鬼っ子(ショートショート32)
ある山里の村に、おじいさんとおばあさん、それにじゅん吉という男の子が暮らしていました。
ある日のこと。
おじいさんが山で赤んぼうをひろってきました。
玉のようにあいらしい女の子です。
「鬼っ子じゃ。捨てられて泣いておった」
「鬼っ子って?」
「ほれ、こいつを見るんじゃ」
おじいさんが女の子の頭のてっぺんを見せます。
そこにはまだ小さいが、鬼のあかしであるツノがついていました。
「この子、鬼の子なの?」
「山の奥深くには鬼が住んでおってな。こうしてときどき、自分の子を捨てるんじゃよ」
「わけあって捨てられたにちがいねえ。なんともかわいそうじゃ。うちで育ててやらにゃ」
おばあさんはさっそく小さな頭巾をぬうと、赤んぼうの頭にかぶせてやりました。
「これで鬼っ子だとわかるまい」
「じゅん吉、だれにもしゃべるんじゃねえぞ。ひどい目に合わされちまうからな」
おじいさんは強く口止めをしました。
その日から……。
じゅん吉は鬼っ子のことを、妹のようにかわいがったのでした。
一年の月日が流れました。
鬼っ子はすくすく育ち、よちよちと歩くまでになりました。
人間の子と少しも変わりません。ただツノは一寸ほどにまで伸び、ずいぶん目立つようになっていました。
「おおかた伸びきったようじゃな。そろそろ、こいつをとってやらねばな」
おじいさんがツノをなでて言います。
「ツノがなくなったら、ずっと人間でいられるの?」
「しばらくはだいじょうぶじゃ。次にツノがはえてくるのは、この子が十になるときだからな」
鬼っ子はツノをとってもらいました。
ツノのあったところはハゲになりましたが、それもじきに元のように毛がはえそろいました。
こうして……。
鬼っ子は人の子と変わるところがなくなりました。
頭巾もかぶらなくてよくなりました。
三年ほどが過ぎました。
そんなある日、おばあさんが新しい頭巾をぬっていました。
「またツノがはえてくるの?」
じゅん吉は心配になって聞きました。
「いや、こいつはオマエのもんじゃよ」
「えっ?」
「オマエもそろそろ十になる。しばらく頭巾をかぶっておれ」
おじいさんはそう言って、できあがったばかりの頭巾をじゅん吉の頭にかぶせました。
「オイラも鬼っ子だったの?」
じゅん吉が頭をさわってみると、てっぺんに小さなコブがあります。
「心配することはねえ。伸びきったら、ワシがとってやる。そうすりゃ、二度とはえてこんからな」
おじいさんはそう言って、つるりとした頭のてっぺんを見せました。
「ほれ、見ろ。ワシはこんとおり、もう五十年もはえてこなんだ」