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風探偵――五龍の使い手たち  作者: 安田けいじ
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某国の魔手①

  神一が大阪の病院へ移り一月が過ぎた頃には、リハビリが出来るまでに回復していた。二か月間、満足に動かせなかった彼の身体は、当初、歩く事もままならなかったが、常人離れした体力と気力で、一週間経つと、日常生活に支障のない動きが出来るまでになっていた。

 そして、次の週には、屋上でこっそり風の技の練習を始めていたのだ。


「こら、神一! 無理をしない様にって、先生に言われたでしょう!」


 神一が振り返ると、真王が屋上のドアから顔を出して、彼を睨んでいた。


「真王か、脅かすなよ。分かっているけど、何時までも寝ている訳にもいかないからな」


「そんなに焦らなくても、天真のいない今、この世に私達を脅かす存在は居ないんじゃない?」


 真王がスッと近寄って来て、神一の腕に手を回した。


「いや、風の技が公になった今、世界中から風の技を求める輩がやってくると思うんだ。テロリストや某国の諜報機関は、プロの殺し屋軍団だからね。話の分かる奴ならいいが、爆破テロのような問答無用の輩が来ないとも限らないだろ」


「そっか。考えようでは、水神軍団より怖い相手が来るかもしれないのね」


「そうなんだ。事が落ち着くまで、僕たちは何処か辺ぴな所にいる方が、大阪の人達を巻き込まずに済むんだが……」


「じゃあ、風の里がいいんじゃない?」


「風の里? あそこは水神軍団との闘いで荒れ放題になってしまっているじゃないか。これ以上、あそこを戦場にして破壊するのも嫌だろう」


「平気よ。戦いが終わったら、皆の力を借りて綺麗に整備したらどうかな? 風の里に決めましょう」


 真王の笑顔は神一に何も言わせず、風の里への引っ越しは決まった。


 それから一月後、退院した神一は真王を伴って風の里へと向かった。大きな荷物を背負った二人が里に着くと、殆どの家が倒壊していて、山や畑には戦いの傷跡がそこかしこに残っていた。

 それでも、木々は芽吹いて来ており、大自然は風の里を再生しようとしていた。


「神ちゃん、見て! 私達の家が無傷で残っているわ!」


 真王が声を上げて指さす方向に、懐かしい稲妻の家が姿を見せていた。


「よかった、これで野宿せずに済んだね」


 稲妻家の家は、天真が根城としていた為か、攻撃を受けずに最後まで残ったようだ。 二人は小走りに駆け寄り、自分たちが暮らした懐かしの家を、感慨深げに見上げてから、荷物を置いて家の掃除を始めた。


 神一は、襖や、障子、板戸などを全て外すと、風上から風を起こして、一気にゴミや埃を吹き飛ばした。


「風の技も、生活の役に立つじゃないか。楽しいね」


 神一が、新発見のようにはしゃいでいると、真王は風御を駆使して、家の周りの廃材や転がった大きな石などを、手際よく片付けていった。


 谷川から竹の樋を連ねて引いていた飲み水も、竹の樋が壊され使い物にならなくなっていた。二人は新しい樋を作る為に、竹藪へと出かけた。

 神一が、風牙で程よい長さに切った竹を、切り口を正面にして、真王に向かってひょいひょいと風で投げつけると、彼女は風御で小石を操って竹の節を貫き、次々と樋を作っていった。

 その樋を谷から順に設置して行くと、きれいな谷川の水が、家の中の大甕に心地よい音を立てて流れ込んだ。神一と真王は、その水を喉を鳴らして美味しそうに飲んだ。


 電気は、ソーラーシステムを設置して賄った。スマホの充電が出来ないと、大阪との連絡が取れないからだ。必要なものは、ヘリで大阪の父から送ってもらったが、二人の風の里での生活は、質素なものだった。

 取り合えて仕事のない彼らは、荒れ放題になった田畑を修復して、作物を植えて自給自足の足しにした。


 二人が、そんな生活に慣れて来た頃、世界の国々から、軍に風の技の指南をしてほしいとの依頼が殺到した。それは電話であったり、直接来る者は、ヘリや徒歩でやって来た。一時、稲妻家は千客万来となって、神一の畑の時間が無くなるほどであった。


 だが、神一は、風の技が世界に広がれば、悪用する者が出て社会の乱れの元になると、丁重に断るしかなかった。中には訳の分からぬ筋からの問い合わせもあったが、全てきっぱりと断った。

 それでも諦めきれぬ者は金や権力をちらつかせて、何度も訪れるのであったが、最後には、すごすごと帰るしかなかった。そうしている内に冬がやって来た。


「この辺りは雪も少ないから、これだけあれば足りるだろう」


 家の裏の軒下には、神一が風牙で割った薪がうづ高く積まれていた。


 そんな折、最初に土足で踏み込んで来たのは、アメリカの特殊部隊だった。夜陰に紛れて二十名余りの精鋭が稲妻家を襲った。腕づくでも風の技の修行法を聞き出そうというのだ。

 彼らは、家に踏み込むなり、青い光を浴びて吹き飛んだ。真王の電撃の餌食となったのである。


「家を壊したくない。真王、外へ出よう!」


 二人は、風に乗って一気に空に舞い上がった。暗視ゴーグルをつけた、彼らの機関銃が火を吹き、夜空に銃声が轟いた。

 神一は、空から、火を吹く機関銃目掛けて風破を連射して、彼らの動きを止めた。次の瞬間、真王の止めの雷撃が幾筋も落ちると、兵士達の悲鳴が聞こえ、勝負はついた。


 怒った神一が、彼らを縛り、ビデオに撮ってアメリカ大使館に送りつけると、翌日早々に、数機の米軍ヘリがやって来て、彼らを連れ帰った。


 その昼過ぎに再び一機の米軍ヘリがやって来た。軍の高官らしい彼らは、今回の事件は一人の将軍による独断行動で、アメリカ政府の意志ではないと弁明し、当事者達を厳罰に処した事を告げて、この事は穏便にと頭を下げた。


「私共は、命をなげうってまで米国に協力したものを、このような仕打ちにあって非常に心外です。今回だけは目を瞑りますが、一つ貸だと大統領にお伝えください!」


 怒りを含んだ神一の言葉に、彼らは最後まで頭を下げ通して帰っていった。


「まったく、来るなら、お菓子の一つも持ってくればいいのにね」


 真王もちょっぴり怒り顔になっていた。



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