勝つ為の修業①
夏休みが終わって二学期になった。神一と真王は、風の修行に専念しすぎて、学校の勉強が疎かになっていた。
「最近、授業も上の空みたいで、成績が落ちて来てるけど何かあったの? 長距離の通学も大変だと思うけど、しっかり勉強しないと高校や大学に行けないわよ。授業に集中しなさい」
先生が、俯く神一と真王に優しく諭すと、二人は勉強にも励むようになった。
厳しい修行に耐えて瞬く間に一年が過ぎると、神一と真王は、風の実力をメキメキと上げていて、修行は、武器としての風の使い方の段階に入っていた。
「基本の訓練は、ほぼ完成したようだから、今日からは、いよいよ、実戦に即した修行に入っていこう。
これは、風の力を身に着けた悪人が出た時に、戦い勝つ為の訓練だ」
源爺の話で、二人は、風の力を使う人間が源爺以外にも居る事を知った。そして、自分達が修行をしているのは、その使い手達と戦う為なんだと朧気ながら気付き始めたのである。
神一達を訓練する源爺の顔が、以前より厳しくなって、神一達の眼の色も変わった。
「風の武器には、風牙(ふうが、高速の風で全てをぶった切る技)、風の盾(風圧で、攻撃を防御する技)、風破(かざは、掌から一気に風を放ち攻撃する技)、風御(ふうご、風で刀やナイフ、鉄球などを動かす技)、龍の風(竜巻を制御して、全てを吹き飛ばす最強の技)、などの技がある。
風の盾は防御だから必須だが、自分の得意な技を身に着けて、磨き上げることが大事だ。全てを習得するには時間が無いかもしれんからな。
そして、此処が一番肝心なところだ、全ての技は殺傷能力があるという事を忘れるな。お前達も、一つ間違えば命を落とすことになる。心して取り組んでもらいたい、いいな!」
「命を落とす」と聞いて、二人の心に恐怖心が起きたが、後戻りするわけにはいかなかった。
二人は、まず、風の盾を修得すると、神一は風破を、真王は風御を選択した。
風破は、風を掌に集めて一気に放ち、その衝撃で相手を倒す技で、風の衝撃波のようなものである。強力になると、相手の内臓を破壊してしまうから、実戦では、力のコントロールが必要となってくる。
神一は、一メートルくらいの大きさの石の前に立つと、懸命に風を放ったが、石の上の埃を飛ばすだけで、石はビクともしなかった。
一方、真王の風御は、武器となる物体を風に乗せて自在に操り、相手を攻撃する技で、物体を操る念動力に似ている(本来は、刀や手裏剣、鉄球などを使う)。
彼女は、まず、小さな石を風に乗せて、二十メートル先の空き缶を撃ち抜く訓練に入ったが、思うように石は飛ばなかった。
二人の修行は、相変わらず登下校の時間も惜しんで、山道を駆けながら行われ、夜は学校の勉強、休みの日は朝から晩まで修行に明け暮れて、気が付けば二年という月日が、あっと言う間に経っていた。
神一は中学二年に、真王は中学一年になっていた。修行を続けながらも、二人は、相変わらず、布団を並べて寝ていて、真王も自分の寝顔を神一に見せる事にも無頓着だった。異性と言うより、兄妹のような気持ちが強かったようだ。
学校の行き帰りは、風に乗って山の木々をかすめて飛んだ。この頃には、山を抜けるまで十分とかからななかった。
中学生になるとスカートの制服を着るから、通学時にいつもは先を争う彼女も、神一の前を飛ばなくなった。
「先に行って。私のパンツを見たいの?」
「えっ、あ、そうか、真王もお年頃だもんな」
神一は照れながら、最近女性らしくなった真王をちらりと見た。
激しい修行の末に二人は、風破と、風御を修得して、対戦訓練に入った。
真王は、野球のボールくらいの十数個の石を、自在にコントロールする力を付けていた。真王が操る石が次々と神一を襲うと、神一の放った風破が、的確に打ち砕いていった。彼も、二十メートル以内なら風破で小石を撃ち砕く力を付けていて、例の一メートルの石も、一撃で木っ端微塵に砕けるようになっていたのだ。
当初、二人は防具を付けて戦ったが、それでも、生傷や打撲痕は絶えなかった。戦闘中はお互いを思いやる事も出来ずに、敵として戦わなければならなかった。手心を加えたり、音を上げそうになると、源爺の叱責が飛んだ。
限界を超えた訓練は二人の身体も心もボロボロにしていった。
二人は、その身心を癒すかのように、朝になると無意識に抱き合って寝ていた。不思議と寝ている時は、抱き合っていても感電する事は無かった。神一が目覚めると真王の顔が目の前にあって、甘い髪の香りが神一の心を癒した。
神一は彼女の腕を解いて、そっと自分の布団に戻って朝を迎えるのだった。時には、真王が神一の布団に居る事もあった。
心身ともの極限状態にあって、神一と真王が無意識に求めたものは、互いの匂いであり、鼓動であり、温もりだった。それは、生きている実感への渇望か、単なる癒しへの渇望だったのか、それとも、愛だったのか――、二人にも分からなかった。
そんな最悪の期間を二人の絆で見事に勝ち越え、今は、防具を脱いでも自在に戦えるようになっていた。力のコントロールが出来るようになったのだ。




