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若きゲームクリエイターの苦悩

作者: 安西雄治

※短編の課題文より


「風邪を引いたかもしれない」

 寒い。寒気がする。身体に違和感がある。むくっと起き上がるが、まだ意識はうすらぼんやりとしている。

 気持ちが悪いというか、具合が悪い。部屋が寒いのではなく、内側からの寒気と、喉元のいがらっぽさ。これはアレだ、風邪の初期症状だ。……確信はないが。

 こういう場合に備えて、デスクの引き出しには市販の風邪薬が常備薬として備えられていた。ご丁寧なことだ。って言っても自分で用意したものなんだけど。

 今の仕事は、体調を崩したりなんてことは日常茶飯事だった。連日連夜の徹夜と泊まり込みの仕事。最後に家に帰ったのはいつなのか完全に覚えていない。季節が一周する程ではなかったと思うが。

 賃貸マンションを借りていてもほとんど意味がなく、住所不定にならないために形式的に借りているようなもの。デスクの下に潜り込むように、オフィスの床に直にマットレスを敷き、申し訳程度にタオルケットをかけて眠っていた。会社で寝泊まりするときはいつもやっていることだ。

 これらを片付けて、中途半端になっている仕事を再開する。

 PCを立ち上げ、まずは右下の時計を見る。起きてすぐは、朝なのか夜なのか時間の感覚すら麻痺してしまってわからない。開発が追い込みの時は、オフィスは休みなく24時間フル稼働で動く。電気はつけっぱなしだし、同じように自分のスペースで寝泊まりしている人も大勢いる。太陽の光を浴びたりもしない。まるで人間の生活ではない。

 つぎに、メールチェック。寝ている間の進捗状況や個人宛ての連絡事項が来ていないか見る。……まあ、俺みたいな下っ端には、そうそう重要なものが来るはずもなく、あれをやれこれをやれという仕様書や指示書ぐらいしか来ない。そしていよいよ開発ツールを起動して、開発作業に入る。

 ゲーム開発――世間的には夢であり憧れの職業の一つなのだろう。自称“クリエイター”(笑)が、アイドル気取りでWeb記事やゲーム雑誌のインタビュー、はたまた最近ではネットの生放送に出演して世間を闊歩する。なんかそんな華やかでどこか浮世離れしていて、才能だけがひとり歩きしているような世界。

 その実態は、現実は、かくも厳しい。一日中パソコンに向かって、数字やアルゴリズムの入力に追われていく。日々の地道な、血の滲むような努力の積み重ねがゲーム開発者の実体だ。

 一つだけ浮世離れしてるっちゃしてる部分はある。それは労働条件がありえないほど悪い。ひどいということ。この業界に入ってくる人は、ゲームが好きで好きでしょうがない奴と、ゲームを作るしか生きるすべのないような変人ばかり。だから、そういう人たちは労働環境が悪いから改善しよう!!とか、団結することもなく、ただ現状に甘んじている。

 労働法を律儀に守っていたら、今のゲーム業界は成り立っていないと言っても言い過ぎではない。ゲームソフトの価格もそうだし、開発期間にしたってそうだ。この仕事。徹夜や泊まり込み、そしてサビ残は当たり前。

 まあそれでも、俺のいる会社は腐っても大手企業。おおっぴらに『労基無視してます』は通用しない。会社に泊まりこんでることとかは外には言ってはいけないようになっている。最近は、メディアの取材とかも多いから、上から“生々しい姿を見せないように”と言われている。デスクを整理整頓しておいたり、服装や髪型など身ぎれいにしておかなければならない。毎日栄養ドリンク飲んで、黄色い目をして『ロクに家に帰ってません』みたいな雰囲気は消せとお達しがある。

 こんなことでいいのかゲーム業界。五年先、十年先も同じことを続けるつもりか!?

「エイちゃんさあ」

 黙々とPCに向かって、開発ツールと数字の格闘を繰り返していると、突然ブースに入ってきて声をかけられた。

「僕のゲームに半角カナは使っちゃダメなんだよ。美しくない。それにこれはウチの会社の看板作品だよ? そこんとこわかってる?」

 野口だ。野口がやってきた。クリエイティブプロデューサーとかいう、他社にはない勝手な役職を創造して好き勝手やっている野口哲夫という男だ。簡単に言うなら、今作ってるゲームの製作総指揮というか、監督みたいなもの。

「半角カナにしないとヘルプメッセージに入りきらなかったんです」

「だけど半角カナは、ダメ」

「じゃあ、固有名称やめて普通に“ゾンビ”にしませんか」

「うーん……エイちゃんさあ、“ゾンビ”じゃ余りに平凡じゃない? 何かビビっと来ないんだよね。ユーザーは常にエキセントリックなものを求めているんだよね」

「でもこれだとあらゆる部分で文字数制限にかかりますよ」

「それをさあ、なんとかするのがエイちゃんの仕事でしょ?」

 野口は言うだけ言って、足早に去って行ってしまった。こんな無茶ぶりはいつものことだ。社会というものは努力より結果が最優先される。稼ぐ男が何より評価される。極端な話、黙って椅子に座って左うちわを仰いでいるだけでも稼げるのなら、それだけで価値を持つ。人より何十倍頑張っても、金にならなかったら見向きもされない。これはゲーム業界だけに限った話ではないだろうが。

 で、あの野口とかいう男は、今の会社がまだ小さかった頃に入社して、看板作品に参加してたことでこのポストを牛耳っている。最初は気持ち悪い敵クリーチャーの絵を描いてて、その後、メインキャラクターデザインを担当して一気に有名になった。画力は、有名な割には大したことはない。だけど、野口がデザインした――本人も大好きな――シルバーアクセをジャラジャラ盛ったイケメンホスト風キャラクターたち。これが――誰に支持されてるのかわからないが――人気でお金を生む。キャラクター人気に乗っかってフィギュアやら、スピンオフ作品やらが企画され、金が金を呼ぶ。つまり、会社的には大貢献した人物として高く評価される。

 会社としては『野口の言葉は正しい言葉』とされている。彼のセンスや創造性は利益を生む。だから何をしてもいい。まったくうらやましいことだ。

 俺はこの会社に入社して以来十年間、ずっと野口のチームで働いてきた。本当にこの男は汚い。ネットでもまことしやかにささやかれているが、みんなが思っている以上に汚い。

 他人に書かせた絵を自分が書いたものとして社外に公表する。インタビューやネット番組に出た時は、自分が関わった作品で、やってもいないことをさもやったかのように発言する。しかも許せないのは、いかにも苦労しましたみたいな演技や即興の作り話がすさまじくうまいということだ。――あれでは、視聴者や記者もまんまと騙されることと思う。

 今の野口は、口ばっかりでなんにも働いてない。たまに気が向いた時に絵を描いてて、あとは寝てるか、暇な時は開発ブースを歩きまわり、さっきみたいに思いつきを口出しするだけ。

 感心してしまうのは全体会議の時だ。よくもまあ中学生が思いつきそうな造語や空想をあれだけ考えつくもんだと、野口ももう50前のいい中年のおやじだというのに、あの研ぎ澄まされた感性が天賦の才能とでも言うのだろうか。とてもじゃないが真似できないし、真似したくない。やっぱり、中学生が思いつきそうなというところがヒットするポイントなのだろうか。世の中ってのは本当にわからない。

 この前のダメ出しはもっとひどかった。

『エイちゃんさあ』

 これは野口の口ぐせ。この言葉を聞くと、背筋がピンとする。なんぞ来るぞと身構えてしまう。信号が赤になったような感覚。

『ボクのゼクティスは最強のダーク・ヒーローなんだよね。それは、主人公に相対する最高の好敵手(ライバル)なんだよね。

わかる? だからイベントで戦うことになっても、その圧倒されるような強さとかさ、禍々しさってのをしっかり表現してくれないと困るんだよね』

 これ以上強くしてしまったら、一般プレイヤーが勝てないんだけど……。この野口のおっさんは、まだ強くしろと言う……。負けバトルならいいんだけど、話の流れ的には、プレイヤーに勝たせなきゃいけない。アンタの中では、このキャラが負ける醜態を晒すなんてありえないって拘りがあるからこそなんだろうけど、そんなこと言ってたら、“ゲーム”は作れない。ここまでいくともうただの子供の駄々っ子でしかないだろ……。

 いけないいけない。野口のことを考えると、嫌なことばかり思い出す。……というか嫌な出来事しか無いように思われる。毎日、終わりの見えないゲーム開発に忙しく取り組んでいると、あの時自分は何をしてたのかとか時系列で振り返っても思い出せなかったりする。そういう物覚えは結構いい方だと言う自信はあったのだけど。ゲーム屋になって働き出してから、何歳の何月になにやってたか、3年前の年越しの瞬間とか、部分的に思い出そうとしても思い出せなくなっている。学生の頃は、何月何日にどこで何をしたとか、そういうこと鮮明に覚えていることが出来たのに、なぜだろう。

 ……ダメだ。しばらくPCモニターに向かっていつも通り仕事をしていたが、ズキズキと頭の痛みが無視できないほどひどくなってきた。熱でも出てきたのかもしれない。喉の痛みも強くなってきて、咳の回数も増えてきた。他の人に移さないようにマスクをする。

 シナリオセクションから上がってきたシナリオをツールにコピペして実装する。。俺の今やってる仕事は、クエストのメニューを開いた時に表示される、シナリオの要約文(あらすじ)と、やるべきことの案内テキストの作成。ちょうどその作業をやっている時だった。例の文字数オーバーでやむなく半角カナにしたテキストが目に入った。

 俺は深くため息を付いた。基幹システム担当の人とこの件の話をしなければならなかった。しかし、風邪がひどくなってきてすこぶる具合が悪い。市販の風邪薬ではしのげないかもしれない。

 システム担当の人に半角カナのことをメールに書いて送った。そして、俺の直下の上司、イベントセクションのリーダーにもメールで『風邪で仕事にならないです。帰っていいですか』という文面を出した。追い込みで超絶忙しい時期だから、結構まずいかもしれない。おそらく帰宅許可は降りないだろう。泊まり込みながら騙し騙しやってくれって話になると思う。俺はぐったりと疲弊した身体をかばうために、マットレスを敷いて横になった。

 そうして眠ろうと思うのだが、ふと考えた。

 いったい自分は何をしているのだろうと思う。ゲーム会社に就職してもう十年。未だに末端の一作業員として働いている。上からの指示を、言われるがままに入力するだけのただの操り人形。自分の意志を介在させても、上司や野口が『これじゃダメ』と言って、NGを出す。だから、言われたとおりにやるしかない。これならバイトがやればいい。学生のアルバイトでも十分だ。こんなことをやるためにゲーム屋になったわけじゃない。

 他に俺と似たような境遇で、不満を抱えている人は当然いて。激務に耐え切れず体を壊してゲーム業界自体を引退する人もいれば、今の開発体制が嫌で気の合う人たちで集まって独立したりする。実は自分も何度か誘われたことはあるのだが……。

 独立して会社を設立してうまくいったケースはほんの一握り。ああいうのをみてると、会社を経営するということがいかに大変なことというのが痛いほどよく分かる。広いようで狭いゲーム業界。会社を作ったって仕事があるわけがなく、軌道に乗せられなかった場合、最終的にはコネで元いた会社から仕事を貰いに行ってという情けないパターンが待っている。アウトソーシングで仕事を請け負うから、社員の頃より待遇が悪くなるし、つぎまた仕事を振ってもらえるかもわからない不安定な立場。それなら辞めなかったほうがいいじゃんって話になる。

 こんな腐った体質でもいちおう大手企業。コンシューマーの据え置きゲーム、しかも注目される大作ソフトの開発をずっとやらせてもらっている。これは、すごく恵まれた環境ということも自覚している。売れることがわかっているから損益分岐点を心配する必要がない。会社も強気になって、豊富な資金と人材を提供してくれる。この環境は、ゲーム開発者ならうらやましいと思う恵まれたもの。だが、でかいプロジェクトになると、ゲームの内容や方向性を決めるのは、上の人間の仕事。下々の者は、決められた、それを実現するための膨大な作業を、ただ黙ってこなすだけの機械人形。

 こういう大作ゲームって、少なからず『つまんねえよな』って声がかならず出る。注目されてるからというだけじゃなくて、そんな感想が出るのは当然のことだなあと思う。何をいいたいのかというと、作っている当人も、つまんないなと思って実装しているんだもの。

 ゲーム会社だってしょせん縦割り社会。上司に向かって「これつまんないですよ」なんて言えますか?末端の一作業員に、そんな権限あるわけない。大勢の人間が関わっていて、何か一つゲームを実装するにしても、それ一つに対して膨大なコスト――時間と労働力がつぎ込まれている。仮に実装されたものの出来が悪くて、ヒラの社員が、『つまんないから直しましょう』という率直な感想なんか、そんなこと口が裂けても言えない。

 いまおかれている状態と似た話を、正月休みで実家に帰省していた時、たまたまテレビで見たことがある。野球選手で、伝説級のパワーヒッターが、子供の頃にあこがれてた球団に入りたくて、ついに移籍の夢が叶う。しかし、球団が期待するほどの活躍ができず、ズルズルと契約期間だけが過ぎていき、契約更新の時期に冷たく解雇通告がくだされ、その球団との縁があっけないほど簡単に切れるのだ。地元の球団で活躍した名声と富を周りに惜しまれながらも全て捨て、代わりにその名誉を使って、あこがれの球団に入るも、それは彼にとっての本当の幸せではなかった……という話。

 では、このエピソードから、自分が取るべき行動は?それがわからなかった。なにせ、似ている話だが、微妙な所で、それも肝心なところが、今の自分と大きく異なっていた。ただ、今の会社にそのまま居続けることが真の幸せではないことは、薄々感づいていた。

 中学の同窓会――というほど仰々しいものではないが、5,6人集まった飲み会――に出席した時、今のゲーム会社に入っているという話をしたら、みんなが『凄い』とか『そのゲームやったことある!!』とか、うらやましがられた。――ただし、末端の一作業員という冷たい現実を明かすことはしない。

 このとき、他の人の進路も聞いたが、衝撃的だったのは、優等生の平川だった。メガネの平川と言われていた。俺が全力出しきってもテストですべての教科で勝てなかったほど、何やらせても上手にこなしちまうヤツ。そんな奴が、かならずクラスの中に一人二人いたと思うが……。

 田舎の僻地で夢だったらしい学校の先生をしているとの事だった。それを聞いた時、俺は理解できなかったし許せなかった。学校の先生はまあいい。それ自体は本人の希望の夢だったのだから。あれだけ、テストの点で軽く高得点をとれるやつが、なぜわざわざ田舎の僻地の冴えない学校で教師やってんだって話だ。そこは普通、都会のでかい学校で、バリバリ才能を発揮しているところだろう!!とひどく憤ったのだった。――だいぶ深酔いしたから、もしかしたらここまで失礼なことを本人にぶちまけた可能性があるが、俺は覚えてない。

 ただ、平川の選択が正しかったことは、今になってしみじみと実感していた。生きる上で本当の幸せとは?デキる平川は、そこら辺も熟知しているのだった。意識してそう行動したっていうのではなく、感覚的に動いたってことなのだろうが。

 でかい会社入って、デカイことやって、あぶく銭稼いで、という世間的にかっこいい路線を目指したって、幸せはつかめないということだ。そんな幸せは、世間が勝手に決めていることで、絵に描いたような偶像の幸せを追い求めて俺は生きてきただけだった。こいつには本当に頭が上がらない。

 ――スマホのゲームもいいぞ。同期のやつがこの前言っていた。今は別の会社でスマホのソーシャルゲームをやってる。スタミナ消費してガチャってカード集める良くある基本プレイ無料のスマホアプリのゲームだ。『こっちの世界に来い』と何度も誘ってくれている。だがどうしても、あっちの世界に行く気が起きない。なんだろう、ああいうのをゲームじゃない!!と差別するつもりは全くなく。ゲーム屋やってると、作り手の事情が嫌でも透けて見えてきてしまい、無碍にけなしたり存在自体を否定することが出来なくなっている。

 ただ、やっぱりなんか違うのだ。パッケージのゲームは、お金を払って映画館に映画を見に行くようなものなのに対し、アレは、ああいう基本プレイ無料のゲームというのは、こう、いい例えが出てこないのだが……。そう、なんというか、その映画を自宅で、動画サイトに違法アップロードされたのを無料で見るような感じ。ゆったりした映画館のスペースで、真っ暗の部屋の中、巨大スクリーンに映し出される映像。豪華な音響設備。それらが揃って、映画は初めて成立する。

 基本プレイ無料のゲームは、採算を取るためにプレイヤーをつなぎとめたり、お金を払ってもらうための工夫がされていて、それを優先していて、せざるを得なくて、そのためにゲームの面白さを感じるための大事な要素をしぶしぶ犠牲にしている。

 無料で遊べるんだから、それぐらいの犠牲は仕方ないと思うし、時代の流れもあるんだってことも重々承知してる。コンシューマーのパッケージフルプライスのゲームは、店頭で値引きされても7000円以上。いっぽう、開発ツールも充実してきて、フリーの同人ゲームでもクオリティーの高い作品がすごい勢いで増殖してきてる。それらは無料で遊べるのが殆どで、有料でも2000円以内で売られている。法人で出してるスマホの売り切り型ゲームの相場だって高くて3000円。ほとんど1000円から2000円の世界。

 俺達が若かった頃は、ゲームってもっと面白かったんだぜ?そんなことを伝えたくて、それに一番近い環境にしがみついている。

 時代補正、思い出補正、大いに結構。昔はゲームに人生を狂わされるぐらいゲームってすごかったんだぜ?今みたいにスタミナ使ってちょっとずつ遊ぶような暇つぶしにやるようなもんじゃなかったんだぜ?

 それを今の俺達が語り継いでいかなければならない。そうしないと、ゲームという文化は衰退して消滅していってしまう。そんな気がしてならないのだ。なのに、何をやってるんだ俺は。

 今のゲーム開発者――スマホ畑で働いてる奴らもみんな。おそらくそんな野心を持ってる。ってきっと信じている。そんなアホでマヌケなオヤジやジジイがゲーム作ってるんだから。

 だけど、この道に入ってきても、現実に直面して若くして情熱をなくして去っていくものも多かった。入るのが大変なうちの会社に苦労して入ってきても、末端の一作業員の実態に幻滅して辞めていく。

 それだけじゃない。いまのゲーム開発は、1本作るのに早くても二年、三年かかるのが普通。マンパワーでシステム使い回ししまくりのごり押しでやっと一年という所。

 同じゲームを何年も作り続けてると、何が楽しいのか、正しいのかわからなくなってくる。最悪、ゲームへの情熱を失う。かくいう自分も、そのような状態になり始めてる。いや、かなり前から、そうなってしまっている気がする。十年ゲーム屋やってても、メインで関わってたのは今ので四本目。途中ヘルプに入ったりもしたから実本数はもうちょっと多いけど、少ないなあって思う。

 ……そんなことを考えながら、横になってかれこれ何分経過したのか。困ったことに眠ることが出来なかった。何度も、右に左に寝返りをうつ。なのにちっとも深い眠りは訪れてくれなかった。

 しょうがないので、バッグを手繰り寄せて、中に入っている私物のノートPCを取り出し、床において電源を入れた。――就業時間中にこんなことをやりはじめると、もはやただのサボりだが一々周りを気にするのはやめた。この中には、若い頃に『RPGツクレール』を使って作った、いわゆる“黒歴史RPG”が入っている。

『バーストガール ~悪魔から聖天使を救え!!~』

 悪魔にとりつかれた13人の聖天使を救うために、悪魔の苦手なもので少女の苦手な部位を攻撃するという若気の至りでおもいっきり突っ走ったバカゲーである。当時はこれでも結構大真面目に作っていたはず。ボス(聖天使)のバトルボイスと、救った後に起こる宿屋でのお礼イベント――という名のスケベイベント――のイベントボイスのアクターをネットで募集するぐらい変な方向に気合が入ってた。動画サイトが主催する自作ゲームフェスに面白半分に応募したら、なんと特別賞をもらったのであった。

 その後、これが縁でとあるゲーム制作のサークルに入れてもらい、共同でいくつかのゲームを作っていく。

 この頃は本当にゲームを作るのを楽しんでいた。マップ、パラメータ、イベントを自らの手で作っていた。身も心も“クリエイター”そのものだった。一人で作るのも楽しいが、何人かで分担して作るのはもっと楽しかった。そして自分の作ったゲームのダウンロード数が一週間に10増えるだけでも狂喜乱舞したものだった。

 人生の絶頂だった10代後半の自分に『ゲーム会社へは入るな』なんて言ったらどう思うんだろう。何言ってるんだこいつって思うんだろうか。だって俺からゲームを取ったら何もなくなるのだ。作ることも遊ぶことも、それが人生の全てだった。

 営業部や総務部を覗いたことがあるが、自分にはああいう部署で一日潰して働くのは無理という結論だった。定時に帰れて残業もほとんどないのだろうが、なにより一般的な社会人を演じるのは俺には出来そうになかった。

 過去の栄光を振り返りながら、自分の作ったゲームを適当にいじくっていると、次第に意識が遠のいていった。

太宰治「女生徒」読みました。


また好き放題書いてしまいました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 真に迫ってて深い気がします 上手いこと言えなくて、すいません
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