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短編集

狭くぼろい部屋の中で、作られた命と一緒に未来の夢をみる

作者: よぎそーと
掲載日:2017/11/20

「おかえりなさい」

 そんな言葉に「おう」と素っ気ない声を返す。

 しかし、気乗りしないとか言うのも煩わしいというわけではない。

 口を動かすのが苦手なもので、どうしても言葉が足りなくなるだけだ。

 実際にはこれで結構喜んでいる。

 何せ今までの人生であり得なかったものがそこにあるのだから。

「今日は?」

と尋ねれば、

「肉じゃがです」

と答えが返ってくる事など、これまでの三十年余りの人生において全くなかった。

 子供の頃、家に帰ると母親が料理を作っていてくれた事はあるが、それとは意味が異なる。

 築50年以上、六畳一間のオンボロアパートの一室で待っていてくれるのは、血縁関係など全く無い女である。

 ついでにいえば、家政婦の類でもない。

 正真正銘、彼が手に入れた相手であった。

 その存在のありがたさを、彼女がやって来た日から毎日感じている。

 靴を脱いで家に上がり、背広を脱いでいくのも楽しい。

 部屋着に着替えて振り返れば、部屋の真ん中にひろげられてる小さな卓に料理が並べられていた。

「ごめんなさいね、手がはなせなくて」

 着替えの手伝いが出来なかった事についてである。

 別に手を抜いていたわけではなく、食事の支度をして多のだから仕方が無い。

 それでも一応はあやまってくれる所に好感がもてる。

「いやいや」

 そういって首と手を振る。

「しょうがないって」

 もっと気の利いた事を言ってやりたいのだが、なかなか言葉が出て来ない。

 これがネットへの書き込みやメールなら、もう少し言いたい事を言葉に出来るのだが。

 現実はなかなかままならない。

 それでも彼女はそのあたりをくんでくれたのか、嬉しそうに笑みを浮かべる。

「お風呂の方も準備が出来てるから、あとで入っちゃってくださいね」

「ああ、うん」

 頷いて卓の前に座る。

 先ほど言っていたとおり、肉じゃがが用意されている。

 ご飯と味噌汁は言わずもがな。

 特に手の込んたものではないごく一般的な家庭料理である。

 それが男にとってはありがたい。

「じゃあ、いただきます」

「はい、どうぞ」

 短い言葉を交わして食事がはじまる。

 口にするありふれた、それでもなかなかに美味しい料理を口の中に放り込みながら幸せをかみしめる。

(よかった……)

 彼女が来てから何度も思った事を今も思い浮かべる。

(無理してでも買って、本当に良かった)

 そう思いながら、目の前に座って一緒に食事をする購入品を見つめる。

「どうかしましたか?」

 視線に気づいた彼女が首をかしげてくる。

 そのしぐさのかわいさにあてられそうになる。

 が、何とか意識を保って、

「いや、なんでもないよ」

と答えた。

 ただ、それだけだと言葉が足りないだろうと思って幾らか付け足す。

「君が来てくれて本当に良かったなって思ってね」

「え、あ、そんな……」

 言われた方は真っ赤になって照れていく。

 言ってる方も自分の顔が熱くなっていくのを感じた。

「いや、何度も言ってるじゃん。

 今更……」

「それはそうなのかもしれないですけど……でも、言われるとどうしてもこうなっちゃって」

 そんな反応がまたかわいいと思いながら、男は幸せをかみしめた。

 このために支払った金など何一つ惜しくないと思いながら。

(作り物でも構わないわな、これなら)

 目の前にいる、500万円(消費税別)で購入した彼女を見て心底そう思う。

 バイオテクノロジーの粋を集めて作った人造人間を。



 クローン技術の応用から出来上がったという人造人間。

 これが一般向けに販売されるようになって、いまだ数十年程度の時間しか経ってない。

 しかし、当初は大々的な反対にあっていた人造人間の販売も、今やありふれた日常の一つになるくらいに定着していた。

 命に関わる技術を用いてるので、いまだに倫理・道徳、あるいは宗教的観点からの反対はある。

 だが、既に世に出回り、それなりに浸透しているものを排除するには至ってなかった。

 そうなる理由も幾つか存在していた。



 まず、少子化という人口減少の抑制という理由が大きかった。

 止まる事のない出生率低下を補うために、どうしてもあらたな労働力が必要であった。

 そのため、少しでも労働力を確保するために秘密裏に作られたのが人造人間であったという。

 彼等はそれとなく一般社会に入り込み、各企業の様々な職場で労働に勤しんでいった。

 見目麗しいという特徴はあったが、外見的に差異のない人造人間達は怪しまれる事無くあちこちで働いていたという。

 これにより労働力確保という懸念は回避されていく事になる。



 また、人口減少の理由である結婚をしない、子供をもうけないという事への歯止めも期待されていた。

 当たり前であるが、人口減少は子供が生まれない事からきてるのであり、それ以外に理由は無い。

 これらを回避するには結婚して子供をもうけていかねばならない。

 しかし、結婚出来ない者達もまた数多い。

 経済的な理由などをとりあえず置いておくにしても、出会いがない、交際の機会がないというのが一番の問題だった。

 それを解消する事も人造人間を世に出した理由であったという。

 人工的に作られたという違いはあるが、基本的な機能は人間と変わるところはない。

 当然、交われば赤子を授かる可能性もあった。

 懸念されていたのは懐妊する可能性であったが、人造人間であっても通常の人間と同等の確率で懐妊する事が判明した。

 これを受けて人造人間は、単純な労働力というだけでなく、交際し一生を添い遂げる相手という可能性を持つに至った。

 少なくとも相手がいなくて困るという事態はかなり改善された。

 しかし、本格的に人造人間との付き合いが加速するのは、これらが販売されるようになってからである。



 いくら世の中に出回ってるといっても、出会わなければ交際に発展する可能性はない。

 以前よりはその確率が増えはしたが、それでもまだ満足のいく結果にはほど遠かった。

 そこで、人造人間を開発していた会社は、発想を大きく変えた。

「どうせなら、販売してしまえ」

 人工的なものとはいね命にたいして余りにも冒涜的な考えではある。

 だが、町を歩いてたり、職場や趣味の催しなどで出会うよりはよっぽど巡り会う確率は高い。

 何せ購入するという事は、金を出した者に確実に巡り会うという事なのだから。

 研究開発などに投資していた分を回収したいという目論見も当然あったが、純粋に出会いの可能性を増やすというならこれ以外に最善な方法もなかった。

 それに、この方法なら人造人間をそれまで以上に数多く生み出す事も出来た。



 かなり廉価に作れる(という表現にいささか問題があるかもしれないが)ようになった人造人間。

 それでも一人を製造(?)するにはかなりの費用がかかった。

 工業製品と同列に扱うのもどうかというところだが、製造費用がかかるという事は数を揃える事が出来ないという事でもある。

 その為、どうしても世間にひろめるという事も難しくなる。

 もともとは労働力確保を目的としたものであったが、あまりにも生産数が少なければその効果を大きくする事も難しい。

 結婚(そこまでいかなくても交際くらいまでは)に至る関係を持つ者達の数も限られてしまう。

 それらを世間一般に販売する事で解消しようとした。

 これならば世間全体からの需要を見込めるし、生産体制を組むことも出来るようになる。

 需要が多ければば製品一つ当たりの生産費用が下がるという市場原理はここでも働いてくれた。

 命を売買するなど、という声もあったが、交際相手の確保、引いてはその後に続いてやってくる新たな生命の誕生の前には無力だった。

 人造人間製造会社は押し寄せる様々な抗議をはねのけ、求める様々な者達に人造人間を販売していった。

 効果は絶大だった。



 当初は4000万円以上していた高価な人造人間であるが、それでも購入する富裕層は存在した。

 そんな彼等が初期の客になり、それで得られた資金をもとに生産体制を確立。

 更に大量により廉価に人造人間の生産が出来るようになると、値段は一気に下がっていった。

 都市部の戸建て並の値段だった人造人間は、乗用車一台分くらいにまで値段を下げる。

 ここまでわずか数年である。

 これだけの値段になれば、一般的な収入であっても購入可能になってくる。

 出会いの機会のない者達で、これだけの金を出せる者達の多くは人造人間の購入に踏み切っていった。



 結果として、結婚に踏み切る者達が数多く発生した。

 もともと人造人間を購入出来るくらいの稼ぎのある者達である。

 贅沢をしなければ一家を養っていける余裕はあった。

 家庭を持つにあたり経済的な問題はなかった。

 性格や人格の問題はあったが、これも大半は人造人間の方で問題を吸収していった。

 人工的に調整が出来る人造人間は、見た目もそうだが性格・頭脳もだいたいにおいて並の人間以上だった。

 さすがに天才といえるようなものを量産は出来なかったが、平均値は軽く超える者達が多い。

 そんな人造人間は、少々の問題がある程度なら購入者の人間性を許容していった。

 よほどねじくれてない限りはおおよその夫婦はそれなりに上手くやっていった。

 そして、男女が一緒に暮らしていけば当然その結果もついてまわる。

 ここは個人差が出てくるところであったが、どの夫婦も概ね二人三人くらいの子供に恵まれていった。

 もっとも、結婚が増加し子供が生まれるようになるまでには、税金や社会保障などでとられる費用の低下を待つ事にはなったが。

 それでも人口の減少はこの時期からゆるやかになり、懸念された国や文明に吸いたいは一応は回避出来るようになっていった。



 そんなわけで、なかなか出会いの機会のない者達は人造人間と添い遂げる事が多くなっていった。

 もちろん出会いのある者達はこの限りではなかった。

 その為、ある種の二極化が進みもした。

 当時言われた言葉を用いれば、「もてない連中の避難先」となる。

 意味するところが容易に予想出来る、そして実態を限り無く正確にあらわしていた。

 だが、そういった揶揄や侮蔑の言葉があっても、他に相手のいない者達はようやくあらわれた自分達の相手を歓迎した。

 そして時間が経過するごとに、こういった声も薄れていった。

 根強く残りはしたが、だんだんと人造人間を普通に異性との出会いがある者達も手を出し始めて状況は変わった。

 何せ、並大抵の人間よりは優れた見た目と中身を持つ者達である。

 よほど異性に言い寄られるような立場のものでもない限り、興味を持つのは自然な流れであっただろう。

 そして、一度でも人造人間に接した者達は、相手の気配りなどに心地よさを感じていく。

 そうして自分自身が人造人間を所有するようになれば、所有者達を悪くいう事も出来なくなる。

 こうして段々と非難の声は少なくなっていった。



 そういった経緯を経て現在である。

 ある程度人造人間への評価や対応が落ち着き、所有してる事にそれほど抵抗がなくなってきた時期である。

 ようやく人造人間を購入した男は、そのありがたさを痛感していた。

 悲しい事に、三十余年の人生で女に縁のあった事など一度も無かった。

 そのせいもあろうが、始めて接する異性(血縁関係者除く)は最高だった。

 相手が頭も性格も良いという人造人間という事もあろうが、一緒に居て本当に幸せな気分にひたらせてくれる。

 さすがに若い者達のような恋愛というものは無理であったが、胸がときめくという事の意味をようやく知る事が出来た。

(いすれはこいつと……)

とも思う。

 やがては結婚をし、子供も生まれるだろう。

 そうなれば、もう少し賑やかな事になるだろうとも思っていた。

 その前に片付けねばならない問題もあるので、すぐにというわけにはいかない。

 だが、ある程度時間をかけてそれらを解消していく事は出来る。

 とりあえずは、今現在の住居である。

 金を貯めるため、出来るだけ安い所を借りてはいたが、さすがにもう限界だった。

 古さやボロさもあるが、二人で済むには狭すぎるのが一番の問題だった。

 まずはこれをどうにかしないといけない。

 その為、今は色々と動いてる最中であった。

「なあ」

 食事が終わりかけた頃に声をかける。

「手頃な家とか見つかった?」

「いえ、さすがに簡単にはいかないですね」

 申し訳なさそうな返事がくる。

「賃貸でもそこそこ広くなると値段が一気に上がってしまいますし。

 手頃な値段だと通勤に時間がかかる場所になりますから」

「まあ、そうだよなあ」

 当たり前であるがやはり思ったよりも事は簡単ではない。

 目の前の彼女を購入した事で、金もかなり飛んでしまっている。

 それでも幾らかの蓄えはあるが、そうそう無理は出来ない。

 手持ちの資金で出来る事を模索している最中であった。

「でも、すぐに引っ越す必要もありませんし。

 もう少し時間をかけて良い物件が出るのを待っても良いんじゃないですか?」

「それはなあ……」

 確かにそれもそうではある。

 自分で建てるのでなければ、手頃な物件が出るまで待つしかない。

 また、今の財政事情を改善するためにも、少しばかり時間は必要だ。

 それは分かっているのだが、それでもやはり急いで何とかしたかった。

「二人でも狭いんだし」

「私はそれでも構わないですよ。

 二人だけなんですし」

「まあ、二人だけならね……」

 いずれ更に増える事になるだろうから、そうなる前に色々手をうっておきたかった。

「三人に増えたらそうもいかないだろ」

 思った事を素直に口に出していく。

 彼からすれば特に何かを意識したわけではない。

 この先起こりうる事を当たり前のように口にしただけだ。

 だが、それを聞いた相手は顔を赤くしていく。

「……それは、やはり、そういう事なんですよね」

「ん…………あ、ああ。

 まあ、そういう事っていうか、そのつもりっていうか……。

 それが目的で買ったわけだし、やっぱりねえ……」

「ええ、まあ、そういう事ですからね。

 分かってはいます、はい」

「うん、そう、ならいいんだ。

 まあ、だからね、そういう事も考えて、なるべく早く広い所にね」

「そうですよね、やっぱりそれだと、そうなりますよね……」

 主語がない言葉が飛び交う。

 当事者同士でなければ何を言ってるのかさっぱりわからないだろう。

 いや、お互い何を言ってるのか既に分かってないのだが。

 それどころか、言葉を口にしてる本人すら、もう何を指して「あれ」だの「それ」だの言ってるのか分からなくなっている。

「まあ、そういうわけだから」

「はい、それならもう少し調べてみます」

 収拾がつかなくなった言葉のやりとりは、最終的にそこに落ち着いていった。

 双方、こころもち俯き加減で、顔を真っ赤にしながら。



 その夜、二人はいつものように風呂に入り、一つの布団に二人一緒に入り。

 大人らしい事をしながら眠りについていく。

 心地良い気怠さの中で、

「今度の休みさ、不動産屋を見て回ろうか……」

「ええ、そうですね。

 いい所が見つかるといですね……」

 そんな約束を交わしながら。

 それがデートのついでであるのか、物件探しの次いでのデートなのかは定かではない。

 しかし、二人で未来を見つめにいく事に変わりはない。

 多少野暮ったい内容ではあるが、そんな事もまた今の二人には楽しみの一つであった。

 同じ布団で互いのぬくもりを確かめあう事と同じくらいには。



「俺さ」

「はい?」

「お前を買ってよかったよ。

 こんな言い方もなんだけど」

「何を言ってるんですか。

 あなたが購入してくれなかったら、私は存在しなかったんですから。

 私がここにこうしていられるのは、あなたのおかげなんですよ」

「それもそうか」

「ええ。

 だから、私の方こそありがとうです。

 こうして、ここにいられるんですから……」

 言いながら頭を相手に押しつけていく。

 そんな彼女を抱きしめ、目を閉じた。

 今日も気持ちよく眠れそうだと思いながら。

 どこが恋愛なんだといわれそうですが、そこはご容赦を。

 少しでもそういった雰囲気が出てればいいのだけど。

 ジャンルわけがなかなか難しい。

 でも、俺が恋愛ぽい話を書いてもこんな調子だというのが分かっていただければ。

 人の心の機微を書くのはなかなかに難しいもんです。

 人物描写もですが。

 ひねくれたものを書き続けてるからでしょうか。



 普段はこんな感じの話を書いてます。

「転生者、冒険者になって少しだけ世の中を変える」

https://ncode.syosetu.com/n9511ej/



 他にも短編を最近は色々出してます。

「なんでか転生した異世界で出来るだけの事はしてみようと思うけどこれってチートですか?」

https://ncode.syosetu.com/n3761ef/


「捨て石同然で異世界に放り込まれたので生き残るために戦わざるえなくなった」

https://ncode.syosetu.com/n7019ee/



 やっぱりこういうのの方が書きやすいです。



 ……でも、こういう話でならR18が書けそうな気がする。

 需要があるか分からんですが。

 そもそもとして、いつ書けばよいのやらというところであります。

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