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CGD2-⑥

 守さんたちによる施設の案内があらかた終わり、時刻が三時のティータイムに差し掛かったころ、ふと守さんがこんなことを言った。


「そう言えばすっかり忘れてたけど、真昼ちゃんは小隊長に挨拶に行かないとね」

「あ、そうだった……」


 私もそのことをすっかり失念していた。午前中の入隊式の時は、小隊長は急な用事で不参加だった。だから後で戻ったら挨拶に行こうと思っていたんだ。遅れはしてしまったが、この時間ならきっとまだギリギリセーフだろう……多分。


「小隊長に挨拶に行くなら面喰らわないように気をつけた方がいいかもね……」

「え、なんでですか?」

「それはまあ、会ってみれば分かるよ」


 そう言う守さんはなぜか苦笑いを浮かべている。


「なんだか凄く不安なんですが……」

「ご、ごめんごめん! ちょっと変わってるけど別に変な人ではないよ。あ、いや、変な人であることには違いはないけど……とにかく、悪い人じゃないから心配しないでも大丈夫だからね」

「いやでも、悪い人じゃなくても変な人ではあるんですよね……?」


 余計に私が不安そうにしていると、守さんは慌てた様子でこう言った。


「ほ、本当に大丈夫だって! 人によっては対応できなくて苦手っていう人もいるけど、私はあの人の扱いには慣れてるし、あれで結構頼りになるんだよ」

「守さん、『あれで』は失礼ですよ」


 あずさ曰く、確かに変わり者ではあるが仕事に対しては真面目だし、部下の面倒はしっかり見てくれる人だから過度な心配いらないとのこと。仕事に対して真面目なら少しばかり変でも我慢はできるだろう……。


 あずさと守さんと一時的に別れ、私は小隊長のいる執務室を目指す。ちなみに私たち第五小隊の作戦室は本部のA棟(正面から向かって左側)の11階と12階にあり、小隊長の執務室は12階にある。私は今いる1階から屋上まで行けるエレベーターに乗り込み、12階のボタンを押した。


 それにしても、実際のところ小隊長はいったいどんな人物なのだろうか? 小隊長の年齢どころか性別すら知らないので、今のところ小隊長の人物像に関してはまだまったく想像がついていなかった。


 エレベーターを降り、執務室の前までくる。小隊長はもう戻られているだろうか? できればこういったイベントは早々に済ましてしまいたいところだ。私は期待を込めて、扉を二回ノックしてみた。


「誰だ?」


 扉の向こうからハスキーな女性の声が返ってくる。


「本日着任いたしました小鳥遊真昼です。ご挨拶に伺いました」


 私はなけなしの敬語でそう答える。普段あまり丁寧な言葉を使う機会もなかったのでボキャブラリーが貧困でいけない。果たしてこれで大丈夫かと一瞬だけ不安になったものの、


「おお、小鳥遊か。入れ」


 短めではあるが、わずかに柔らかさを含んだ声でその人はそう答えてくれた。少し言葉はぶっきらぼうな印象は受けるが、特段怖いという印象は受けなかった。私は言われるがままに扉に手をかけ「失礼します」と言いながらその扉を開いた。

 扉の先にいたのは、眼鏡を掛けた鋭い目つきとセミロングのポニーテールがトレードマークの女性だった。見た感じ年は三十歳前後だろうか。その女性は私を見ると微かに笑顔を作った。


「どうした? そんなところにいないで早く入れ」

「あ、すみません」


 部屋は執務室というだけはあり、中心に置かれた小隊長のデスクには所狭しと書類が積まれており、またその後方にある本棚にも書類がぎっしりと詰まっていて、実に忙しない印象を受けた。が、意外にも部屋自体はそれほど広くはなく、大きさは私たちの作戦室の半分程度しかない。また、小隊長が座っているデスク以外には、5、6人が座れそうなほどのテーブルと椅子が左側のスペースにあるぐらいで、私が予想していたよりはよっぽど整然としており、ある意味では殺風景とすら思えるほどであった。

 私は小隊長に向かって改めて挨拶をした。


「本日付で着任しました小鳥遊です。どうぞよろしくお願いいたします」

「ああ、よろしくな。見た目の割にしっかりしているんだな。昨日までただの高校生だったやつにしちゃ上出来だ」


 小隊長はそう言って豪快に笑う。見た目の割に、というのは余計な気もするが、しっかりできていたのならよしとしよう。私は素直にお礼を返した。


「ありがとうございます」

「おっと、そんなに畏まらなくていい。私にとっては立場の違いなんてものには一ミリの価値もない。私はあくまで対等な関係でいきたいところなんだ。まあもちろん、私の方が年上だから敬語を使わなかったら引っぱたくがな」


 そう言って小隊長はやっぱりケラケラと笑った。

 ……守さんが言うように、失礼ながらこの短い会話の中だけでも、彼女が変わり者であるということはよく分かった。しかしそれは言葉遣いや言い回しが変わっているという意味であり、本質的な部分がおかしいという印象は今のところは特に受けなかった。単純に変な人という意味では担任の中林先生も十分変だし、うちの分隊の問題児たちも十分変だ……あ、いや、それは少し失礼かしら?


「おっと、うっかりしていた。まだ名前を名乗ってなかったな。私の名前は立花たちばなはじめだ。第五小隊の小隊長を務めている。これからよろしく頼むな」


 そう言って右手を差し出してくれる立花さん。私は素直に差し出されたその手を取る。


「痛っ!?」


 しかし立花さんの手は予想外に力強く、私はつい反射的にそう言葉を漏らしてしまっていた。


「あ、す、すみません……」

「気にするな。肩に力が入ってたからほぐしてやろうかと思ってな」

「そ、それはどうも」


 私はそう言葉を紡ぐのがやっとであった。


 私は変わっている人に対してもそれなりに対応はできる自負はあるが、この人はその中でも群を抜いているような気がする。緊張していたのは間違いないし、ほぐそうとしてくれるのはありがたいけど、いきなり手を相当な握力で握られたら驚くに決まっている。


 そんなこんなで、私はイマイチこの人にどう対応していいか測りかねていたが、その間立花さんはなぜか私の顔をジッと見つめていた。そしてしばらくして、彼女はまたしても突拍子もないことを言ってのけたのだ。


「うーん、よく見るとお前結構可愛いな」

「え!? か、可愛い、ですか……?」

「ああ。髪型はちょっとばかりおこちゃまっぽいが、眼も大きいし鼻筋もとおっている。私のタイプの顔をしているよ、小鳥遊は」


 こ、この人は初対面の相手に対していきなり何を言い出すんだ……? タイプ? この私が? そんなことを上官でしかも同性に言われるなんてついぞ思いもよらなかった。いやもちろん異性から言われてたらなおさらセクハラじみてて嫌だが、この人も大概男みたいな喋り方をしているからセクハラ度合的にはあんまり変わらない気もする。

 いや、それにそもそも、今まで可愛いなんてほとんど言われたこともないし、それはやっぱりこの人の思い違いというかなんというかであって…………と、ここで私はあることに気が付いた。


「……ぷ」


 立花初が思い切り笑っていたのだ。絶賛混乱中の私もそれでようやく察しがいったのだった。

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