われた。
「ウウッ!!」
彼は、雷撃を電磁バリアーで防御しながら、落ちるように海中へ飛び込むと、そのまま海中を沖へと逃げていった。雷撃は容赦なく海面に降り注いだが、海中深く潜った神一に大したダメージは無かった。
神一が、数百メートル沖で顔を出すと、海岸では、百龍雷破が海面に降り注いで、辺りを明るく照らし出していた。
「何て奴だ! 双竜雷破も効かんとは……」
その時、雷撃が止み、暗くなった海岸の方から、青い光が空に上がって行った。
「真王! 何をする気だ。子供に何かあったらどうするんだ! くそっ!」
神一の叫びは真王には届かなかった。彼は、慌てて風を起こすと、再び、雷武のいる空へと舞い上がった。
そこでは、既に真王と雷武が睨み合っていた。
「今度は自分の身体で来たのか? あの程度では僕は倒せないよ。もう少し期待していたんだがなあ。……そんな身体では何も出来ないだろ?」
「さあ、それはどうかしら。但し、こちらは二人で行くわ。あの人に攻撃はさせないから、その位のハンデはいいでしょ?」
真王が話しているところへ、神一が上がって来た。
「真王、やめろ! 俺たちに勝ち目はない。子供を死なす気か!」
「神ちゃん、電磁バリアーで、この子を護ってほしいの。攻撃に専念させてくれたら勝って見せるから、お願い!」
真王の真剣な目に見つめられて、どうしたものかと神一が考えあぐねていると、
「神一、君に宗家が護れるのか? この戦いに勝ったら真王さんを貰うが、いいんだな! それとも、私に土下座をして命乞いをするか!?」
雷武が、神一を煽った。
「言いたい事を言ってくれる。真王、信じていいんだな? 分かった、徹底してお前と子供を護ってやる!」
眼下には、十台ほどのパトカーが、赤色灯を点滅させて様子を伺っていて、その手前では、火王と土鬼が息を呑んで天を睨んでいた。
神一は、真王と、我が子の盾になるように、雷武に背を向け、真王と向かい合って、手を伸ばせば届く距離まで近付くと、雷雲を活性化させて電気を電磁バリアーに変換して二人の身体を包んだ。
それと同時に、雷武の“百龍雷破”が炸裂し、凄まじい閃光と、無数の雷撃が二人を襲った。
神一は、その雷撃を電磁バリアーで懸命に防いでいたが、次々と炸裂する雷武の雷撃は、更に激しさを増し、神一の電磁バリアーを凌駕し始めたのである。
「くそっ!」神一は、“百龍雷破”の壮絶なパワーに、電磁バリアーが破られそうになるのを必死に堪えた。
どれくらいの時間が経ったか、間断なく続く雷武の攻撃を、辛うじて持ち堪えていた神一だったが、すでに、体力の限界を超えていた。彼の気は遠くなり、爆発音さえも耳に入らなくなって、無数に炸裂する雷撃の光だけが、神一の眼に映っていた。
その時だった。
『お父さん!』
聞きなれぬ声が神一の脳に響いて、彼は、ハッと我に返った。
目の前には、懸命に精神を集中している我が妻、真王の姿があった。何故か、彼の眼に涙が溢れ、真王のお腹にそっと触れた。
その刹那――、限界を破った彼の心は地球を飛び出し、太陽系を、銀河をも越えて宇宙大に広がると、彼の身体にスペースエナジーの黄金の闘気が噴出して来た。すると、電磁バリアーの力が一気に増幅され、雷武の雷撃を跳ね返したのである。
次の瞬間、それに呼応するように、微動だにせずに、精神を集中して瞑目していた真王が、カッと目を見開くと、その身体から、黄金の闘気が溢れ出て、今までに見た事も無い、オレンジ色の電光龍を出現させたのである。
その龍は、雷武が放つ“百龍雷破”のエネルギーを吸収して、自身の力へと変換して徐々に大きくなっていった。
「何!!」
雷武が驚きの顔を見せながらも、止めの最高パワーの“百龍雷破”を電光龍目掛けて放った。
「行けーッ!!!」
爆音と共に、凄まじい無数の雷撃が電光龍に炸裂し、辺りは真っ白に輝いた。
「やったか!?」
閃光が収まり雷武が見たものは、雷撃を更に吸収して巨大化した、黄金に輝く電光龍だった。
電光龍は、ギラっと、その目を光らせると、巨大な口を開けて、逃げようとした雷武目掛け、爆雷破(貯めた電気エネルギーを一気に放出する、最強の破壊光線)を一気に吐き出した。
青い凄まじい光線は、雷武を弾き飛ばし、雷雲を突き抜けて宇宙空間にまでも達した。
“百龍雷破”は消えて、巨大な黄金の電光龍も徐々にその姿を消していった。空を覆っていた雷雲は去り、夜の海岸に静寂が戻った。
神一は、電磁バリアーを解いて、落下してゆく雷武をキャッチすると、静かに砂浜に着地した。
「あなた、ありがとう。お腹の子供も大丈夫よ」
「そうか、よかった。それにしても、あの技は何なんだ? 相手の力を吸収して倍返しするなんて……」
「相手の力を利用して倒す、究極奥義「太極電龍」よ。相手の力を利用すればこちらの力を使わずに済むから、省エネになって疲れないの」
「ふーん、だったら最初からあれを出せば勝てたんじゃないの?」
「防御をしながら、「太極電龍」を使う事は無理なの。それだけ、集中力がいる技なのね。さっきのように二身一体で臨まなければ出来ない技よ」
二人が話している内に、雷武が「うーん」と目を覚ました。
「……何故、助けた?」
「結果的に、あなたのお父さんもお兄さんも私が手に賭けてしまった。もう沢山よ。あなたは、闇の力に飲まれていない。世の為に生き直す事も出来るはずだわ」
真王は、爆雷破を打つ瞬間、わざと狙いを外していたのだ。
「……ともかく完敗だ。後は好きにしてくれ」
雷武は、森田係長らに逮捕され連行されていった。
東の空が白み始め、夜が明けて来た。雷撃で荒らされた砂浜を、土鬼が土の技で綺麗に元通り戻すと、四人はホテルの方へ歩き出した。水平線に顔を出した太陽が、はしゃぎながら砂浜を歩く神一達の顔を赤く染めた。
神一は、戦いの際に窮地を救ってくれた、『お父さん!』と言う声は、まだ見ぬ、我が子だったのかも知れないと、一人納得していた。




