CGD5-④
さっきも言ったが、個々人の力には目を見張る部分が多いのは間違いない。だがその一方で、第三分隊という組織の欠点が明確になったこともまた事実である。
前衛の二人は普段から琥珀さんがコミュニケーションを拒否していることもあり、意思疎通に関して不安があった。敵の数が少なければ個人プレーの力技で打破することはできる。だが今はそうはいかない。琥珀さんが個人の力に頼れば頼るほど危機が訪れる確率は高くなる。そのあたりはもっと自覚してほしいところだ。
そしてそれは哀華さんに関しても同じことが言える。中衛は前衛以上に連携が重要だ。厳しい言い方をすれば、今の哀華さんにはその意識がまるで足りていない。私たちが更にレベルアップを目指すには、ここを疎かにしては駄目だ。衝突することになっても、やはり私はもっと連携の大切さを言っていかなければならないだろう。
「まあでも、隊員の連携不足は結局のところ指揮官の責任でもある。皆もそうだけど、私自身ももっと意識を改めないと……」
「でも、その辺が本番じゃなくて訓練で明らかになったのはよかったんじゃないかな? これからならいくらでも取り戻せるだろうしね」
頼り甲斐のない私をフォローしてくれるあずさ。このプランに対して否定的であるにも関わらずそう言ってくれる彼女はやはり本当に優しいと思う。私は彼女の言葉を噛み締めながら前を向いた。
色々と混乱も生じたが、その後はおおむね問題なく演習は続いた。連携に不安のあった二人も、私たちに遅れをとることを嫌がったのか、当初よりは周りを意識している様子が見て取れたし、あずさが攻撃に参加することでエーテルせん滅のスピードが明らかに上昇したことも実感できた。課題は山積みだが、ひとまず本作戦は上手くいったと言ってもいいはずであった。
「そろそろ訓練も終盤か……」
「うん。でも油断しないで。訓練機が訓練終盤に結構きついことをやってくることもあるからね」
「そ、そうなの?」
「うん……。実際ではあり得ないようなことが結構平気で起こるの。多分、どんな状況になっても慌てないようにする為だとは思うんだけど、それにしてもやり過ぎな側面もあるんだよね……」
それは私にとっては初耳であった。できればそういう大事なことは予め言っておいてほしいところだけど、今更文句を言っても仕方がない。そろそろ皆の魔力が不足してきているはずなので、私はその場で魔力生成を行おうとした。だが、その時だった。
『真昼ちゃん! 聞こえる!?』
それは守さんの声だった。私はすぐに応えた。
『聞こえます! どうしましたか?』
『いきなり物凄い量のエーテルが現れたの! 今の魔力量じゃ対処しきれないから魔力石をお願い!』
『本当ですか? 分かりました! すぐに転送します』
守さんとの通信を終え再び魔力生成に取り掛かる。どうやらついに訓練は最終段階に差し掛かったらしい。このまま訓練を成功させる為にも誰の犠牲も出すわけにはいかない。私はありったけの魔力を込める。あまり無理をして自分が倒れるわけにはいかないが、余力を残しても仕方がない。私はできるだけの力を込めた。
「まーちゃん、あまり無理はしないでね。いくらVR訓練だからって無理をしたら身体には障るんだか、ら……」
唐突にあずさが言葉を切る。そして次の瞬間には私の身体は宙に浮いていた。魔力生成に集中していた私は、はじめは何が起こったのか分からなかった。
激しい破壊音が私の後方で聞こえる。私の身体は実際には浮いたのではなく、あずさに抱きかかえられていたのだ。
「あずさ!?」
あずさは応えない。そして私たちは元いた場所から少し離れた所で停止し、そこで彼女は私を下ろした。私が振り返ると、私たちがさっきまでいた所にはなんと……
「な!? エーテル!?」
地面を抉っているエーテルの姿があったのだ。
「そんなまさか!? 今は雨は降っていないのにどうして突然現れたの!?」
地面には隠れる隙間などないし、前の拓馬さんの時のような状況は考えづらいはず。にも関わらずエーテルが突然現れるなんて、私には到底理解できることではない。
「今この世界ではもう私たちの常識は通じないんだよ! まーちゃん魔力石を!」
「わ、分かった!」
私は生成途中の魔力石数個を彼女に手渡す。するとあずさは瞬時にアーチェリーを構えた。魔力を補充したあずさの身体が光を帯びる。彼女は射殺すような目で奴をにらみ、そして……
「まーちゃんには、絶対触れさせない!!」
気合の一撃を奴にお見舞いした! 矢は一直線にエーテルへと向かう。それはもはや私の目で捉えられる速さではない。比較的近距離からあずさの本気の攻撃をまともにくらい、エーテルが耐え切れる可能性などゼロに等しいのは明白だ。
矢は見事コアを破壊し、そして矢から放出された魔力により、奴は内側から大爆発を起こしたのだ。
「凄いわね……」
木っ端微塵に弾け飛んだエーテルを見て私は思わずそう言葉を漏らす。
「そんなことないよ」
一方、そんな私とは対照的に、あずさはあれだけの攻撃を繰り出したにも関わらず冷静さを保っているようであった。
その後、あずさが守さんに魔力石を転送し、前衛の二人はなんとか大量のエーテルを全て葬り去ることに成功した。そしてそれにより、このフィールド内のエーテルの消滅が確認されたのだ。
戦いが終わり、私の元には前衛の二人をはじめ、全ての隊員が無事な姿で集結した。皆疲労の色は濃いものの、誰一人として大きな怪我を負った者はいなかった。すると私たちが集合したのを見計らってか、辺りにはアナウンスの声が響き渡ったのだ。
『これにて演習は終了です。みなさん、本日はお疲れ様でした』
これをもって、演習は全員生存のまま幕を閉じた。課題は多いが、この結果については素直に喜びたいとその時私は思ったのだった。




