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CGD2-⑨

「お前やっぱり見応えあるな。出会って数分で上官を退役に追い込もうとしたんだからな」

「お褒めに預かり光栄です」

「褒めてねえ。ってまた話が逸れた! とにかく、今回の『エリア奪還作戦』は前回に比べてより大規模かつ実現性が高いってことだ! そこんとこは理解したか?」

「ええ、まあ、なんとなくは……」


 実際のところ、その実現性の高さとやらの具体的な根拠を聞きたかった訳だけど、初さんは自信があるようだし、いくらなんでもロイエが何の根拠もなく大規模作戦を展開するとも思えない。きっと少なからず勝算があるのだろう。


「それならいい。近いうちに『エリア奪還作戦』が正式に発令される。そうなれば、もう私たちには休息は許されなくなる。人類の居住エリアをすべて取り戻すまで、私たちの戦いは決して終わることはない。それだけは覚悟して今後の訓練に臨むように」

「はい!」


 私は気合を入れなおす意味を込めて力強く返答した。


「良い返事だ! それじゃ、第三分隊をよろしく頼む。色々と癖が強い奴が集まっちまったが、お前と一条、そして羽岡ならきっとなんとかなるだろう。繰り返しになるがお前には期待しているからな。私の期待を裏切ったら承知しないからな!」


 初さんが檄を飛ばす。噂通りのハチャメチャな人だったが、この人は信頼できると、私は改めてそう感じていた。



 初さんへの挨拶を済まし執務室から出ると、そこにはなんとあずさと守さんの姿があった。どうやら私を迎えに来てくれたらしい。


「真昼ちゃんが疲れ切ってないか心配でね」


 そう言いつつも、守さんはなぜか楽しそうに笑っている。


「守さん、笑みを隠しきれていませんよ」

「え? べ、別に笑ってなんていないって! それよりもどうだった? 初めての小隊長は」


 三人で並んで歩きながら、さきほど執務室で行われた会話の一部始終を二人に伝えた。


「それは大変だったね、まーちゃん」


 そう言いながらよしよしと頭を撫でるあずさ。そしてそれに便乗しようとする守さんの手をいなす私。守さんは口を尖らせて抗議する。


「もー、真昼ちゃんの照れ屋さん」

「照れてません」


 戦闘時やさっきの作戦室の時のようなしっかりした様子とは打って変わった様子で、私を愛でようと触手を伸ばす守さん。そういえば、昔も訓練の時以外は結構こんな感じにだらけていたような気もする。二年前の守さんも普段はリーダー的存在として皆のお手本になっていて、私もよくお世話になった。そして一年半前に私が訓練に参加しなくなってからも、よく学校やスーパーでばったり出会っては色々と話し込んだりしたものだった。

 そんなときも、私が嫌がるのが分かっている為か魔術訓練の話は一切触れないように配慮してくれていて、私は彼女は本当に優しい人なのだと思ったものだった。


 そんなこんなで三人でわちゃわちゃと話しながら歩いていると、


「げ、あれは……」


 守さんが露骨に嫌そうな表情でそう言う。何事かと私は守さんの向いている方に視線を向けると、ちょうど二十歳前後と思われる男性がこちらに向かって歩いてきているところだった。


「お疲れ様です、三笠さん」


 嫌悪感を隠しきれていない守さんとは対照的に、あずさは至って普通の表情でその男性に対して挨拶をした。どうやらこの男性は三笠という名前らしい。私たちの中で一番背の高い守さんよりも少し背が高いところを見ると、彼の身長は170センチ程度だろうか。

 先程の反省を活かし初対面の相手に変な印象を持たれない為にも、ここは私もあずさに倣って同じように挨拶をした方がいいだろう。そう思い、私は口を開いた。


「お疲れ様です」

「おお、お疲れさん。ん? そっちの人は見なれないな。もしかして新米さんかな?」

「あ、はい。本日付で着任しました小鳥遊です」

「そっかそっか、今日が初日なのか」


 三笠さんは人好きのする笑顔で私と相対しているが、なぜか守さんは三笠さんには聞こえないくらいの声で、「出た、先輩ヅラ」とボソッと毒付いた。何事かと身構えていると、三笠さんは笑顔をたたえたままこう言った。


「初日だと色々わからないこともあるでしょ? 良かったら俺が色々と教えてあげてもいいぜ」


 そう言って彼は特に躊躇うことなく私の肩に手を置いたのだ。私は突然のことに思わず固まってしまう。一方三笠さんに嫌悪感を示している守さんは「ちょっ!?」と短く声を上げていた。


「…………」


 教えてくれるのはいい。だがなぜ私の肩に手を置く必要があるのか?

 元よりあまり男性との接点がないから、男とはどういう性質のものなのか正直あまり理解できているとは言い難い。それは認めよう。だがそんな私でも一つ分かっていることがある。それは、初対面の女の身体に無遠慮に触れようとしてくる奴は、たいていはロクでもない奴だということだ。

 そこに下心のあるなしは関係ない。下心があるのなら単に気色が悪いだけだし、もしないのだとしても、残念ながら常識がなさすぎると言わざるを得ないからだ。


 返事を寄越さないまま彼の表情を盗み見ると、彼は相変わらず笑みを浮かべたままだった。これはどうやら私の抱いている不快感には一ミリも気が付いていないとみて間違いないだろう。


 この建物、しかも同じ階にいる以上、この人とは今後も関わり合いになってしまう恐れは十分あるのであまり事を荒立てたくはないが、彼がうっかりこのまま他の人にも似たようなことをしてしまっては大変だ。ここは私が心を鬼にして礼儀というものを教えてあげる必要があるだろう。


 私は極力感情を露わにしないようにしながらも、彼に意見するべく口を開こうとした。しかし、その時予想外の人物が現れたのだ。


三笠みかさ泰斗たいと、新任の指揮官にセクハラとは見過ごせんな」


 ものすごく低くて重々しい声が突如としてこの12階の通路に響き渡っていた。何事かと思い、声のした方へと振り向くと、そこにはやたらと渋めの男性が立っていたのである。

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