“忘却の輪弐”
“忘却の輪弐”
認めたくない格好の悪さをさらしたけれど、それを考えないように僕が今をこうして立っていられるということ。それは皆が気付いていないからなのか……それともフリをしてくれている優しさなのか判らないけれど。……どんなときでもヒトは自分の足で自ら歩かなきゃならないらしいから……なのかもしれない。立ち止まってもいいんだ、そう云ってくれるヒトも居るだろう。けれど基本、僕は妄想癖人やらの血の鎖という名で面倒くささを断ち切れない性分だから……止めてしまえばそれっきりになりそうなのが怖いんだと思う。とはいえ、こうして普通に何もなかったかのように皆と話している自分にもちょっとびっくりしているのだけれど。
“キミも10分くらいしか寝ていないのかね?”
……ぇえっと。
“僕の感覚ではかなり寝たような気がしているので……な、なんとも;”
“そうなのか……時間というものの概念はむつかしいねぇ”
本当はブリヂットという単語が気になって、なんて云えやしない。しかも、ブリヂット=リューさんだろうとは……い、いや、まだ、確定ではないし、同じブリヂットなら他にもいるかもしれないし。とは考えるけれど、声はおそらくおっさん……おじさまだし。こんな偶然はそうそうないだろうとも思う。
“それでだな、御手洗くん”
『なんでしょう、BOSS』
“これからのことなんだがね”
『YES,BOSS』
“振り出しに戻った気分でね”
“わりと有意義に過ごせたよな”
“ぇ。そんなNさん、有意義になんて呑気な;……実際2時間くらいしか経っていないのに1日以上の感覚あるからまぁそうだけど”
“J氏、ここは帰りましょうよ。1,2時間しか経ってないからかもしれないけれどなんかどこも何も変わってない感じじゃないっすか。空世はあれっきりのようだし、おっさんはリューさん大好きないたずら好き普通世でさ”
“そうだよな、今は時間軸云々はおいて現状把握をするためにも帰りましょ”
“わ、私も除菌ウエットないし、”
『こちらを緊急用としてお使いください』
“い、いいの?、あ、ありがとう、感謝します……一応訊いてみるけれど、手を洗える場所はない?”
読めるという御手洗くんは、きっと用意できているのだろう。以前のテラノの時のように、妙な涙避けを一瞬で作り出したのだから。それを敢えて云わないのも優しさ?の1つなのかもしれない。以前、地世の能力に関るような話をしたときに、長老はその能力を妨げるようなことはたとえそれが種族にとって害悪なものだとしても敢えてしない、というようなことを云ってたような?気がする。……差し出される手を期待して、いずれそれ故に自ら何もしなくなってしまうということになるのは、おそらく普通世の存続に関ることかもしれない配慮から……だろうか……。
『どうぞ、こちらへ』
“これは素晴らしい、すごいよ、御手洗くん。……ありがとう、本当にありがとう、”
地世と空世との違い、、、か。
『いえいえ、礼には及びません。今、普通世の皆さまは自宅待機の最中、私どもはあまり関与できません。ですので、節約を心がけていただければ幸いです』
“うん、うん。努力します”
……ぇ、努力って、KKさん大丈夫だろうか……?
『ちなみに……使用開始から10分少々で消滅してしまう作りとなっておりますのであしからず』
で、ですよね……。けれど、そんな御手洗くんの説明をまったくきいていない様子で手を洗い続けは拭き、水を止め栓をそこを除菌ウエットで拭き、また水を出し手を洗い……そんなことを繰り返すいつもと変わらない彼の姿がそこにあった。




