1章 出会いは突然に
01 びんとマジック制作部
~~~~あなたは魔法を信じますか?~~~~
by朝霧 鈴
[あさぎり りん]
朝
目が覚めると、天井に貼り付けたお気に入りの
セクシーなキャラクターのイラストが目に映る。
目覚めの瞬間がこの世で嫌いな物ランキング15番目にランクインしている敏にとっては、朝起きて
最初に目に映るものが美少女にすることで少しでも
ましな目覚めにするようにしていた。
「 ふわぁ~~。........今日もかわいいな。 」
ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン
部屋の扉が激しく叩かれる。
「 (相変わらず人の部屋をなんだと思ってるんだ、あの妹は..... ) 」
「 お兄ちゃ~~~~ん! 起きろぉ~~! 」
母と父は出張が多く、その関係で家の家事はほとんどが1つ下で中学3年生の妹、多村 咲夜[さくや]
に任せきってしまっている。
「 (まぁ、家事やらせてるのは俺も悪いとは思うけどさ。頼むからせっかくの日曜日くらいゆっくり眠らせてくれよ。) 」
そんな願望は届かずに、
「 お兄ちゃん!入るよ~~! 」
ガチャリ。
「 お兄ちゃんまだ寝てるの? 」
「 (すまんな妹。俺はまだ寝ていたいのでな。寝たフリでやり過ごしてもらう...) ごえフゥッッ??!
腹パンチ。いや、正確には腹エルボー。その衝撃でベッドが軋む。いや、軋んだのは骨かもしれない。
「 なんだ、やっぱりお兄ちゃん起きてるじゃん。
呼んでも反応ないからオ○○ーして死んじゃったんじゃないかと思って心配したんだよ? 」
「 エルボーされて起きないやつがいるわけないだろぉ!!つかオ○○ーはしていないし、それで死んだのならお前は絶対笑いものにするだろ!
まったく、お前は黙ってれば可愛いのに、なんでこんな性格してんだか... 」
妹は学年でもトップクラスの学力、容姿は黒髪セミロングで可愛らしく、それでいて中学2年生とは思えないほどの色香をまとっているという完璧な妹だ。この、兄の敏に対する態度を除けば....
「 それより、まだ寝るつもりなの?。そろそろ時間じゃない?お兄ちゃん。 」
「 は?今日は日曜日で休みだから時間もなにもないだろ?妹。 」
「 半分正解だよ、お兄ちゃん。今日は日曜日。けど、休みじゃないよ。今日はお兄ちゃんの高校の入学式でしょ? 」
「.........ま、まざい? 」
#
遅刻。それは敏にとって約束された未来だった。
とりあえず全力で坂をママチャリで下り、最寄りの駅に向かう、それから電車に乗って45分近くで敏の入学する、五十峯学園[いずみねがくえん]の最寄り駅に着く。そこからは、歩いてまた10分でようやくたどり着くことができる。
「 ここだよな...。 」
家を出てから1時間と少し。ようやく五十峯学園に着いた。正門の横には五十峯学園入学式と筆で書かれた立て看板が敏を見下ろすように立てられていた。
「 よし、行くか... 」
深呼吸をゆっくりと繰り返し、門を通ろうとすると後ろから。
「 あの....。新入生の方ですか? 」
振り返ると、美人。一言で表すならば美人。黒い美しい髪はショートで、美しい瞳とそれを映す 眼鏡は透き通るような綺麗な水色。背丈は172センチある敏とほぼ同じで、制服のスカートからは美しい肌色の細すぎず 程よい肉付きの足が見え、制服の上からでもわかる綺麗なくびれ。綺麗に形取られた胸はネクタイを盛り上げている..。まさに美少女であった。
「 あ..ああ、あなたは? 」
昔から妹以外の女性とはあまり話してこなかった敏にとって、この突然の美少女との出会いは驚きでしかなく、当然のように緊張していた。
「 私はこの学園の2年生。実は私も遅刻しちゃってて。体育館で入学式をやってる.......この時間だともう終わって部活動紹介だね。とりあえず、体育館まで案内するから着いてきて。 」
そう言うと彼女は敏の前を歩いた。
「 あ...は、はい!ありがっ、と..とうございますた...じゃなくて、ました!。」
「 ?。 大丈夫ですか?。 」
「 だ..だいじょう..ぶです... 」
「 ? 」
敏も彼女の後をついて歩いた。彼女の周りを纏う香りがとてもいい香りで、あまり嗅いでしまうといろいろ危ない気がしたので、少し距離を取りながら歩いた。
#
体育館に着くと、ダンス部らしき部活が発表のダンスを披露し終え、生徒のトイレ休憩を取っている時間だった。 彼女とは入り口で別れ、自分のクラスのイスを探して座った。敏のクラスはB組の真ん中辺りだった。
「 入学早々に遅刻とはやるじゃないか、敏! さては高校時代は不良系キャラで行くつもりだな? 」
「 秋彦か。お前はC組だったんだな。 」
敏の右斜め後ろから声をかけてきたのは中学時代からの数少ない友達でいて、アニメや漫画の趣味仲間の倉岡 秋彦[ くらおか あきひこ ]だった。
「 ていうか、俺は別にしたくて遅刻したわけじゃないし不良になるつもりもないぞ。 」
「 まぁそうだよなぁー。お前は永遠の村人Bだからな。 」
「 誰が、永遠の村人Bだ!! 」
「 悪かった、悪かったよ。あんまり怒んなって。ほ..ほらそろそろ始まるぞ。 」
「 まったく、次言ったらもうラノベ貸さないからな!。」
そんなことを言っていると、生徒会らしき女子生徒のアナウンスが聞こえた。
「 生徒は静かにしてください。 続いての部活動紹介は...マジック制作部です。 」
「 マジックか...。そういえば小学生の頃はマジックにハマってずっと練習してたな...。 」
体育館のステージにかかっていたカーテンが上がっていく...。そこにはライトに照らされた1人の女子生徒がいた。その格好は特徴的で、無駄に大きな黒いとんがり帽子に紺色のローブのような物を着て、下は学校指定のスカートを履いており、顔や体格は遠くてハッキリとは認識できないが、マジシャンというよりは魔法使いのような印象だった。
その魔法使いは頭にかぶせていたとんがり帽子を脱いで床に置いた...。そして、そのとんがり帽子を取るとそこにはなんと白いハト....ではなくドス黒いカラスがキョロキョロと周囲を見渡していた。当然体育館には歓声と拍手ではなく、ヒソヒソ話しと驚こうにも微妙な反応になってしまった声が入り混じっていた。
「 な、なぜカラスなんだ........? 」
ちなみに、カラスは何かに呼ばれているかのようにステージの裏に消えていった...。
次にステージ裏から何やら大掛かりな箱が運ばれて来た。運んで来たのは先程ハトではなくカラスを出した生徒と同じ格好をした2人の生徒だった。
運んだと言っても、2人の生徒はその箱には触れずに勝手に動く箱と並んでステージ裏から出て来た。
「 なぜ、あの箱は勝手に動いているんだ?.....
というか、あれこそなぜマジックとして披露しないんだ!??。 」
すると一緒に出て来た生徒の一人がその箱の扉を開いて中に入っていった。そして残った二人は箱の両側に並んで立っている。その箱は、赤い色に黒で縁取られた人間1人がちょうど入れるくらいの大きさだった。
「 これはあれか。中の人が開けたらいなくなっているマジック、だよな... 」
敏の予想は外れた。なんとステージの裏から今度は数十本の剣が出て来た。例のごとく剣が勝手に動いて。
「 だからどうしてあれをマジックとして披露しないんだ...。 」
するとその剣は箱を囲むように陣取ると、一斉に箱めがけて突き刺さった。一本一本が長く箱を貫通していた。数秒後に剣は引き抜かれたが、普通なら中の生徒は体中が穴だらけになっているはずだが、なんと扉からはイキイキとした生徒が出て来たのだ。
「 い、いや気のせいだよな...。きっと見間違いだよな..?!?。 」
これには大歓声....かと思いきや、ステージから遠い席の生徒からは拍手と歓声が上がっていたが、ステージに近い席の生徒は呆然としていた...。なぜなら箱の扉の下から赤い血のような液体が垂れていたからだった....。
「 き、きっとあれは演出のための血のりだよね、うん、そうだよね!。 」
バイオレンスな空気を生み出した箱は、気づけばステージの裏に帰っていった.........例のごとく勝手に(以下略
最後に3人の生徒はお辞儀をしたあと、ステージを去っていった。
「 後味悪いな..このマジックショー。」
本来、マジックとは人を楽しませ驚かせるものだと思っていた敏にとって、このマジックショーは納得のいくものではなかった...。
小学生の頃に初めてマジックを見て感動し、以来練習しては友達に見せての繰り返しだった。
#
放課後
「 結局、来ちゃったか...。 」
敏はプレートにマジック制作部と書かれたプレハブのような離れの入り口にいた。部活動紹介も終わり、今日からさっそく体験入部が始まったのだが...敏はマジック制作部に来ていた。
「 ま..まぁ、部活動紹介の時はなんかあれだったけど、とりあえず見学だけでもしてみるか。 」
ゴクリ。と唾を飲み込み、ドアノブを掴み手前に引く。
「 し、失礼します...。あの、部活動の見学に来ましたっ....て、え!? 」
まず、敏の目に映ったのは長机とその後ろのパイプ椅子に等間隔で座る2人の部員らしき生徒。そして、 長机の真ん中から数メートル先にあるパイプ椅子。まるで面接のような状況と重い空気。そして、2人の生徒はやけに真剣味のある表情をしていた...。
「 あ..部屋を間違えちゃいました。すいませんでした。! ( なんだよこの空気、絶対おかしいって、どこのゲーム会社の面接だよ。 ) 」
そう言って振り返ってドアノブを握り、出ようとすると、
「( あ..あれ?なんで扉が開かないんだ!鍵なんてかけてないしなかったぞ。) 」
敏があたふたしていると後ろから、
「 どうぞお掛けになってください。 」
と。ニコニコしながらパイプ椅子に座る生徒が敏に声をかけてきた。
「 は、はい。(しょうがない、ここはおとなしく座って、落ち着いたら適当な理由をつけて帰らせてもらうことにしよう。) 」
そう考えた、敏はパイプ椅子に腰掛けた。
「 では、これから入部面接をします。 」
「 (おかしいだろ!なんだよ入部面接って。聞いたことないぞ!。) 」
「 何故あなたはこの部に来たのですか? 」
「 えっと。趣味でマジックを少ししているので興味があったからです。 」
「 そうですか...。では何かマジックをしてみてください。」
「 え? 」
「 ですから、マジックをしてみてくださいと言ったのですが...?。 」
「 (いきなり無茶振りすぎるだろ。まぁそんな事もあろうかと、準備してきておいて正解だったな。)
で、ではこちらにハンカチがありますね。こちらのハンカチをこちらの右手で握ります。そして、握った右手に軽く息を吹きかけます...。すると、なんとハンカチだけじゃなく百円玉が出てきましたー......ていうマジックなんですが....。」
このマジックは、ハンカチを掴む手でハンカチの影に百円玉を隠して一緒に反対の手で握り、あたかもハンカチから百円玉が出たかのように見せるマジックなのだが...。
「 次にあなたの趣味を教えてください。 」
「 (いやノーコメントかよ!! )あ..アニメ観賞に漫画やラノベを読むことです。 」
「 そうですか..。つまりあなたはオタクですか。? 」
「 えっとまぁ、一様そういうことにはなりますね。 」
「 では。次の質問をします。 」
「(聞いておいて無視!?) 」
「 週に何回オ○○ニーしますか? 」
「 ...?... ? 」
「 ですから週に何回オ○○ニーするのかと聞いているのです。 」
「 聴き間違いですよね?今オ○○ニーと言いましたか? 」
確かに聞き間違いではないと思ったが、こんな綺麗な人がそんな事は口にしないだろうという、敏の勝手な思い込みが引っかかり、聞き直した。
「 はぁ、まったく女の子に何回オ○○ニーと言わせれば気がすむのかしら、多村くん?。 」
「 ちょ..ちょっとまってください!その質問は関係ないし、別に言わしたいわけではないですよ?! (というか、今俺の名前言ったよな....) 」
「 関係なくはないわよ。もしあなたが性欲有り余るオスザルなら、私達が襲われるのは時間の問題だもの。そうでしょう?。 」
「 人を性欲有り余るオスザル呼ばわりしないでくれませんか?朝霧先輩。 」
「 あら。やっと思い出してくれたのね....多村くん? 久しぶりね。2年ぶりの再会かしら? 」
「 久しぶりですね朝霧先輩。その口調や毒舌を聞いて思い出しましたよ。 」
敏とこの朝霧という生徒は小学時代の知り合いだった。中学時代の2人の出会いはまたの機会に.....
「 会えて嬉しいわ多村くん。では、最後の質問をよ。 」
そういうと、彼女は敏を見据えてこう問いかけた..
「 あなたは魔法を信じますか? 」
「 っ!!........ その言葉....覚えていたんですね 」
「 えぇ、もちろんよ。それで、返答は? 」
「 俺は....信じません。そんな非現実的な物はありませんよ...。先輩。 」
「 そう ...。面接はこれで終わりよ。結果は明日の朝、校門で部員に伝えさせるわ。」
そういうと、入り口の扉が開いた。誰の手も借りずに.....。
「 朝霧先輩。俺はまだ入ると決めてはいませんから...。 」
そう告げると、敏は部室を去っていった。
「 (そういえば、朝霧先輩の隣に座ってた人、一言も喋らなかったな..) 」
#
翌日 朝
「 (昨日はいろいろな事がありすぎて、あまりよく眠れなかったな...) 」
昨日あった様々な出来事....。それら全てが敏にとって想像を超えた出来事だった。
学園の正門の脇道。満開の桜が咲く下を歩きながら敏は昨日あった出来事を整理し考えた。しかし、それらは全て一瞬にして忘れてしまう。
「 あ、来た来た! 」
正門横の桜の下、昨日出会ったばかりの彼女はそう言って近づいて来た。
「 え、あの... 。 」
「 もしかして忘れちゃった?。昨日、ここで会ってるんだけど...。 」
昨日、正門で出会った彼女。初めて、一目惚れをしてしまった彼女。
「 あ、い..いや覚えていますよ。先輩。 」
「 良かった~。忘れられちゃったらどうしようかと思ったよ。 」
「 (あんなラノベでしかないような出会い、一生忘れられないですよ。) そ...それで、用件はなんでしょうか先輩? 」
「 あ、そうそう朝霧先輩から伝えるように頼まれたんだよね。 」
「 え、....朝霧...先輩?... 」
嫌な予感がした。
「 入部面接合格だってさ。 面接なんてやらされて大変だったでしょ? ごめんね、私いなくて。 」
「 嘘...だろ。ということは...先輩は...。 」
そう聞くと彼女は笑顔で、
「 私はマジック制作部所属。柏木 飛香。よろしくね、びんくんっ! 」
こうして、俺の学園生活。恋とマジックの学園生活は始まった....。
つづく