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CGD5-⑧

 その後、守さんを皮切りに琥珀さんたちもエーテルと遭遇し各地で戦闘となった。当初持たせていた魔力石はあっという間に足りなくなり、私は魔力石生成に集中することとなった。


「えい!」


 その間、私たちに迫ろうと数体のエーテルが現れたが、やつらはことごとくあずさの矢にコアを破壊され、私たちに近づくことは全く叶わなかった。すると、中衛の哀華さんからこんな通信が入った。


『指揮官、やっぱりこのエリアのエーテルはあまり数が多くなさそうよ。本当にここレベルCで合ってる?』

『いや、流石に場所は間違ってないわよ。初さんに聞いたら、他のエリアは結構敵が多いところもあるって言うし、場所によってマチマチなんだと思うわ』

『そ。じゃあ、あたしらは難易度の低いのを引いたってことね。ったく、張り合いがないわね』


 哀華さんは本当に雨白くなさそうにそう言う。普段の言動に棘があるのと、時折手を抜こうとするところがあるせいで、彼女は基本的には扱いづらいが、彼女がこの作戦にかける想いが非常に強いのだけは間違いない。


 もし自分が同じ立場なら、恐らく「敵が少なくて助かったわ」と思うことだろう。情けない話だが、私は楽をしたい性分なんだ。その逆をいっているだけでも彼女は十分凄いと私は思う。


『難易度が低いなら、どこの隊よりも早く作戦を完遂させましょう。こんなところで余計な体力を使う必要もないです』

『それもそうね。指揮官、魔力石十個、早急に頼むわ』

『了解』


 私は哀華さんの指示通り魔力石を十個生成する。最近少しずつ彼女のことがわかってきたが、彼女は後ろ向きな言葉を嫌う。今のように積極的な言葉には割りと従い、ちゃんと結果を残そうとする。

 守さんたちの話によると、哀華さんは今までの隊ではその攻撃的な言動が目立ちすぎてそもそもロクに自由な行動をさせてもらえていなかったらしい。集団で戦う以上、事細かに指示を出すことも大事だが、個人技である程度できる人間を自由にやらせることも時には必要だ。やる気がないなら話にならないが、彼女は明確にやる気はある。そんな彼女をガチガチに縛ってやる気をなくさせるくらいなら、ある程度の部分は見逃して自由にやらせた方がよっぽどマシだ。


 だが、それはもちろん彼女がしっかり連携を守ろうとする場合に限る。彼女がチームワークを殊更乱したり、この前のVR訓練のときのように連携への意識が極端に薄いようなら私は小姑のように口すっぱく彼女に連携の大切さを説くだろう。要は基本さえ抑えてくれれば裁量はいくらでも持たせるが、逆に基本もできないような人間を甘やかすつもりは毛頭ないということだ。


『琥珀さん』


 私は前線の様子を確認しようと次に琥珀さんに通信を試みた。哀華さんのことは多少は理解できてきたが、相変わらず琥珀さんについての私の中での理解は深まっていなかったのが、今の私にとっての懸案事項であった。


『なに?』


 いつもどおり言葉少なに返答をよこす琥珀さん。彼女がもっとしっかりコミュニケーションを他のみんなととってくれればどれだけ戦力アップが図れるかわからないだけに、それは非情に頭の痛い問題であった。


『前線の様子はどうですか?』

『特に問題はないわ。敵の数もそれほど多くはないし、今は手こずっていないわ』


 先日自らがピンチに陥っていながら報告を怠ったことを責めたせいか、言葉に若干棘が感じられるような気もするが、それは私の気のせいだろうか?


『そうですか。問題がないならよかったです。魔力石が足りない場合は遠慮なく言ってください』


 私がそう言うと、やや間があいた後琥珀さんはこう言った。


『……じゃあ、五個、魔力石をお願い』

『あ、分かりました。今すぐ送りますね』

『……ありがとう。もらったら、この辺の敵は一掃できると思う』

『了解です。お願いします』


 通信を切り再び魔力石の生成に取り掛かる。生成をしながら、「もしかして琥珀さんはただの照れ屋なのでは?」という思考が頭をよぎりかけるが、そんな単純なことはないだろうと思い直し、私は再び意識を自身の手元に集中させた。


『真昼ちゃん』

『なんでしょうか?』


 琥珀さんへの転送を完了させると今度は佑紀乃さんから連絡があった。


『上から見てるけど、戦況は順調みたいだね』

『やはりそうですか。この調子なら、長期戦はなさそうですかね?』

『そうねえ、今の感じならたぶん大丈夫だと思うよ。真昼ちゃんたちの周りにも敵はいないみたいだしね』

『了解です。ご報告ありがとうございます』

『いいってことよ』


 皆の情報を総合する。敵の数が少ないのなら、さっき哀華さんにも言ったとおりこんなところで余計な体力を使う必要はない。戦いはここだけではない。今後の長い戦いを考えれば、ここでの戦いは最短で終わらせるべきだろう。


「あずさ」

「なに? まーちゃん」

「少し前に出よう。この近辺にエーテルはいないし、ずっとここに留まっている理由はないわ」

「う、うん……」


 私の言葉に僅かに表情を曇らせるあずさ。先日の一件もあるので、私はあずさを安心させるようにこう言った。


「必要以上に前に出るつもりはないわ。私を守っているのはあずさよ。だから、前に出るのはあずさが許容できる範囲まででいい。私はあなたの指示に従うわ」

「え……?」


 ある意味ではずるいことを言っているかもしれないが、お互いが納得する為には今はこれしか思いつかない。私がそう言うと、あずさは少しの間思い悩んだが、しばらくして私に対して頷きこう言った。


「分かった。行こう、まーちゃん」

「ええ」


 あずさが私の手を引く。私はあずさのエスコートに従い、前線に向かって走り出す。

 走りながらも、私は退路を断たれないように後方にも注意を払う。無論、私たちが前進することは他の皆にも伝えたので、佑紀乃さんが私たちの周辺への守りを意識してくれているはずだ。


 あずさは慎重に辺りの様子を伺いながらも、意外にも私が思っている以上に前進を試みた。それでも位置は守さんたちの1/3程度に過ぎない。今回の敵の状況を鑑みればもっと前に行くことは十分可能だが、あずさに判断を委ねた以上文句は言えない。プランβへの未練を抱えながらも、私は今は目の前の作戦を完遂することだけを考えることに努めたのだった。


 結果として、私たちは本作戦をものの二時間程度で終了させることができた。エリア内のエーテルを一掃した私たちは、前線で次のエリアに進行する予定の三笠さん率いる第四分隊と合流した。


「おい、お前ら少し早すぎるぞ」


 現れた三笠さんは苦笑いを浮かべながら私たちにそう言う。


「どうもです。今回はいろいろと上手くいきました」

「上手く行き過ぎだっての。第一分隊は結構苦戦しているらしい。あいつらの方が当たりを引いちまったらしいな」

「そうなんですか。救援に行きたいところですが……」

「気持ちは分かるがそればっかりは駄目だ。今は自分たちの担当エリアのことだけを考えろ。俺たちもさっさと済ませる。それまでは休んでいてくれ」


 三笠さんは私の肩をぽんと叩きそう言った。他の隊も気になるが、私たち第三分隊はタッグを組んでいる第四分隊との連携を第一に考えなければならない。悔しいが、作戦自体を乱さない為にも、それに従わざるを得ないだろう。


 第四分隊を見送った私たちはひとまずその場にキャンプを張った。時刻はまだ昼時だが、少しでも休んで体力を回復させる必要がある。私たちは交代で休み、第四分隊の吉報を待つことにした。

 私たちが休息をとっていると、重火器を持った「浄化部隊」が私たちと合流した。エーテルはコアを破壊しただけでは完全には死なない。最後に炎による「浄化」を行わない限り、いつ何時復活するかは分からないのだ。その為に、私たちがやつらを倒した後は、火炎放射ができる重火器を担いだ部隊が戦場の後始末をするのが決まりになっていた。


 浄化部隊によれば、私たちの作戦は完璧だったとのこと。作戦によっては相当数のエーテルをやり損ねていた為に浄化部隊に死者が出てしまうこともあるらしい。しかし、今回はそういったことも全くなかったとのことだった。

 その後、日も暮れようかと思われた頃、ついに第四分隊より連絡が入った。どうやら作戦は上手くいったらしい。私たちは急ぎ彼らの元へと向かった。


「お疲れ様です!」

「ああ。お前らより時間が掛かっちまったがな」


 そう言う三笠さんの様子にはまだ余裕があるように思われた。時間が掛かったのは、恐らく単純にこのエリアの方がエーテルの数が多かったからだろう。


「こっちの被害はなしだ。このまま全員無事で終わらせるぞ」


 そう言って三笠さんが拳を私に突き出す。普段であればあまりそういうことはしないが、今ぐらいは彼に合わせてもいいだろう。


「はい。頑張りましょう」


 私は返事と一緒に、三笠さんに拳を合わせたのだった。

 夕日が沈む。辺りを凍えるような寒さが覆い始めたが、高揚した私たちは、今その寒さをすぐに感じることはなかったのであった。

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