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風探偵――五龍の末裔  作者: 安田けいじ
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静かな日々

 風の里での戦いから数カ月が過ぎ、新緑が萌える五月となった。背中の傷も完全に癒えた神一は、探偵稼業に精を出しており、真王と二人で平和な日々を送っていた。


「真王、帰ったよ」


 調査の仕事で、京都の方へ出張していた神一が、三日ぶりに帰って来た。


「神ちゃん、お帰りなさい。お疲れ様」


 真王の笑顔に迎えられると、神一の顔は綻び疲れも吹き飛ぶように思えた。


「京都はどうだった?」


 神一の着替えを手伝いながら、真王が話しかけてくる。彼女は、神一が仕事に出ている間は、家事が済めば時間を持て余し、正子の元で過ごしたり、一階の喫茶店で時間を潰していたので、神一が帰るのを待ちかねて、何やかやと聞いてくるのが常だった。


「今は、いい季節だからね。街並みを歩くだけでも風情があるよ」


「私も行きたかったな」 


「真王も留守番ばかりじゃ退屈だろう。日曜日に京都へ出掛けてみるか?」


「ほんとに? 行きたい行きたい」


 真王が、それは嬉しそうな表情になって、神一に抱き着いた。


「我慢できない。ご飯の前に、真王を食べちゃおう」 


 神一は、そのまま真王を抱き上げると、寝室へと運んだ。二人はベッドの上で待ちきれないように服を脱がし合って、肌を合わせた。


 二人が、心ゆくまで愛し合ってその余韻に浸っていたとき、神一のお腹がグーと鳴った。


「あら、神ちゃん、私じゃお腹は膨らまないようね」


 真王のジョークに、神一は大笑いしてから「ご飯だ、ご飯だ」とベッドから起き上がったが、シャワーを浴びながら、二人はまだじゃれあって、互いの身体を流し合ったりしていた。



 待ちかねた日曜日になって、神一達は朝早くから真王の手作りの弁当を持って、電車で京都へと向かった。

 二人共ラフな服装に帽子をかぶり、背中にリュックを背負っていて、神一の首には一眼レフのカメラがぶら下がっていた。

 彼らは、京都駅に着くと、タクシーやバスを使い、有名どころのお寺や二条城などを見て回った。咲き乱れた五月の花々が目を楽しませ、歴史ある建物は、二人の興味を引いた。


 二条城では、江戸時代に帰ったような気持ちになり、忍者であった過去の記憶が蘇って来た。色々と見て回り、二条城を出る頃には昼前になっていた。


「姫、お腹がすいたでござる」


「合い分かった。神之助お昼にいたそう」


 二人が冗談を言いながら、近くの公園に入っていくと、そこには、ピンク色の大きな花びらの八重桜が見ごろで、多くの花見客が、桜の下で宴を楽しんでいた。神一達は、端の方の小さな桜の木の下で、お弁当を開いた。


「おいしいね。京都にもごちそうは多いけど、真王の手料理が一番だね」


「あら、そんなに褒めてもらっても何も出ないわよ」


「いや、お世辞じゃなく本当に美味しいよ。そう言えば、真王の料理褒めたことなかったっけ」


「神ちゃん、何も言わなくても顔に出て分かりやすいから、私も作りがいがあるわ」 


「考えてみれば、真王は小学生の頃から家事をやっていたんだもんなあ……。あの頃が懐かしいね。二人で、学校への山道を競争しながら通ったよね」


「ほんと、懐かしい……」 


 真王も遠くを見るような目をして、幼かった頃を懐かしんでいるようだった。


 その時、花見客の一隅が騒めき、怒声が上がって、神一達は我に返った。


「ちょっと見てくるよ」


 神一は、真王が立とうとするのを制し、騒ぎが起きている方へ歩いて行った。

 

 神一が現場に着くと、取り巻いていた人達が悲鳴を上げて一斉に逃げ出して来た。見ると、一人の男が手に包丁のような物を持って立っており、その足元には、刺された男が腹を押さえて苦しんでいた。


「警察と救急車を呼んでください!」


 神一は、近くの人に指示すると、刃物を持つ男の方に向かった。


「落ち着け、刃物を捨てるんだ!」


「何、近寄るな! 殺すぞ!」


 男は、狂ったように包丁を振り回して、訳の分からぬ事を叫びだし、神一目掛けて突進して来た。すると、小さなつむじ何処からともなく現れ、男を包み込んだ瞬間、神一の手がピクリと動いた。

 つむじ風が消えた後には、男は気を失って倒れていた。神一がつむじ風を起こして、野次馬の眼をそらした隙に風破を放ったのだ。暫くすると警察と救急車がやって来て、犯人と、怪我人を連れて行った。



「どうだった?」


 お弁当の片づけをしていた真王が、帰って来た神一に尋ねた。


「ああ、刃物男が暴れていたんだけど、警察が連れて行ったよ」


「そう、よかった」


「お腹も膨れたし、もう一回りしようか」


 二人はリュックを背負うと、再び京都の街をあちこちと見て回った。


 予定のコースをほぼ終えて、鴨川を渡った交差点で、多くの人達と信号待ちしていた時である。一台の暴走トラックが、信号待ちしていた群衆目掛けて突進して来たのである。


「真王!」


「任せて!」


 暴走トラックが群衆に突っ込もうとしたその刹那、トラックがふわっと浮き上がり、群衆の頭を飛び越えて、人の居ない所にドンと落下した。最前列に並んでいた人達が、びっくりして尻餅をついたりしたが、大した怪我は無かった。

 近くにいた警官が、トラックの中の運転手を助け出し、事情を聴いたりしている。多くの人は何が起こったのか分からず、呆然として、信号が青になっても動こうとはしなかった。


「間一髪だったな」


「あんなの朝飯前よ」


 二人は何もなかったかのように、近くの駅へと歩いて行った。


 帰りの電車の中で、神一が一瞬、浮かぬ顔をしたのを真王が見逃さなかった。


「天真の事を考えているのね」


「えっ、分かっちゃった。まいったな」


「今、私達にとっての悩みと言えば、それしかないでしょ」


「うん、天真は必ず僕たちの前に現れるだろう。天真の事を思うと気が滅入るんだ。また、どんな手を使ってくるか……。今度こそ最終決戦になるだろうからね」


「大丈夫よ。彼の力は闇の力、私達には、宇宙根源のスペースエナジーがある。勝負はついているわ」


「そうだね。真王は強いね、恐れ入るよ」


「私、宗家ですもの」


 真王が、背筋を伸ばして、ツンとすまし顔をすると、神一が、両手をつくような仕草で「姫様の言う通りです」と返すと、彼女は吹き出してしまった。周りの人達もそれが面白かったのか、くすくすと笑い声が漏れた。


 静かな日々、こんな平和な日々が永遠に続けばいいと二人は思った。だが、それは嵐の前の静けさでしかなかった。


 その頃、日本から数千キロ離れた太平洋上では、中東監視の任務を受けた米空母フォードが、一隻の難破船を救助していた。それは、二百トン位の小さな貨物船で、船員二十名が救助された。

 それからまもなくして、巨大空母フォードからの通信が、途絶えたのである。


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