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ラストウィザード  作者: 森戸玲有
第1章
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 ――港町、サンセクト。

 背の低い白塗りの建物が夕陽色に染まる頃、狭い路地をティルは走っていた。

 白い神官服は橙色に染まり、さらさらの長い金髪は向かい風になびいていた。

 石畳の上を飛ぶように走る。風のような速さを維持しながらもティルは汗一つかいていない。むしろ、ティルを追う男たちは、疲労が限界に達しつつあるようで、前のめりになって走りながら、今にも倒れてしまいそうな様子だった。


「姉ちゃん、追われているのかい?」


 露天商の男が下心のありそうな笑みを浮かべて、声をかけたが、ティルは唇を緩めるだけで、速度は落とさなかった。

 表通りから一歩奥に入ると町は迷路になっている。最近やっと覚えた緩やかな坂をティルは駆け下りた。そろそろ行き止まりだと直感して、少しだけ後悔する。


「さて、どうしたものかな?」


 艶のあるその声は、激しい動きとは正反対に冷静なものだった。

 追っ手たちは、毎度撒かれているのが癪なのか、ここに来てもまだ諦めるつもりはないらしい。感心はしているが、客観的に見て自分が窮地であることには違いない。

 いっそ捕まってしまおうか? 

 そんな考えがティルの頭をよぎる。それもいいと思った。捕えられても抜け出せる自信が確かにティルにはあった。

 だが、ぴたりと足を止めたのは、その考えを実行するためではなかった。

 夕陽の届かない路地裏に黒い人影を見た。

 ティルはなぜ、自分が立ち止まったのか分からないまま、目を凝らし確認する。人影は徐々に輪郭を露わにした。まだ性別は判断できないものの、華奢な体つきをしていた。  

 ゆっくりと前進してくるものの、ティルが見る限り、所作にまったく隙がなかった。腰を落として、知らない土地を敵地のように注意深く歩いている。

 影だと思ったのは、無理もない。烏色の髪と、黒い外套。全身真っ黒だ。

 腰の部分が盛り上がっているのは、長剣を差しているせいだろうか。


 ――騎士か。

 それも、きちんと訓練を受けた上質なヤツだ。

 一目でティルは見抜いた。

 しかし、騎士はたった一人だ。他に連れはいないらしい。

 なぜなのか……。しかし、すぐにある憶測が生まれて、苦笑が零れた。妖艶な碧色の瞳に、悪戯を考えた子供のようなあどけなさが宿る。ティルは止めていた足を再び動かし、即興で涙目を作った。

 緊迫感を漂わせて騎士にぶつかると、その胸倉を必死の形相で掴んだ。


「助けて下さい。追われて……」


 だが、計算高い、月並みな言葉はそこで途切れた。初めて直視した騎士の顔は、ティルが今まで知っているどんな男よりも凛々しかった。


「本当に騎士?」

「いいから下がれ!」


 騎士は中性的な声音で一喝すると、ティルを背中にかばって剣に手をかけた。


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