心構え編 葵&楓の場合
ささやかなる僕のお願いの葵と楓の場合
「バレンタインに何かしてって言われても…」
「確かにね」
私達は互いの顔を見合わせる。私達にとっては初めての恋人としてのバレンタインだ。
出来れば…公表することなくひっそりと終わらせたかったんだけども…そうは問屋がおろさないらしい。
「どうしましょうか…ね。とりあえず学校があるわけだから」
「学校はサボれないな。だとしたら放課後か。少しだけ期待しても…いい?」
葵君は少しはにかんだ表情で私を見ている。
「少しじゃなくっていいです。放課後、着替えてから楓君に会いたいんだけども…」
「分かった。それじゃあ、決まりな」
葵君は、ホワイトボードに16時~17時の所に私達の名前を書き込んだ。
「すみません、この時間…頂きます。帰るよ。楓」
葵君は私の手を引いて会議室から出ていく。
「いいのかなぁ?」
「大丈夫でしょ?中には一緒に暮らしている人もいるみだいだし。俺達は高校生なんだから、少しは気を利かせてもらいましょ」
「そうだね、葵君って…苦手なものあるの?」
「そうだなぁ…レーズンチョコは苦手かな」
「多分…そんなマニアックなものは用意しないから。頑張って作るね」
「えっ?作ってくれるの?」
葵君は目を輝かせて私を見ている。えっ?手作りって所に食いつくものな訳?
「…買った方がいい?それもそうだよね」
私は入らぬ考えかもしれないけど、買った方がいいかと聞いてみることにした。
「違うって。楓の作ってくれるって所がすっごく嬉しいの。分からない?」
「でも…男の子って手作りが重いって言う人がいるって言うし…」
「それは彼女じゃない子からでしょう?彼女なんだからもっと自信を持って」
葵君は私の握っている手に少しだけ力を入れた。
そっか…私…彼女なんだよね。だったら…いいんだ。何にしようかな。
「楽しみにしててね。私頑張るから」
「楓…お願いがあるんだ」
「いいよ。何?葵君?」
「あのね、義理チョコはスーパーで買ってね。手作りは俺だけにして?」
葵君のおねだりは良くあることだけども、今日のおねだりはあまりにもかわいくてくすぐったい。
「ヤキモチさん。義理チョコは部活の顧問だけしかあげないよ」
「なぁんだ。良かった。ねぇ…俺の事、かわいいとか思ったでしょ?」
葵君の鋭い突っ込みに私はぎくりとするけれども、笑顔を張り付けて答えることにした。
「いいじゃない。どんな葵君も…大好きだよ」
「楓!!ソレ!!反則だから」
私はすかさず葵君の頬に唇を当ててから、走り出した。すぐに捕まってしまうのも癪じゃない?
一瞬フリーズした彼に再び捕まってしまうのはそれから2分した後の話。
ちゃっかりと時間を指定しちゃいましたね。
その後の会議室が大変なことになったのは言うまでもありません。
案外強かな葵なのでした。楓…頑張れ。