ボウモア 2/3
「嘘つき…ずっと側に居るって約束したのに…」
懐かしい夢を見る…自分の未熟さ…力の無さで悲しませてしまった娘に投げつけられた言葉…。もう五年も前の出来事を鮮明に夢見るのは-きっとこれが許される事の無い私の罰だから…。
彼女は今頃どうしているだろうか…私の事など忘れてしまっただろうか、そうだとしたら私は嬉しい…だってまだ私の事を覚えていたならきっと私は彼女を今でも苦しめているのだろうから…。
私の名はステフ、アルトリ王国の女王です-本来、私がこの国を継ぐのは、まだ先の話だったのですが、見聞を広めるため通っていた一般国民の学校を卒業間近で先代の王…お父様とお母様が事故で亡くなり、卒業後直ぐ私がこの国を治める事となり…そしてその事で当時友人を超え恋仲となっていた彼女-アリスを裏切り悲しませました。
窓から入る日の光で目を覚ました私は今朝の夢を思い出しながら体を伸ばす、すると同時にコンッコンッコンッとノックが響く。
「どうぞ」
「おはようございます、ステフ様」
「おはようマリア、もう朝食の時間だっけ?」
「えぇ、既に朝食の準備は出来ておりますよ」
「うーんそっか、今日はちょっと寝坊しちゃったな~」
「少し顔に疲れが出てますよ、もしかしなくても…例の夢ですか?」
「あはは…マリアには隠せないね、その通りよ」
彼女の名はマリア、私が幼い頃から身の回りのお世話してくれている親衛隊の隊長さん、本来は私の身のお世話は侍女がやる予定だったのだけれど、幼い私は彼女にしか懐かず結局今でも私の侍女も兼任してもらっている。性格は自分の意見をちゃんと持ち面倒見が良くて部下や城の皆から慕われていて、頼れるお姉さんって感じ。
「…もしよろしければ呪い師に夢を見ないような呪いを掛けてもらうのはどうでしょうか?」
「ありがとうマリア、でもね…この夢は唯一私があの人に会える夢なの…だから…この夢を見ないようにするのは嫌なの」
「申し訳ございません、ステフ様の想いを考えない軽率な発言でした…」
「ううん、気にしないで…それより朝食出来ているのでしょう、早く支度を済ませなきゃ」
「そうですね…今日の朝食は庭の野菜を使ったキッシュですよ」
「じゃあ冷める前に頂かないとね」
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「最近の意見箱の状況はどうかしら?設置したは良いけど、イマイチ集まりが悪いのよね」
「それだけステフ様の政策が良いと言うことですよ」
「そうかしら…でも…正直不安なの、私はお父様達みたいな立派な王に成れてるのか…」
「ステフ様………」
「失礼します…本日の意見箱の中身を集めて参りました!」
「ご苦労様、今日はどれ位集まったかしら?」
「その…申しにくいのですが…本日も一通程しか…」
「そう…」
「ステフ様、先ほども申し上げましたが、意見箱なのですから、入っていない方が良いのです。安心してください、国民からもステフ様は立派に王を務めていると評判も良いのですから!」
「マリア……ごめんなさい私ったらまた弱気になって…悪い癖ね。」
「いいえ…何度も言いますがステフ様は立派です、陛下が亡くなられてからすぐに即位され国民の為にこれだけ尽くしてるのですから…他の誰が貴女を悪く言おうが私は貴女の味方ですから」
「ありがとうマリア。うん、それでは今日はどんな内容の意見が入ってたのかしら?」
「それが…その…なんと言いますか…読み上げて良いものか…判断がつかなくて…」
「ん?どういう意味だ?見せてみろ」
「はぁ、これなのですが…」
「…っ!これは…!!」
「何々、どんな内容?」
「いけません、これは意見なのではありません!ただの嫌がらせです!!」
「い、嫌がらせ?」
「はい!全く匿名を良いことにこのような事を許せん!!」
珍しくマリアが怒っている…怒ると言うよりもキレた感じだけど…一体何が書いてあったのだろう、嫌がらせって…全ての人に受け入れられるとは思っていなかったけど、やっぱり直接こういうのが来るのは堪えるなぁ…けれどマリアがあそこまで怒るほどの内容、逆に気になってしまい、ゴホンと咳払いをしマリアに手紙を見せるようにお願いする。
「嫌がらせとはいえ、国民から寄せられたものですので目を通す必要があります」
「しかし、ステフ様!」
「マリア聞いて…多分これからもこの国の王をやっていく上で、嫌がらせ等は避けては通れないと思うの…だから今のうちから慣れておくのも一つの経験なのかなって…」
「ステフ様…わかりました…こちらが手紙になります。」
二つ折りの手紙開けるとそこにはヨレてるけど懐かしい字で「卒業したら一緒に住むって約束したのに、嘘つき!!」と書かれていた…瞬間、心臓が爆発するかの様に高まった。
何この手紙!、何この感情!…こんなこと書くのは国中探しても彼女しかいない!あの頃の思い出が走馬灯の様に駆け巡り、悲しいはずなのにそれ以上に嬉しかった!まだ私の事を覚えていてくれた、あんなに私の事なんて忘れて欲しいと思っていたのはずなのに!彼女に会いたくて堪らない。涙が流れると同時に頬が吊り上がってしまう、他の人にこんな顔見せられるはずも無く手紙で顔を隠す。
権力を私用では使ってはいけないはずなのに、考えるよりも先に口が動いてしまった。
「ねぇ、お願いがあるのだけど…この手紙を書いた人が住んでいる場所を調べてくれないかな?」
「…!、畏まりました、ステフ様…このマリア本日中にこの手紙の主を探しだして見せます!!」
「えっ!あっ!ちょっと、住んでいる場所を調べてくれるだけでいいって…」
と私の言葉が届く前にマリアは部屋を出て行ってしまった…後で他の親衛隊の人に住んでいる場所を調べるだけで良いと伝えるようにお願いしておこう。
謝ろう…謝って許してもらえるかはわからないけど、もし許してもらえたなら…その時は…涙を拭きながら決意する。私が動けば大事になるのは間違いないので、こっそりとお忍びにはなっちゃうけど…。
…時は過ぎて太陽が傾きかけきた頃、公務の書類を処理していると親衛隊の一人が飛び込んできた。
「ステフ様!失礼します!!」
重い鎧を纏って走って来たのか彼女は、両手を自分の膝に置き全身で息をする、そして顔を上げ息をすっと吸い込むと大変です!!と言いまた下を向き呼吸を整える。何まさか、他所の国が攻め込んできたの!?と考えてると…。
「マ、マリア隊長が…今朝の手紙の主を牢獄に入れたと連絡が…」
えぇ!!マリアってば、場所を調べてるだけで良いって言ったのに…、んっ?だけど親衛隊が騒ぐ事これ…いや、まぁつまりあの娘を牢獄に入れてしまったって事は私にとっては大ピンチだけど、親衛隊の人達には私の私情なんて知らないはずなのに…と考えてると。
「近隣住民からの話で、マリア隊長が脅して無理矢理、罪を認めさせたとの話が上がってまして、ステフ様が国民に対し冤罪かけ罰しているのではと噂が流れており…つまりはステフ様が独裁政治を始めたのでは無いかとの話に広がってまして…」
想像の10倍くらいに大変な事になってしまっているみたいだった…軽く調べて後で、こっそりと会いに行くだけの予定が、まさかこんなことになるとは…。
「ステフ様失礼します、この度の騒動ですが…まさか本当に独裁政治を始めるおつもりですか!だとしましたら私は今日限りで…」
「違います!そんなつもりは有りません、リリアだってわかっているはずです!」
「ふふっ、誠に申し訳ございませんステフ様、余りにも面白…ゴホンッ大変な事になっていましたので軽くジョークで緊張を解そうかと思いまいして」
この突如現れたリリアという女性は、私の秘書官を行ってくれている方で、マリアの実の妹でもある、ただ性格は大分違っていて仕事中は、真面目で冷静なのだけど人をからかったり、偶に笑えない冗談を言ってきたりするのが玉に瑕である…いや、今回は本当に笑え無いんだけどね…。
「しかし、姉ながら困ったものです…実の妹にもこれくらい気を掛けてくれても、良いとは思いませんか?まぁ、それはさておきステフ様、下に馬を用意しております。早く行かれた方が良いですよ、牢獄のベットは硬いですから。」
「えっと…何の事かなー?」
すると彼女は胸ポケットから手帳を取り出し…。
「いえ、私も姉があそこまで怒るので、どのような内容で誰が出したのか気になりまして、こっそり調べたのですが…学生時代にお付き合いされてた方だったのですね。あまり良い別れでは無かったようですが、昨日は酒場で結構飲まれたようで、所謂酔った勢いで書いたみたいですね。」
「~~~っ…なんで!?知ってるの!!?」
「いえまぁ、簡単でしたよ?姉が既に出した方の名前と住所は調べてましたし、そこからどういった方かは芋ずる式に調べられました。すると彼女がステフ様と同じ学校出身で、ステフ様との関係については…まぁそこは、王族機密で」
「王族機密って何!?私この国の王だよね!!」
「ステフ様…そんなに騒いでは国王としての品が損なわれます。それで卒業後、同居する約束をしながらも結果は…それが切っ掛けで彼女とは、喧嘩別れといった形になってしまったみたいですね…」
「ス、スルーされた…ええっとまぁその通りだけど…国王が彼女を直接迎えに行くなんて…国民が知ったら、また大きな問題になるんじゃ…」
「問題と言うよりは彼女が何者かといった、騒ぎになるでしょうね。」
「そうだよね…やっぱり直接行くより…ひっそり釈放したほうが…」
「ですが、彼女をひっそり釈放しても既に、これだけの騒ぎになっているのです、恐らくは国民は王政を疑ったままになると思いますよ。」
「うぅ…じゃあどうすれば…」
もはや頭が回らない…リリアの言うとおりひっそり釈放しても、国民は王政を疑うでしょうし、このまま放置なんて論外だ…どちらを選んでも王政への信頼は落ちるのは間違いない。
「はぁ~何を言っているのですか…だから直接迎えにいくのですよ」
「でもそしたら彼女が一体何者かといった話に…」
「だから説明なされば良いでは無いですか、彼女は将来を約束した仲だと国民の前で堂々と」
「んなっ!?」
面食らうとはこういうことなのだろうか、確かにその考えは一瞬頭に過ったけど…だけど…。
「それこそ、国民が大騒ぎになるですか。ステフ様?」
「えっ、声にだしてました…?」
「いいえ…ですが 私も姉ほどではございませんが、ステフ様とは長いお付き合いです。それなりに考えていることもわかりますよ。」
「リリア…えっとそれもだけど、彼女に既に恋仲の人が居たら…」
「ステフ様、既に幸せになられてる方が、あの様な手紙を書くとお思いですか?」
「それは…」
「ご安心下さい。彼女はステフ様と別れてから他の方とはお付き合い等されてないですよ」
「………っ!」
「ステフ様、恐らくこれは、彼女との仲を取り戻す最後のチャンスです。決めるのはステフ様ご自身ですが…」
リリアは私に諭すように語り掛ける、私だってわかっている。これを逃せば私は一生彼女との仲を取り戻すことは出来ない…でも…私は王で…だけど…また私は彼女を苦しめるの?…それだけは出来ない!!
「リリア!私はこれから牢獄に向かいます、案内をして下さい」
「ふふふっ、そう来なければ…急ぎましょう今頃牢獄のベットで泣いていますよ。きっと」
「彼女はそんなに弱くはありません!!」
「ふふっ、これは失礼いたしました。」
待っててアリス直ぐ迎えに行きます。