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CGD1-⑤

 彼女が、あおいが迎えた運命は、この世界にとって予定調和だったのだろうか?

 私はそうは思いたくなかった。

 誰だって、本音の部分では戦いたくなんてないんだ。

 誰だって死ぬのが怖いのは当たり前だ。それでも、自分を騙して洗脳されたフリをして戦場に向かわなければどうにかなってしまうから。

 ……誰かがやらなければならないんだ。みんなそれが分かっているから、自分を騙してでも戦うんだ。それがこの世界の真実なんだ。


 それでも私は運命に抗いたかった。抗うことが叶わなかった私の大切な人の代わりに、私だけは真実を捻じ曲げてやる。私はそう願った。


 でもそれは、決して戦いから逃げ続けることを意味しているわけじゃない。その為に、私はロイエ入隊を拒否しているわけじゃない。


 戦いから逃げるんじゃない。私が戦って、もう誰も死なない世界を作ってやる……あおいが死んだあの日、私はそう思ったんだ。だから、あれから必死に本格的な訓練に臨んだ。当時は魔力生成に手応えを感じていて、この調子なら魔術変換もきっと上手くいくと信じて疑っていなかった。

 でも、現実はあまりにも残酷であった。そのことを知るのに、そう時間はかからなかった。


 この世界の魔術には二つの行程がある。一つが「魔力生成」、もう一つが「魔術変換」である。「魔術」を使う素となるものが「魔力」だ。考え方としては、車が走るためにガソリンが必要なのと同じと考えていい。

 魔術師とは、「魔力生成」や「魔術変換」の能力を持つ者たちをいい、全ての人間がなれるわけではない。魔術には生まれ持っての適性に依存する部分が多く、適性がなければいくら努力しようとも魔術を使えるようにはならない。それだけに、この世界において魔術は決して必須のスキルではない。大多数が魔術を使用できないこの世界では魔術師の方が希少であり、魔術師はあくまで他の人間よりも優れたスキルを持っている人間程度の扱いであった(むしろ魔術はオカルトの一種として見なされ、冷遇されることすらあったらしい)。


 しかし、20年前にエーテルが出現して以後、エーテルとまともに戦えるのが魔術師だけであった以上、魔術師の地位は飛躍的に向上したのは間違いない(その反面、全体的に魔術師の寿命が短くなったことも間違いがないのではあるが)。


 だが適性があったとしても、その能力にはかなりの個人差がある。片や一の魔力しか作れない者もいれば、片や一人で百の魔力を作り出し、あまつさえそれを魔術に変換しエーテルを軽々と葬り去ってしまう者もいる。

 羽岡あおいは後者だった。そのあまりの能力の高さに歴代最強と謳われたくらいだから、そのすごさが分かるはずだ。


 それでは、そういう私、小鳥遊真昼の力はいかほどなのかと考える人もいるかもしれない。だが残念ながら、私にはあおいのような能力は少しも備わっていないと言っていい。なぜなら、私は「ある事」が全くできないからなんだ。その「ある事」は魔術師にとってあまりに重要であり、対エーテル戦においてそれがないことは直接死を意味するくらい大事なことなんだ。


 隠しても仕方のないことだからはっきり言ってしまおう。私は、魔術師の二つの能力のうちの、「魔術変換」が全くできないのだ。

 少しばかり苦手とかそんな生易しいことではなく、本当に私は「全く」魔術変換ができないのだ。そう、私はまさしく、魔術変換の才能がゼロだったんだ。


 その事実を知ったのが今から約一年半前のことだった。あおいが死に、自分が魔力生成については才能があるかもしれないと分かってすぐのことだ。


 それはあの時の私にとってあまりに酷なことだった。あおいのように、自らが戦ってエーテルとの戦いに終止符を打つと意気込んでいた私のやる気を挫くには十分すぎるほどの出来事だったのは、言わずもがなだと思う。

 あれほど魔術の鍛錬に情熱を傾けていたはずなのに、その事実を知ってから暫くは、私は「魔術」のまの字も聞くのも嫌になってしまったほどだった。


『「魔力生成」ができるだけでも凄いことだよ! あなたは自分の力を誇るべきよ』


 周りの人間はそう言って私を励まそうとした。だがそんなものは当時の私には無意味だった。私がやりたかったのはバックアップなんかじゃない。私がなりたかったのは、この世界に変革をもたらせる程の攻撃力を有する「戦士」だったんだ。

 戦士になれないのなら、魔術なんて続ける意味がない! こんなことを言ったら、ロイエで立派に戦っている「指揮官」のポジションの人に怒られるだろうが、当時の私は本当にそう思っていたんだ。


 もちろん、高校生になった今は「魔力生成」と指揮を専門とした「指揮官」のポジションの人間が、エーテルとの戦闘においてどれほど重要な立場かは多少なりとも理解しているつもりだが、それでも未だに私はかつて憧れた「戦士」というものへの憧憬を捨てきれないでいた。だからこそ、未だに私はロイエからの誘いを断り続け、無意味な劣等感のようなものを抱き続けて、死んだように生きているのかもしれなかった。


 今の私をあおいが見たらどう思うだろうか? いやそんなこと、考えるまでもない。彼女はきっと私を叱るだろう。ロイエで長年戦ってきた彼女なら、きっとどのポジションの人の役目も大事であることを分かっているから、だからきっと、特定のポジションを見下している私を叱りつけることだろう。


 結局のところ、私はいつまで経っても子供のままなんだ。

 気付くと、私よりも訓練を始めたのが遅かったあずさがロイエに入隊していた。一緒に訓練に励んできた仲間もみな、今は最前線で戦っている。大人になることを拒み、いつまでも夢を追いかけ続けている私は一生子供のままなんだろうか?


――強くなんて、ないのに……


 さっき学校で出会った彼女は確かにそんなことを言っていた。一歩を踏み出している時点で、彼女は私よりも強い。むしろ私は、彼女にはもっと自信を持ってほしいとすら思った。あおいもかつてはよく悩んでいた。もし彼女が今、あおいと同じような悩みを抱いているのなら、それは違うと言ってあげたかった。いつだってそうだ。強いか弱いかの違いは、一歩を踏み出せるか踏み出せないかの違いなんだと思うから……。


「やっば……そろそろバイトの時間だ」


 考え事をしていたせいで、歩みがいつもの半分くらいのスピードになっていたらしい。しかもさっきのエーテル出現でただでさえ帰りが遅れていたこともあり、空はすっかり闇に包まれていた。バイトは18時からだ。このペースだと間に合わない。私は気持ち歩みを早めた。

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