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CGD3-⑤

 と、こんなやり取りをしている内にいつしか時刻は既に22時を回ろうとしていた。今日は本当に疲れていたので、私はすぐにでもお風呂に入って早く眠りたいと思っていたのだ。すると、不意にあずさが私にこう提案した。


「そうだ、まーちゃん、たまには昔みたいに一緒にお風呂入らない?」

「え? あずさと、一緒に……?」


 思わず驚きを口にはしてしまったが、別に私たちは同性なのだし、お風呂に入るくらいおかしなことではないはずだ。


「ダメ、かな……?」


 私があれこれ考えていると、今度はあずさが上目遣いで返答を求めてきたのだ。それを見た私は、「うっ……」と呻き声を出すのがやっとであった。


 それにしても、いつもそうなのだが、あずさは自分が可愛いことを知っていてわざとこういう仕草をしているんじゃないだろうか? 実際それぐらい、彼女の上目遣いには抗えない魔力があるのだ。


「まあ、たまにはいいか……」


 そして案の定、上目遣いで見つめられた私は彼女の言葉に抗うことはできず、彼女の提案を受け入れてしまうのだった。


 ……さて、何はともあれ二人でお風呂に入ることになった以上、もはや色々と言い訳を考えても意味がないことは明らかだ。

 冷静に考えれば私が焦る理由なんてそもそも一つもないはずだ。私は女だ。そしてあずさも女だ。そこに問題があるならむしろ教えて欲しいくらいだ。

 すると、不意にスルスルっと布が擦れる音が私の耳に飛び込んでくる。思わずあずさの方へと振り向くと、既にあずさはブラウスとスカートを脱ぎオレンジ色の下着姿になっていたのだ。


 その姿を見た私は思わず声を出しそうになったが、すんでのところで堪えてみせた。できれば脱ぐなら脱ぐと事前に言ってほしかったのだが、そもそも服を脱ぐのに私の許可なんていらない訳なので、それも当然叶うわけがない。私は自分を落ち着け、あずさに合わせてとりあえず服を脱ぐことにした。


 と、こんな時に思い出すようなことではないのだが、私はかつても似たような状況に置かれたことがあったことを唐突に思い出していた。

 しかし、その時私の隣にいたのはあずさではなく、彼女の姉であるあおいであった。

 あの時も、私はあおいに一緒にお風呂に入るように提案された。とは言っても、あおいはあずさのような可愛げはあまり持ち合わせてはいなかったので(誠に失礼であるが)、彼女は私を半ば強引にお風呂場まで連れていったのだ。


 当時、私はあおいと恋人関係にあった。それはつまり、私たちも一般的なカップルと同じように、何というか、所謂アレな行為にも一部及んでいたわけでして……。つまり、そういった関係だった私たちがお風呂に一緒に入るということは、そういうことをしようという合図でもあったわけであって……ああ、私は本当にこんな時に何を考えて……


「まーちゃん、大丈夫?」


 と、またしても唐突に私の思考が中断される。気付くと、あずさが心配そうに私の顔を覗き込んでいたのだ。私はあらぬことを考えていたことを悟られまいと、平静を装って口を開こうとした。


「ご、ごめん。だいじょう……」


 しかし、大丈夫と言いかけて、私の動きは完全に固まってしまった。というのも、目の前のあずさは既に一糸纏わぬ姿で、タオルで前を隠しているだけの状態になっていたからだ。無論、タオル程度では、彼女の大きな胸を完全に隠すことなどできようはずもない。


 ぶっちゃけた話をしてしまうと、あおいの胸のサイズは私ともそれほど変わらないほど小ぶりであった。目の前のあずさと比べてみると、同じ姉妹でもこれだけ成長するところが違うというのは大変面白くもあり、また彼女があおいとは全く違う人間であるということを再認識することもできた。

 当たり前のことだが、目の前の少女はあおいではない。にも拘らず私がいつまでもあおいに縛られていては、どうして目の前にいるあずさのことを守ることができようか? 私は人知れず反省の弁を心の中で口にした。


 それはそうと、いざ彼女の胸を前にした私は、やはり彼女に対してこう言わずにはいられなかった。私は普通の会話をするように自然体でこう尋ねた。


「おっぱい触っていい?」

「ふえ!?」


 あまりに直球な物言いに驚きを隠せないあずさ。しかしそれは仕方がないのではないだろうか。正直、このサイズはもはや同い年の人間のそれとは到底思えない代物だ。別に自分のサイズが大きかったらよかったのになんて微塵も思わないが、これだけのサイズなら一度じっくり触ってみたいと思うのが普通なのではないだろうか?


「ま、まーちゃん、流石に、掴むのはどうかと……」

「へ? あ、ごめん、嫌だった?」


 気付くと私は無遠慮にもあずさの胸を鷲掴みにしていた。鷲掴みはいくら同性でもやり過ぎな気がしたので、私は胸から手を離すことにした。


「べ、別に、嫌ではなかったんだけど……」


 私が手を離すと、あずさは消え入りそうな声でそう呟いていた。なので私は調子に乗って、今度はあずさの胸の先端部分を人差し指でつんと突っついてみせた。


「ひゃっ!?」

「うお!?」


 私はすぐに手を引っ込めたが、顔を真っ赤にしたあずさは眼の端に涙を溜め、恨めしそうに私のことを見つめている。「しまった、やりすぎたか……」と思い謝ろうとしたのだが、そんな間も無くなんと今度はあずさが私の服を剥ぎに来たのだ!


「早く脱いじゃえー!」

「こ、こら!?」


 抵抗虚しく、私はすぐにあずさの手によって全裸にされてしまう。

 確かに、人の乳首を無遠慮に突っついたことは謝罪しなければならないことだ。


「だとしても、人の服を剥ぐのはどうなのよ?」

「へへへ。まーちゃんのお肌すべすべだねえ」


 そう言いながらあずさは私が最近気にしているエリアを触りに来る。思わず私は叫んだ。


「下っ腹を触るんじゃありません!」

「えーなんで? 全然太ってないのに」

「あんたと違ってこちとらインドア派かつ栄養は胸にはいかない人種なの! パッと見でわかんなくても着実に魔の手は忍び寄ってくるものなの! 分かる!?」


 我ながら何を熱くなっているんだとも思うが、こればかりは譲れないことなんだ。小さくて太い女なんてきっと目も当てられない惨状だろうから。


「ご、ごめんごめん! まーちゃんがそんなに体重気にしているなんて思わなくて……。機嫌なおして! お願い!」


 そう言いながらなぜか抱きついてくるあずさ。あずさの巨乳が直に顔に押し付けられて意識が飛びそうになっていることに気付いて欲しいものだ。


「まーちゃーん!」

「分かったわよ! もう怒ってないから!」


 お互い素っ裸なのに、いつしか恥ずかしさなんてどこかに吹き飛んでいた。単純に私は、馬鹿なことを言い合ったり、子供みたいにじゃれ合ったりする彼女との時間を、改めて心地よいと思ったんだ。


 しかしそんな私たちも、明日からは第三分隊の隊員として責任あるふるまいをしなければならないのだ。こんな風に遊ぶことなんて、もしかしたらもう難しくなってしまうかもしれない。それは本当に寂しいことだ。

 でも、それはこの道を選んだからには避けて通ることはできないんだ。


「明日から頑張らないと」


 身体を洗いながら、私は誰にでもなくそう呟く。すると、そんな私とは対照的に、湯船につかっていたあずさは砕けた雰囲気のままこんなことを言ったのだ。


「そんなに気負わなくても大丈夫だよ。まーちゃんはわたしがちゃんと守ってみせるから」


 「私を守る」という言葉をあずさの口から聞いたのは一体何度目だろうか? 思い返してみると、かつてあおいもそんなセリフをよく言っていた。姉妹揃って私のことを庇護の対象として思っていたのかと思わず呆れてしまいそうになる。


「もう、またそんなこと言っ、て……」


 しかし、そう言いかけて私は口をつぐんだ。なぜなら、実際問題、私は今後あずさの「守り」を絶対的に必要とする身であるからだ。それはつまり、今後はこの言葉はもっと重い意味を持つということに他ならない。そう考えると、またそんなことを言っているのか、なんて言って聞き流すことは正しい選択ではないように私には思えた。

 私はあずさの方へと向く。すると、私の表情から私の心情を察してくれたのか、あずさも同じく真面目な顔をして話を聞く体勢を取ってくれた。そんな彼女に対し、私は頭を下げて言った。


「明日からよろしく頼むね、あずさ」


 それに対しあずさは、満面の笑みを浮かべ、


「任せて! まーちゃんには指一本触れさせないから」


 と、大きな胸を張って宣言してくれた。


 それから私たちは、しばらくの間笑いあった。別に何がおかしい訳でもなかったけど、笑い声は途切れることがなかった。

 いつまでもあずさの笑顔を見ていたい。その時の私は確かにそう思ったのだった。

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