百龍雷破②
次の日の昼過ぎ、神一が待つ千葉県警の一室に、キャメルのコートに身を包んだ真王が姿を見せた。
「なんだ、お前たちも来てくれたのか」
小さな真王の後ろに、火王と土鬼が守護神のように立っていた。
「ご懐妊の姫様を、一人で旅に出す訳にも行かんだろうよ」
「ありがとう勝、帝も悪いな。座ってくれ、事件の説明をするよ」
神一は、真王たちを座らせると、事件のあらましを説明して例の写真を見せた。
「こいつは凄まじいな。真王ちゃんの雷撃より凄いんじゃないか?」
土鬼帝が、写真と真王の顔を交互に見ながら、興奮気味に言った。
「そうね、これだけの雷撃を一度に落とそうと思ったら、とんでもないエネルギーが要るはずよ。間違いなく私と同等か、それ以上の使い手の仕業だと思うわ」
「しかし、真王以上の使い手がいるなんて信じ難いな。天真ほどの敵がもう一人居るという事だろう。水神軍団にそんな使い手がいたなら、今迄に出会っているはずじゃないか。そうだろう」
神一は、天真が死んだ今、自分達以外にS級の使い手がいる事に合点がいかなかった。
「確かに不思議な話だが、現実に居るんだから何とかしないとな。真王ちゃんが戦えないとなると、三人でやるしかないだろう」
火王勝が、皆の顔を見まわした。
「今回の相手は強敵よ。私の雷撃に勝つ自信が無ければ、この敵には歯が立たないと思うけど」
真王の意見に「それもそうだ」と一同は沈黙した。
「まさか、君が戦おうというんじゃないだろうな。子供に何かあればどうするんだ。そんな事は僕が承知しないよ!」
神一が、真王ならやりかねないと、釘を刺した。
「じゃあ、どうするつもりなの?」
「……僕に雷撃を教えてくれ、それなら問題は無いだろう?」
「確かに、あなたは雷雲を起こすことは出来るから、雷撃をすぐマスターするでしょうけど、今回の敵はレベルが違いすぎるのよ。その程度じゃ勝てないわ」
「真王なら勝てるのかい?」
「何とかなると思う」
「だったら、僕の身体を使えないかな?」
「あなたの身体を? ……そうか、その手があったわね。私が神ちゃんの心の中に入り自分の身体のように動かすのね」
「そう、天真を倒した時のようにね。あれなら、二人の力を合わせる事も出来る。技を操るのは身体じゃなく、心だからね。ただ、長時間他人の中に入ることは出来ないんだ。勝負は急がないといけないけど」
「どうも話についていけませんな……」
森田係長が、要領を得ない表情で口を挟んだ。
「あ、すみません。今回の犯人は、かなりの強敵です。私と妻は戦うための訓練に二三日欲しいので、それまでの間は土鬼と火王の二人にパトロールをしてもらいます。それから、現場近くに宿を取りたいのですが」
「用意しています。今日の所はホテルでゆっくりしてもらいましょう。部下に送らせます」
神一達は海岸沿いにあるホテルへと向かい、その夜は早めに休んで明日に備えた。
朝早くから目が覚めた神一と真王は、海岸に出て、ザーザーと寄せては返す波打ち際の砂を踏んで歩いた。冷たい潮風が、二人のコートを揺らして山の方へと抜けていった。
「少し寒いけど、大丈夫?」
「コートを着てるから大丈夫よ。見て、綺麗ね。砂浜があんなに遠くまで続いて」
「ああ、こんな所で殺人事件があったなんて信じられないね」
「私達のこんな戦いは、何時まで続くんでしょうね。私達に本当の幸せな人生は訪れるのかしら」
真王は、子供が出来た事で、その子の為にも、平和な日々が早く来てほしいと願う気持ちが、強くなっていた。だが、戦いの日々が終わる気配は、まだ無かった。
「来るさ! 冬は必ず春となるだよ。この子の為にも、自分たちがその春を引き寄せるんだ!」
「そうね、その通りだわ!」
気弱になっていた真王の心に神一の言葉が沁み込んだ。
二人は、何処までも続く砂浜と、水平線で分かれた青い空と海を楽しんで、ホテルへと戻った。
数時間後、神一達はボートに乗って遠くに見える無人島へと向かった。そこで手頃な場所を見つけ真王を寝かせた。
「僕の心を見つけるのは難しいと思うから、僕が入り口で待っているよ、そこまで降りて来てくれればいい」
と注意を言って、心の中へと潜水させた。神一も真王の横に仰向けになると、真王を迎えに心の中へと沈んでいった。
暫くして、神一の身体に真王の思念が浮かび上がって来た。
「僕は、意識の下にいるから、真王は僕の身体を動かしてみてくれ」
思念が入れ替わると、真王は神一の身体を使って雷撃の訓練に入った。雷雲が一瞬にして空を埋めると、神一の身体は空中へと舞い上がった。彼の身体は耐電スーツで護られていて、長い二本の剣を持っていた。彼女はその剣を使って雷撃を数発撃ってみた。
「どんな塩梅だ?」
意識の下から、神一が話掛けて来た。
「少し重いけど、これくらいなら許容範囲ね。次は、双竜雷破をやってみるから、あなたは左側の電光龍を動かしてみて」
「了解」
神一の身体は、更に上空へと上がると、雷雲の活動を活発化させて、二匹の電光龍を具現化させた。
二匹の電光龍は絡み合い、スパークを起こしながら目標物の大岩に近づき、大きな口を開いて巨大な雷撃破を吐き出すと、目標となった十メートル程の大岩は、木っ端微塵に吹き飛んだ。
彼らは、百龍雷破を想定した動きを何度も試して、二日間の訓練を終えた。




