③
「万事滞りなく、終了しました。前統轄大臣はセイレンの郊外で謹慎して頂いております」
「そうだな、しばらくはそれでいい。ほとぼりが冷めたらまた考えよう」
――王城セイレンの執務室。
クレイ=フェルディンは、満足に頭を下げることもできないまま、久々に帰ってきた主、ウィラードの脱ぎ捨てた外套や上着を持たされていた。
「私は女官じゃありませんよ」
「暑いんだ。こんな形式張った格好でいつまでもいられるか」
そうは言うものの、ウィラードの衣装は略式だ。ウィラードがすぐに重いと脱ぎ去るので、軽量化もされている。これでも文句を言うのだから、もう手の施しようもない。
「しかし、隠密に出て行った時と違って、アリスタと直接交渉してきたっていうことを、大々的に国民に知らしめないといけませんからね。仕方ないでしょう」
面倒だなあ、とウィラードはやる気がなさそうに、執務室の椅子に体を沈めた。
机の上に溜まった山のような書類を見て、一層だらりとしている。
フェルディンはウィラードの衣服を長椅子の上に丁寧に置くと、思っていたことをずばりと聞いた。
「エリー=クラウディアを、なぜ置いてきたのですか?」
「……ああ、そのこと」
ウィラードは机上の書類から逃げるように、椅子から立ち上がり、フェルディンに背中を向けた。
椅子の後ろは窓だ。ウィラードは外を眺めているのだろう。
「私はてっきり、貴方は彼女を面白がって、神統協会に掛け合って、女性騎士団なんか作ろうなどと言い出すのではないかと、ひやひやしていましたがね」
「まあ、それも良かったんだが……。とりあえず、今回はアイツに一つ貸しを作ることにした」
「貸し?」
「なあ、フェディ。アイツは、子供の時からずっと戦争の中にいた。剣士になりたいと言っていたのに、結局魔術の道を志すことになってしまった。アイリーンの死だって、自分のせいだと思い込んで、長い間たった一人で魔術の修行に耐えてきたんだ。俺は自分の悲しみだけで精一杯で、アイツに今まで何もしてやれなかった」
「陛下……」
「ティルの魔術で浄化されたアイリーンは微笑っていた。俺はてっきりアイツはすぐさまアイリーンの形見を拾いに行くだろうって思っていたのに……」
ウィラードは黒い襯衣の衣嚢から、黄金に輝く二つに割れたクロスを取り出した。
「アイツな、クロスを拾わなかったんだ。すぐにエリオットくんのもとに駆け寄っていった。昔じゃ考えられないことだ。……もういい加減、救われちまえばいい。――そう、思ったよ」
ウィラードは投げやりに言ったが、フェルディンにはその真情が分かっていた。
やっと、ティルに救いの手がもたらされたということだろう。ティルには今エリーが必要なのだ。
「それは、貴方のことも言えるのではないですか? そろそろ救われるべきだと?」
諭すように問う。
しかし、ウィラードはそれこそきっぱりと吐き捨てた。
「――誰が救われてなんかやるものか」
……何と強情なのだろう。
フェルディンは溜息交じりに苦笑した。ウィラードの視線の先には、青い空が果てしなく広がっている。
きっと、今頃彼らもこの蒼天の下で……。




