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CGD1-⑥

 私のバイトはレストランのウエイトレスだ。そのレストランは、この第三ブロックの中心地であり、かつての東京の副都心であり、現在は日本の首都機能を担う「新宿」という街のビル群の中にある50階建てのビルの中にある。私は48階にあるバイト先まで急いだ。走った甲斐もあり、どうやらギリギリ間に合いそうだった。私はホッと胸を撫で下ろした。


 しかし、それにしたってこの時の私はいささか不用心すぎた気がする。この世界にも安息の時間があると、ほんの少しでも信じてしまった自分を恥じる。もちろん、昼間にエーテルが出現し、もうこれ以上はないだろうと油断していたこともあるにはある。とにかくこの時の私は、今日のうちにエーテルがもう一度出現するなんて全く想像だにしていなかったんだ。


 バイト先であるレストランの更衣室に入ると、そこには同じく18時から入る人たちが既に着替えを始めていた。私は他の人に紛れて、ウエイトレスの衣装である黒色のシックなエプロンドレスに着替えた。


 いつも通り18時からバイトが始まり、普段通り接客する。ここは雰囲気こそ格式張ってはいないものの、やはりそれなりの価格はするので、正直言ってファミレス感覚であまり気軽に立ち寄れるところではない。それでも、こんな世界でもこういったところに足を運ぶ人は一定数はいるのだ。生きるのが難しい世の中だからこそ、食べ物ぐらいは贅沢したいという願望の現れなのかもしれないと私は思う。


 そんな時だった。意外な人物がここにやってきたんだ。ウェーブのかかったロングヘアーを大きく揺らして、その人物は颯爽と現れた。


「いらっしゃいま……って、ま、守さん!?」

「久しぶり! 真昼ちゃん元気?」


 テンションが高めな彼女の名前は一条守さん。私の学校の先輩で、かつて一緒に魔術の訓練を行った内の一人だ。そして彼女もまたロイエの隊員である。


「ど、どうしたんですか急に? あ、そちらの方々もロイエの方ですか?」

「そうそう、二人とも同じ隊の子だよ。今日来たのは、もちろんディナーをしにきたの。前に真昼ちゃんがここでバイトしてるって聞いたから、食べに行きたいなって思ってたのよ」


 守さんは基本的に笑顔を崩さない。今も本当にディナーが楽しみというような顔をしている。


「へー、凄いですね。学生さんだけでここに来る人ってほとんどいないんですよ」

「あ、そうなんだ? まあ、私たちはちょうど臨時収入が出たから、たまにはいいかなぁって思ってね」


 守さんが「ね?」と他のお二人に同意を求めると、二人も笑顔で頷いてみせた。

 ”ロイエの”、と言わないあたり、もしかして気を遣ってくれているのかもしれない。密かに心がチクリと痛んだが、いちいち気にしている場合ではないので、そんなことは少しも顔には出さずに接客を続ける。


「そういうことでしたら、今日は存分にお楽しみください」

「ありがと、真昼ちゃん。あ、遅くなってごめん! その服、凄く似合ってるよ!」

「へ!? そ、そんなことは、ないです……」


 可愛い服が似合わない自覚があるので、私は思わず目をそらしてしまう。その様子が面白かったのか、守さんはさらに追い討ちをかける。


「照れてるところも可愛い」

「ちょ、ちょっと、守さん……」

「守、あんまりからかっちゃ可哀想だよ。あ、可愛いってところは否定しないけど」


 守さんに便乗する一人の男性。随分と守さんと仲が良さそうだけど、もしかして彼氏さんなのかな?


「あ、急にごめんね。俺の名前は石川拓馬。この二人と一緒のチームの指揮官をやってるよ」

「あ、指揮官の方だったんですね。あの、いきなりで失礼かもですが、お二人ってもしかして付き合ってます?」

「え!? べ、べべ別に私たちはそんなんじゃ……」

「そうだね、付き合ってるってことでいいんじゃないかな?」


 あからさまに動揺している守さんを尻目に、拓馬さんは軽い感じでそう言った。


「ちょ、ちょっと拓馬!?」

「いいじゃん別に。俺たちが付き合ってて何か任務に支障が出るわけでもないだろ?」

「で、でも、私たちはまだ……」

「ま、まあまあ! お二人ともすごくお似合いですし、こんな世の中でも誰かを好きになれるって素敵なことだと思いますよ! ほらっ、喧嘩なんてしてたらディナーが美味しくなくなっちゃいますよ!」


 慌てている私を見て、守さんは恥じ入るように顔を真っ赤にさせる。それでも機嫌は直ったのか、私に対し優しい笑顔で「ありがとう、真昼ちゃん」とお礼を言ってくれた。


 色々あったけど、気を取り直した守さんたちを席へと案内する。ってか二人は付き合ってるなら、二人で来れば良かったのにとこっそり思っていると……


「私はアリバイ作り要因だから」


 と、私の考えを読んだかのようにもう一人のショートヘアの女性が不敵な笑みを浮かべながら私にそう言った。すると取り繕うように守さんが言った。


「だから違うって佑紀乃ゆきの! 今日はそういうのは関係なしにみんなでご飯食べに来ただけなんだから変な気遣いはなしなし!」

「はーい」


 佑紀乃さんの背中を押す守さんと気のない返事をする佑紀乃さん。いつもこんな感じなのか、お互いに気を許している感じが私にも伝わってくる。どうやら二人ともかなり仲が良いようだ。


「守さんのチームはいい雰囲気みたいですね」

「へ? ま、まあね! だよね? 二人とも」


 守さんの問いかけに対し、二人は微笑みを返事とした。その様子が微笑ましくて、私も思わず笑みを漏らした。

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