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ラストウィザード  作者: 森戸玲有
第2章
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 世界には三日月形のキアロ大陸と、楕円形のルーチェ大陸が存在しているらしい。

 近年、船の交易が盛んになり、エリーにもようやく世界の構図が見えてきたところだ。

 グローリアの領地は、細長いキアロ大陸の北から南にかけてで、東は小国が乱立していて定かではない。ただ更に南方にはユスティナ国、西方にはアリスタ国と大国がひしめいていて、微妙な力関係の上に三国が成り立っていることは、騎士であるエリーは当然知っていた。

 特に先の内乱で、アリスタ国へ亡命した皇太子アデルの行方は、騎士団の中でも懸念されていて、極秘に密偵がアリスタに侵入しているという情報はエリーも聞いている。

 しかし、まさか、この自分がアリスタの国土を目にする時が来ようなどとは、露ほども思っていなかった。


「近いな。意外に……」


 なんともいえない感慨に、エリーはおもわず溜息をついた。海沿いにのびた何もない一本道だが、この道の向こうがアリスタの領地だという。

 サンセクトはグローリアの中でも海上貿易の拠点として有名な町だが、それとはまた別に、アリスタ国と国境を接していることでも知られていた。


「俺はどうにも、とんでもないことに巻き込まれているような感じだな」


 思い出すと、さきほどとは違う意味で溜息が漏れた。

 ―――ティルがいる。


「ついてくるなよ。気が散るだろう」

「あんたのために、少しは力になるって言ったじゃないか。……あ、おじさん、その首飾りおいくらなのかしら?」


 所狭しと並んでいる海沿いの露店に瞳を輝かせながら、ティルはエリーの後をついてくる。町をもっと良く調べろと言ったのはティルの方なのに、情報収集というより、これでは観光ついでに買い物を楽しんでいるようなものだ。


 ――置いていこう。


 しかし、知らないふりをして、歩き出そうとしたエリーの耳に、異様に艶のあるティルの声が飛び込んできた。


「御代は、あの騎士のお兄さんが払ってくれるから……」


 ちょっと待てとばかりに、エリーはすかさずティルの首根っこを掴んだ。


「お前が力になると言ったのは、俺に物を強請(ねだ)るための方便か?」


 怒鳴りながら、ティルの手にある青い宝玉が光る首飾りの値段を見る。騎士団の給料の一ヶ月分に相当する値だった。かなり、いや相当高い代物である。


「なーに。どうせ、仕事をしたら、たんまりとお金が支払われるんでしょう? 少しくらい私にも協力費として恵んでくれたっていいじゃないか」


 一体何の協力をしているというのだろうか。邪魔をしているようにしか思えない。

 だが、ティルも値札までは見ていなかったらしい。エリーが持っている宝石を取り返して値段を確認すると、端正な顔を引き攣らせて、露店の男にこう言った。


「――おじさん、これはさすがにちょっと高すぎない?」

「相場だよ。この宝石は、最近値段が高騰しているんだ」


 着古した服を寒そうに擦り合わせながら、無精ひげの男は顔を背けて答えた。


「嘘だね。違う町ではこの石、ここの半値で売っていたよ」


 ティルも引き下がらない。なぜこんなにも強気なのか。この男は本気でこの宝石をエリーに買わせるつもりなのだろうか。


「こっちも商売なんでね」

「商売……だったら、それこそ、こんな無茶な額を客に提示したりしないでしょう。さては、おじさん、私達をはめようとしたんでしょう?」


 ギクリと男は肩を震わせた。


「エリー、あんただって一応、身形が良い騎士じゃない? それに私も神女(みこ)だし、騙されると、そう踏んだわけだ。まあ、この国の相場も知らない外人さんなんかは、もしかしたら引っ掛かってくれるかもしれないしね」

「――何が言いたいんだ? ティル」

「分からない?」

「何のことだ? 大体、この町の財源は、外国人とか、旅の行商人がもたらしているんだろう? 法外に値が吊り上がっていたっておかしくないじゃないか」

「そりゃあ、サンセクトは貿易港として有名だし、そういう店がたくさんあるでしょうよ。でも、この吊り上げ方は尋常じゃない。保身を考えているのなら、もう少し考えるものだよ。ねえ、おじさん一体何があるっていうの?」

「――仕方がないんだ」


 弱々しく男は頭を振った。


「生きていくには仕方ないのよ」


 隣で怪しげな香水を売っていた女性も、相槌を打って話に割り込んできた。衣服は粗末で、顔色も悪い。満足な生活を送っているようには見えなかった。


「どうして? この町は栄えているじゃないか?」


 エリーには謎だった。

 国際色豊かな港町。人通りも多く、賑やかな町は、城下町とひけをとらない活気に満ちている。この町で暮らしていくのに、何の憂いがあるというのだろうか。

 エリーの育った故郷よりは、はるかに良い暮らしが出来ると思う。


「一体、何が生活を苦しくしているんだ?」


 苦々しくエリーが問いかけると、香水売りの女が答えた。


「国王が悪いのよ」

「そうだな。みんな国王のせいだ。無駄に反乱なんぞ起こしやがって」


 宝石売りも同じ意見だった。


「どういう意味だ。それは?」


 エリーが俄かに怒気を孕ませて近づくと、男女はさっと、視線を地面に落とした。


「騎士なんかには、分かるはずもないわよね」

「まさかあんた国王の騎士なんかじゃないだろうな?」

「待って!」


 エリーに向かい始めた非難をかわすように、ティルが言った。


「やっぱり、その首飾り買うよ。その値段で。御代はこの騎士様が出してくれるそうだよ」

「ティル!?」


 驚きと、怒りで目を丸くしていると、いかにも企んでいる顔で、ティルは囁いた。


「ここで、あんたの評判をあげれば、後々国王の評判も少しは良くなる」


 そう言われるとエリーも弱い。手持ちの有り金、ほとんど使うことになりそうだが、仕方なかった。


「――で、この町の税金とかってどうなっているわけ?」


 うろたえる三人に対して、ティルは笑顔で問いかけた。

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