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ラストウィザード  作者: 森戸玲有
第1章
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 しんとした城の一室に、男と女がいた。

 若い女性と、初老の男性だ。

 燭台の明かりが男に影を持たせ、月明かりが女に無垢なる権威を与えていた。

 古美術品がひしめき、真紅の絨毯が重厚な空気を作り出す広い私室。

 女は静かな笑みを浮かべて、長い時間渋面を浮かべている初老の男に言い放った。


「あの子が事を急ぐように催促してきたわ」


 男は予測していたのか、焦ることなく頷いたが、次の言葉には溜息も混じっていた。


「たしかに、あのお方が国を追われてから、三年が経っています。行動に移すのなら、今でしょうが……。貴方は、国王に戦いを挑むおつもりですか?」

「貴方もそれを望んでいるのでしょう?」

「今よりも、現状が改善されるのなら、それもやむなしでしょう。しかし、それは最後の手段であるべきだと思います」

「分かっているわ」


 女は男の肩を軽く叩いた。うつむいた男は、今の女よりも小さい。


「私も正直なところ、現国王に関しては未知数なの。この体の記憶が断片的に流れこんでくる程度だわ」


 女は、部屋の奥に向かって音もなく歩く。

 壁の前に置かれていた女神ヴァールを象った石像をどかせた。

 ヴァールは、十代の若々しい娘として描かれることが多い。

 このヴァールも、その通りに彫りこまれていた。

 下が小さな車輪になっているので、簡単に動く。像がなくなった場所には、鋼の扉が出現していた。


「やっぱり無理はいけないわね。少し喋っただけで疲れてしまう。今晩は休むわ」


 女はそう言い残すと、椅子にかけてあった紫の肩掛けを羽織って、暗い扉の奥に消えていった。

 初老の男は、女が先ほどまでいた位置に立つ。空気が冷たかった。


 夜空にある白い月の光が、一人たたずむ男の横顔を、ひっそりと照らしていた。


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