CGD1-①
――魔術が嫌いだった。
夢見たのは、あおいのような力強さ。
憧れたのは、あおいのような人を包む暖かさ。
目指したのは、「人類の希望」と謳われたあおいの遺志を継げるような、そんな立派な魔術師だった……。
『あなたには、「魔術変換」の素養は、残念ながら、全く備わっていないようです……』
『え? 全くって……じゃあ私は、あおいのような、「前衛」の魔術師には、なれないってことですか……?』
『…………残念ですが、「魔術変換」の能力なしではそれは難しいかと』
『そんな…………』
だが現実は、夢見る少女の希望を簡単に打ち砕く。夢を奪われた無力な少女は、受け入れがたい現実から目をそらし、逃避することを選んだ。
魔術から、仲間たちから、幼馴染から、そして、あおいから、私は逃げ出したのだった。
「まーちゃん」
あずさの呼びかけに私はハッとする、
「ごめん、考え事してた」
「難しいことは考えなくていいよ。守さんが言ったように、まーちゃんは『魔力生成』と、『死なないこと』だけを考えて」
「……分かった」
私はいつもとは違う、鋭い眼光のあずさの言葉に首肯する。
私の眼前に広がるのは、「新宿」のビル群と、私たち以外の四人の少女たち、そして人間を殺す為にこの世に在る、エーテルの軍勢だった。
水銀状の殺戮生物が、高層ビルの屋上にいる私たちに迫る。
私の頭に、この分隊の本来の指揮官、石川拓馬さんが数刻前に惨殺された時の映像が脳内にフラッシュバックする。一般市民となんら変わる所のない私としては、あのシーンを見させられただけで足が震え出してしまっているのだが、残念ながら今はそんな泣き言も言っていられないのが実情だ。
あずさが手にしたアーチェリーの弓を引く。そして接近するエーテル目掛けて矢を放った!
一直線に矢は敵へと向かい、やつの身体を刺し貫いた。
「核に命中した?」
「大丈夫。この距離からなら外さないよ」
放たれた矢は見事やつの心臓部である核を射抜いていた。
核を失ったエーテルは身体を保っていられず、地面に拡散していく。そして辺り一面はすっかりエーテルの残骸である銀色に染められたのだった。
『真昼ちゃん』
『なんでしょうか?』
無線で話しかけてきたのは、この分隊で最も攻撃的なポジション、「前衛」を務めている一条守さんだった。
『まだ全然慣れていないところ悪いんだけど、至急で魔力石をもらえないかな? このままだと魔力が尽きそうなんだ』
『分かりました。すぐに送ります』
守さんの言葉に従い、私はすぐに魔力石の生成に取り掛かる。ものの数秒で魔力石を10個生成し、それをあずさに手渡した。
「守さんに送って」
「分かった!」
私の依頼をあずさは快く引き受けてくれる。魔術師にとって「魔力」は全ての源だ。戦場で魔力の尽きた魔術師に待っているのは死だけだ。彼女はそれを分かっているからこそ、攻撃よりも優先して魔力石の転送を行うのだ。
あずさが魔力石を握り締めた掌に魔力を込めると、魔力石はその場から姿を消す。そして次の瞬間には守さんの掌の上にそれらは出現した。
魔力石を受け取った守さんはすぐさま魔力を自身の身体の中に取り込むと、再びエーテルに向かって走り出した。その手には槍が握られている。猛烈な勢いで戦場を駆ける守さんはすぐさまエーテルを射程圏内に収め、あっさりエーテルを一体槍のラッシュでバラバラに引き裂いてしまった。
これこそが、分隊における「前衛」のポジションを務める魔術師の圧倒的な突破力だ。
かつて人間はエーテルに一方的に虐殺されるだけだった。しかし、今は違う。守さんのように、人間はエーテルを倒す能力を得たのだ。もはや、無抵抗に殺されるだけということはあり得ない。
かつて、私の幼馴染である羽岡あおいも、守さんと同じく「前衛」として戦場を駆け回っていた。
私は彼女たちのような、絶望を切り裂く力を持つ魔術師に憧れていた。
志半ばでこの世を去ったあおいの遺志を継ぐ為にも、必ず私は「前衛」にならなければいけないと思っていた。
だが。現実は厳しかった。なぜなら、そもそも私には「前衛」になる機会すら与えられていなかったからだ。
私はそんな自分が認められなくて、魔術から目をそらすことを選択した。
……我ながらなんと情けないことか。それでも、当時の私にとって、現実を受け入れることはあまりに酷なことだったのだ。
にも関わらず、私はなぜ今戦場に立っているのか? あれほどまでに子供の意地を張り続けてきた私がここに至ったのは、本当に偶然の産物であったわけだが、それを説明する為には、私の今日の足取りを追わなければならないだろう……。




