“消せない記憶弐”
“消せない記憶弐”
……今さらだが、当然のように私の子どもであるこの装置にも名前というものがある。
〔E〕
総称というものがあった方が実は書きやすいという以外、特にあまり深~い意味は無い……たぶん。
もう時間が無い。今なら未だ侵されてはいない、だが、いつまでそのままの状態を保てるものか。希望というものが絶望へと変換される、そう運命のいたずらみたいなものが迫っているのを私は肌で感じつつある。それでも、やはりこのままEを作動させるわけにはいかない。どうでもいい輩の嫉妬、妬み、僻み、被害妄想云々から阻まれたまま作動させれば、おそらく何かしらを見落としてしまうだろう。
そうすれば、昨日、いいや。
ほんの1時間前までは完璧で明後日にはまともに作動出来たものでさえ、誤作動がおきたとしてもなんら不思議ではない。
そんな私たちの手がけたEが、わけのわからない病気〔かも〕しれない状態にだ?、かけがえのない助手のリューを生贄になどどうして出来ようか。
できるわけがない。
“おっさん、話し出すと長いっす”
“まって?まじでこの人が空世の創設者なわけ?”
*“正確には、私を含む、だ”
“で。そのリューさん、が自らEの実験台になった、でOK?”
*“ま、まぁそんなところだ”
“けど普通に今も空世存続しているじゃん、何がまずかったのさ?”
*“今の空世ではそういう問題は起こらない。研究に研究を重ねたからね。ただ。あの日の誤作動は、リューの肉体だけではなく何かに対する感情というものさえも分離させてしまったんだ……原因は未だわかっていないのだよ”
“ぇ?なんか問題あるの?俺は感情なんかないほうがいいと思ったことが腐るほどあるわ”
*“……それは個人の感覚だろう、それ自体は些細な問題ではあるが大きな問題ではない”
“というと?”
*“分離されたまま、戻ることも出来ず行き場を失ったリューの感情は、通電できるものを足とし未だに行き先さえつかめていない”
“なにそれ……感情のひとり歩きってこと?なにそれ;ちょっとオカルト”
“けど、それってなんかたとえばさ?リューさんが愛に満ち溢れている人だとしたら、世が平和になる可能性もあるんじゃね?通電なんて……人同士の静電気だってあるのに”
“え”
“ぇえ……?”
“ないだろ;ひとりの愛が世界を救うって?なんのドラマだよ;”
“で、リューさんは今、何やっているの?”
*“問題なく暮らしている。空世として、研究員としても、な”
“じゃ、いいんじゃね?まんま、空世じゃん”
*“……そうだな、あいつが何をどう考え感じていたのか……今となっては、もう何を云っても私の陶酔用語でしかない……不思議なもので、”
“……それって、もう人じゃないわけか、、、”
圧迫と激痛にも似た虚ろな意識の中で、ただ、耳を澄ませていた僕は……寝たフリをやめ声を発した。
“……キミは……。不思議なものでね、理想に近づこうとすればするほど……遠ざかっていくものなんだ、それが大人の世界だ”
“う、つ、つ……Jさん、次は加減してください。ここ、痣ですよ、もう”
僕は鳩尾を押さえながら起き上がり、Jさんのほうを醒めた目で見た。そして、今や謎でもなんでもない、僕らよりちょっとばかり先に生まれただけの存在である、未だ姿を見せない自称普通世相手になにかできることはあるのか……。




